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ソール・ライター展 完

2020-01-21 04:08:52 | 写真



 

 渋谷はBunkamuraで開催されているソウル・ライター展を見てきた。
一緒に行ったのはいつも美術展にはよく一緒に行く、自画像を描かせたら一流の友人である。
終わった後の感想を彼に聞いたら、さすがは彼だった、ソウル・ライターの構図の妙を見て取っていた。


 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば上の二つの写真などはその典型例である。主題であるはずの風景を大胆な切り取り方で極小化して、本来はわき役であるはずの傘や目の前の障害物を大胆に前面に浮き上がらせて主客の転倒をこころみている。さらに2枚のうちの上の写真は、赤という色を浮き上がらせて下の風景とともに強い存在感を持たせている。
 こういう構図の切り取り方は日本の浮世絵の画家がよく使った手法で、これをみて、やはり視覚芸術のセンスというものに国境も文化も関係ないのだなと思った。

 




 

 


 この写真などもまさに構図の妙をいかんなく発揮している写真だ。傘の大胆な切り取り方とその見事な配置の仕方。
そして本来なら主役であるはずのこのカップルを傘で隠すことによっておこる主客転倒の妙。さらにはいましがた恋人からもらった花束が語る物語、そして、見逃してはならないのがこの花の鮮烈な赤。全体の色が暗いので非常に引き立っている。
 これらのどれをとっても完成している。もしこれを偶然あるいているカップルを見て撮ったのだとしたら、まさに手練れの剣士並みの神業である。



 

 

 

 そして構図の妙といえばやはりこれも入るだろう。これは尼僧らしいが、大きく三角形に広がった黒いマントとその背景の白との対比、この背景はいわゆる白とびと言って写真の世界では避けなければいけないものとされている。だがライターにとってそんなことは全く関係ないかのようだ。
 ストリートフォトグラフィ(日本では一般にスナップ写真と言われているようだ)ではほんとに一瞬のチャンスをとらえなければならないので、白とびとか黒つぶれなんて気にしていられないし、実際この写真において一番大切なのは、このばっと風になびく三角形の黒と後ろの白との鮮やかな幾何学的、色彩的対比であり、色が飛んでいるとかつぶれているとかいうことはもはや枝葉末節であり無視していいことである。

 

 


 

 二人のスカートの上下の色がさかさまになっていてとてもおもしろい対比を構成している。
これがもし、彼女たちの頭部まで入った全体像だとこの色の対比のおもしろさから焦点がずれてしまい、何がテーマなのかあいまいなものになってしまう。腰から下を切り取ることによってその対比が強調されて写真としてとてもセンスのいい、粋なものになっている。

 

 

 

 

 


 そして彼の写真を特徴づけているもう一つの要素は幻想性だろうと思う。
上の写真なども多分雨と蒸気か霧のようなものがかかっていてその中にやはりここでも傘と女性のシルエットが浮き上がっていて、いかにも幻想的な雰囲気を生み出している。まるで絵画のような美しい写真だ。

 

 

 

 

 

 

 そしてこの写真も同様、おそらくはどこかカフェかレストランの中からガラス越しにとったものだろうが、この光景ををみて「あぁ、なんてきれいなんだろう!」と思う気持ち、それがうみだした一瞬のアートである。ストリートフォトグラフィーではこのように濡れたガラスや鏡を使った作品が多く、以前このブログで取り上げたヴィヴィアン・マイヤーなどもその手法の達人だったが、彼の場合、そこに幻想性というかロマンティシズムというか、そういうものを見出して表現する達人と言っていい。

 

 

 

 

 

 これなどもしかり。

 


 

 

 これも雨の日のガラス越しの光景。
幻想的であると同時に、僕などはなんともいえないノスタルジックなものを感じて、なにか記憶層の深~いところまではいっていくときのあの心地よさをあじあわせてくれる。

 

 

 

 

 

 

これなどはおそらくファッション雑誌のカメラマンだった時にとったものだと思うが、女性をダイレクトに写すのではなく,きれいな柄のついたガラス越しにとることによって生まれるなんとも言えない幻想性……

 

 

 

 

 これなどもわざと女性からピントを外し、なおかつガラス越しかガラスに反射させた顔をとることによってうまれる二重の幻想効果。お見事としか言いようがない。

 

 

 


 


 この写真などはもうファッション写真の域を越えてもう完全にアートと呼んでいいレベルに達している。これは幻想性というよりは装飾の美しさが引き立つが、顔を小さく配置し周りを取り巻く花の領域を大きくとることによって生まれる構図上の面白さも見逃せない。

 

 

 

 

 あと絶対に忘れてはならない彼の特徴は、「色」へのこだわりだろう。
この傘の赤……ちょっと言葉にするのは難しいのだが、構図の妙と相まって、周囲のモノトーンな色合いとの鮮烈なまでの対比。なんとも言いようのない味わいを醸し出している。

 

 

 

 

 

 僕らはこういう光景は実は普段無数に目にしているはず。でも、大部分の人々は気にも留めないだろうと思う。
しかし、この写真家はこういうものを宝石のように貴重なものと感じ、なおかつその美しさが最も洗練された構図に配置して瞬時に切り取る。この前面に出た赤とオレンジの美しさ、それが濡れたガラスに反射していることによって生まれる装飾的洗練と何度も述べてきた幻想性。
もはや多言はいらない、素晴らしいの一言。

コメント
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