僕の最も苦手とする夏がやってきた。
昼間はほとんど頭も働かず、白日夢状態である。眼の焦点も定まらず、若年性アルツハイマーになったのではないかとさえ思うほど。
日差しが弱くなる夕方か夜になってようやく外に出るありさま。
まるで夜光虫のようだ。
今日あたりから我慢してきた冷房をつけざるを得ない。
あぁ、夏だけでもカナダとかアラスカで過ごすことはできないだろうか。
彼の地であれば、夏でも冷房いらず、ずっと長そでのシャツ1枚で過ごせるし、日本のようにじめじめしていない。ちょうど向こうの夏は日本でいえば5月の上旬ぐらいの気候だろうか。
おまけに北半球の高いところにあるので、夏の日没は夜の10時ぐらい。アラスカならもっと遅いだろう。場所によっては一日中明るいところもあるだろう。なので一日を有効に使える。
自宅で仕事をしているので、そんな暮らしをやろうと思えばできるが、ペットがいるので…いっそペットも連れて行こうかな。
向こうで中古のキャンピングカーでも買って、それで移動しながら暮らすなんてのもいい。実際、向こうではそうやって移動しながら生活している人もいる。
向こうのキャンピングカーは日本で見かけるような小さいものではなく、バス1台分か電車1両分ぐらいの大きさなので、キッチンもあるし、シャワーもトイレもベッドルームもある。まさに動く家である。
そうやって仕事をしながらカナダやアラスカの大自然の写真をとりたい。星野さんのように。
もちろん銃の免許を取る必要はあるだろう。熊やクーガー(豹)、狼がいるから。星野さんのような最後は嫌だ。
僕は何度かカナダの山の中で釣りをしたことがあるが、岸からつったことはない。後ろから襲われる危険があるから。
いつもボートの上で釣りをし、昼食もボートの上で食べ、休憩もボートの上でとった。
ロッジにかえるときだけは一人で森の中を歩かざるを得なかった。もちろん、周りに細心の注意を払い、冷や汗をかきながら。
人の手がほとんど入っていない森の中を歩いたことがあるだろうか。想像以上にうっそうとしていて、はっきり言って薄気味悪い。生きて立っている木と、死んで倒れて朽ちかけている木がほぼ半々ぐらいなのだ…非常に独特の雰囲気を醸し出している。
あぁ、カナダに行きたい。とうていこの世のものとは思えないあの風景の中に入って行きたい。
時速100Km以上のスピードで運転していても、3~4時間はずっと同じ森の中を走っていて、そのかんほんの数回ほどしか対向車とすれ違わない、左右に立っている木は高さ40メートルはあろうかと思うほどの針葉樹林、そうかと思えば、広大にひらけた視界に入ってくるエメラルド色の湖や川、そんなところに入っていく感覚。
冬になれば、そういうところでエンジンが故障してそのまま凍死する人もいる。そんな世界。
まるで超巨大な屏風のようにハイウェイに沿ってそびえたつ断崖絶壁。それらの絶壁は標高2000メートルぐらいはゆうにあるだろう。その絶壁の底を切り刻むようにのびるハイウェイを何時間も走ったこともある。
できればそんなところで野垂れ死にたい、などという思いもよぎる。
僕は旅の途中で死にたかった芭蕉の気持ちがよくわかる。彼のようにまだ本気でそのような旅に出る覚悟はないけど。
ただ実際には大陸の自然の中で死ぬのは無理だろう。あまりにも周りの自然のスケールの大きさ、存在感が圧倒的すぎるからだ。それらへの畏怖の念が死への意思をしのいでしまうにちがいない。
空恐ろしくなるほど美しいあの大自然と再び対面したい…あぁ、カナダ。