気の向くまま足の向くまま

できうるかぎり人のためになることを発信していきたいと思っています。

己の影と戦う人間

2022-02-28 07:53:05 | 日記

 ついに始まってしまった。
毎日主にユーチューブでニュースを見ているが、あまりにも生々しい。
 僕も結構長く生きているが、今までの戦争は発展途上国同士か、どちらかが先進国でどちらかが発展途上国だった。が、今回は僕の人生で初めて報道で見る先進国同士の戦争である。

 吉川英治の作品で「宮本武蔵」というものがあった。そのなかで武蔵が確か(記憶があいまいなので間違っているかもしれない)槍で有名な宝蔵院に腕試しに入っていくシーンがあった。彼が宝蔵院?の境内を通っていく途中で畑で野良仕事をしている僧侶がいて、武蔵はその僧侶からものすごい殺気を感じさっと身構えるシーンがあった。
 それに気づいたその僧侶がなぜそんなに身構えるのかと武蔵に言うと、武蔵があなたから強い殺気を感じたからだと答えた。それに対してその僧侶は、それは私の殺気ではない、あなた自身の殺気が私に投影されて見えたのだ、あなたは自分自身の影におびえたのだ、と答えたシーンである。

 

 この一連のロシアと欧米のやり取りを見ていて僕はこのシーンのことをほぼ反射的に思い出した。
われわれ、いや少なくとも僕から見れば、たとえウクライナがNATOに加盟したとしてもNATO側から巨大な核保有国であるロシアに攻撃を仕掛けるなんてことは起こりえない、と考える。

 一方、欧米側だが、いまやイデオロギーの対立は終わり、また、通常戦力ではロシアに対して相当程度優位性を持つ欧米側(NATO側)にたいして、何の理由もなくロシアの側から攻撃してくる(つまり負けるとわかっている戦いを仕掛けるということ)ということは極めて起こりにくいと考える。それにもかかわらず、欧米側は軍事同盟であるNATOをこれでもかこれでもかとばかりに拡大し続けた。

 さらにこれらの推測を補強することとして、いま両者が保有する核兵器はこの地球を何度だか具体的な数字は忘れたが、破壊してもあまりある量であるという事実があり、それがさらに双方が自分の側から相手に直接戦争を仕掛けるということが極めて、極めて起こりにくいという現実をつくっている。つまり、直接戦争を開始したら、どちらにも勝者はなくこの世はほぼ石器時代に近いような状態に戻り、しかもきわめて強力かつ広範囲に放射能で自然環境は汚染され、そこで生育した食物を体内に入れざるを得ない生き残った人々はやがて癌などの病で死んでいく……という未来しかないということはわかっている。

 誰だか忘れたが、核戦争後に生き残った人類は生き残ったことを後悔するようになるだろう、というようなことを言っていたが、まさにそういう世界が現出するだろう。

 つまり、論理的に考えれば極めて起こりにくいことをロシアも欧米側も恐れ、「それに備えて」行動してきたわけだ。
もちろん「万が一」ということはある、あるからの軍備であり、核の保有であるというのはわかる。しかし、NATOの急速な拡大にしても、ロシアの今回のウクライナに対する侵攻にしても、あきらかにオーバーリアクションだろうというのが僕の率直な感想である。

 ここには論理や理性を越えた、おそらく人間の本質、本性にかかわる要素がかかわっている。
僕が心の底から欧米とロシア双方に失望したのは、そこを把握せずにただただ自らの影におびえて闘犬の犬のように吠え続けることしかしなかったことだ。僕が前回の記事でバイデンは狂ったのかと書いたのはそのことを言っている。唯一そのことに気づき絡んだ糸を解きほぐそうとしたのはフランスのマクロン大統領だけだった。しかし彼の努力も徒労に終わった……

 
 僕の想像通り、今回の侵攻を最も注視しているのは台湾と中国だった。特に台湾の感じている恐怖は僕らの想像を超えたものがあるのではないか。それと台湾だけでなく、韓国も同様の恐怖を感じているはずだと僕は想像する。今回の戦争から読み取れる教訓は、独裁的な体制を持つ好戦的な大国が近隣にあり、大国との軍事同盟を持たない中小国はウクライナと同じ運命をたどる危険性を持っているということだ。

 もしそれを回避しようと思ったら、直ちに大国と軍事同盟を結ぶか、それが不可能であれば核武装に踏み切るほかはないということである。それがわかっているからこそ北朝鮮やイスラエル、パキスタンは核武装したのであり、イランなども核武装を切望している。イランは大国と隣接してはいないが、隣のイラクやアフガニスタンがどうなったかを見れば、彼らが感じる恐怖というのも当然のごとく理解可能である。

 僕はこの戦争を機に、世界で核兵器の所有へ舵を切る国が増えるのではないかと危惧している。
僕がなぜアメリカが、この戦争が始まる前に真剣にロシアを思いとどまらせる努力をしなかったのかと考えた理由はここにもある。にもかかわらず、ただただ双方は闘犬場の犬のように吠え続けただけだった、唯一冷静だったマクロン大統領をのぞいて。


 今はまだウクライナ軍が英雄的な奮戦を見せて都市部をコントロールしているが、いったんそれが破られた場合、今度は凄惨極まりない市街戦が始まるだろう。市民も武装している以上、市民と軍人の区別のつかない状況ではその凄惨さは想像を超える……そうなるまえに停戦の合意ができることを願うばかりだ。

 こうなるまえにどうにかならなかったのか…と身がよじれるような思いでいる。

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気持ちの悪い危うさ

2022-02-01 09:14:11 | 日記

 

 

 

 

 遅まきながらあけましておめでとうございます。
新年早々ヨーロッパ(ウクライナ)では物騒な事態となっている。7年前ロシアがクリミアを併合した時にも書いたが、やはりNATOは拡大を急ぎすぎたと思う。NATOというのは軍事同盟だから、それを拡大するということはロシアを心理的に威圧し、追い詰めることになるということはだれでもわかる理屈である。

 窮鼠猫を噛むというが、そんな単純な理屈を理解もせずに、ソ連崩壊後の弱体化したロシアの隙をついてここぞとばかりにNATOを拡大した。拡大自体が悪いことだとは言わない、しかしそれをやるならそれと並行して、欧米はロシアとの親和感を高めなければいけなかった。その努力をほぼすることなく、ただ何とかの一つ覚えのように自らの軍事同盟だけを拡大していった。

 今、窮鼠猫を噛むと書いたが、ロシアはネズミではない。ソ連崩壊後弱体化したとはいえ、いまだにヨーロッパ最強の軍事力を持ち、その保有している核兵器の破壊力はすさまじい、おそらくこの地球の文明国を何度破壊してもあまりあるだけの核兵器を持っているだろう。それだけの力を持ったロシアを欧米はまるでチェスゲームのように心理的に追い詰めていった。

 

 チェスであれば勝てばそれでいい、相手は頭を掻いて「まいった」といって終わりである。
ところが現実の国家間ではそうはいかない。人間でもそうだが、心理的に徐々に追い詰めていった場合、ちょっとしたきっかけでぶちぎれて暴発し取り返しのつかない事態に発展することがある。国家を動かしているのも人間である。個人間で起こる心理は国家間でも同じように起こる。そしてそれが起こった場合…下手をすると人類滅亡という事態にならないとも限らない。国際社会関係でおこることの結果はチェスゲームで起こる結果とは全然違うのだ。
 

 

 それではプーチンでなくとも、心理的に追い詰められ過剰反応をするだろう。
ましてや、プーチンは目的のためには手段を択ばない冷血なマキャベリストである。現代の国際的な法秩序を無視するくらいのことは平気でやるだろう。
 しかも、僕が驚いたのは欧米はロシアとの交渉でロシアのあらゆる要求をすべて蹴ってしまったことだ。プーチン自身の言葉にあるように、西側はロシアの安全保障上の懸念をすべて無視したわけである。

 これはほとんど最後通牒に近い意味を持つ。やれるもんならやってみろ、とロシアに言ったようなものである。
ぼくは正直言って、バイデンは狂ったのかと思った。この紛争はウクライナ一国の紛争にとどまらない可能性がある。まかり間違えば、NATO(米国も含む)とロシアの直接戦闘になる可能性もある。

 ウクライナにNATOが入っていかなければたしかに戦争は拡大しないだろう。しかし、問題はそんなに単純ではない。黒海にはロシア海軍と西側の海軍の両方が存在している。今までも小さないさかいは起こってきているのに、ウクライナに侵攻となれば両方の海軍艦船がちょっとしたきっかけで直接戦闘状態に入る危険性がある。そうなれば、自国海軍を守るという名目で双方は空軍戦力も投入するだろうし、それは黒海領域にとどまらずウクライナやベラルーシ上空、さらには東ヨーロッパ全域に広がる可能性がある。そうなれば…World War IIIである。

 
 プーチンはこのまま軍を引けば、自国内で対面を失う。そしてそれは彼の政治力の低下と最悪の場合、失脚につながる。
 キューバ危機でも今回と同じようなことが起こったが、フルシチョフは引き下がった。引き下がらなければ核戦争は必至だったからだ。キューバに核兵器を配備することをあきらめさえすれば核戦争を避けられるのであれば、引き下がるだろう。

 ところが今回、逆の立場にある欧米は引き下がらないという道を選んだ。少なくとも今の段階では。
たしかに、ウクライナ一国がかりにロシアに占領されてもそれが直接は全面戦争にはつながらないかもしれない。上述したような偶発的な戦闘さえ起らないと仮定すれば。しかし、現実では何が起こってもおかしくない。欧米はそれだけの自制力を持っているという自信があるのだろうか。

 ウクライナは見捨てられた、というのが僕の印象だ。
プーチンの侵攻を止めさえすれば、たとえNATO加盟の可能性はつぶれても、欧米と共通の価値観を持つ民主主義国であるウクライナは残る。ところがロシアに占領されれば、ベラルーシのようなロシアの傀儡国家ができるだろう。欧米はNATO拡大のためにそんな未来を選ぶのか?それこそプーチンの思うつぼではないだろうか。


 戦略ゲームならロシアをつぶせばそれでゲームオーバーだ。
しかし、現実にはそれはできない。現代戦では核戦争に発展した段階で、「人類の」ゲームオーバーだからだ。この現実の真の目的は、戦争を起こすことなく、NATO対ロシアの対立関係そのものを終わらせることだ。それはロシアをチェスゲームのように追い詰めるやり方では絶対に達成できない。


 欧米がプーチンのすべての要求をけったことで、プーチンは引くに引けない状況に追い込まれた。
プーチンを引かせるにはなにがしかの譲歩を与える必要があるのではないか。なぜこんな状況になってもバイデンは自国にとどまって悠然と構えているのか。なぜ、ウクライナやロシアにいき直接説得しようとしないのか…彼は本当に大統領としての責任能力を持っているのか…とさえ思ってしまう。

 ここはウクライナにNATO加盟をあきらめさせる必要がある。永遠にとは言わない、何らかの期限付きでもいい。とにかく、プーチンに軍を引く口実を与えて、彼の体面をある程度保たせる必要があるのではないか。もちろん、これからそういう交渉に入っていく可能性はあるが。
 欧米は自分たちの通常戦力における優位性の上に過剰にあぐらをかいているのではないか。その通常戦力の優位性そのものがロシアを心理的に圧迫しているということに気づいているのだろうか。

 

 欧米は非常に危険な綱渡りをしている、と僕の目には映る。
日本ではコロナの話題が主流だが、ウクライナで起こっていることは他人事ではない。もし、ウクライナが簡単にロシアに占領されるということになれば、中国の台湾侵攻を心理的に誘発することになるだろう。対岸の火事ではないのだ。なぜ日本政府はウクライナに非常用の食料や難民化した場合の仮設テントなどを送らないのか。この点で、ウクライナに軍事援助を拒んでいるドイツに対しても苛立ちを感じる。ドイツのエネルギー事情を考慮したとしてもだ。

 

 プーチンはもとKGB(旧ソ連の諜報組織)出身者らしく、陰謀謀略にはたけていて、いままではそれらの策略が功を奏してきた。
しかし、今回は間違ったと思う。彼がもし優れた謀略家、戦術家であれば、有無を言わさずウクライナに侵攻していただろう。自国の軍の戦力や位置を相手に知らしめてから攻めるというのは愚策である。欧米は虚を突かれてウクライナが併合されたという既成事実を認めざるを得なかったはずだ。

 
 しかし、たぶん今回彼は見通しを誤ったように思う。
ウクライナ国境に軍事力を集めて、ウクライナや欧米に圧力をかけてNATO加盟をあきらめさせようとしたのだろう。が、彼自身もまさか欧米がこれほど強硬な態度をとるとは思っていなかった。それによって進むにも引くにもそうとうのリスクを負うことになってしまった。

 たとえ今から侵攻したとしても、すでにウクライナには欧米からの大量の軍事物資が届いていて、ロシア側にも相当の損害が出るだろう。楽勝とはいかないと思う。
彼は今後の交渉で欧米から妥協案を引き出せるのか、引き出せなければ…


 しかしながら、僕は正直言って、プーチンよりもバイデンの方に危うさを感じる、かれが本当に今回の事態の深刻さ危険性を正確に認識しているのか?という危うさだ。

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