アメリカに大変な大統領が登場してしまった…最近のニュースを見ていてそのことを強く実感している。
特にカナダ人の動揺を強く感じている。カナダとアメリカは大本では共通するルーツ(イギリス)を持ち、価値観も文化も非常によく似ている。よくアメリカとイギリスの同盟が世界で最も親密で強固な同盟といわれるが、その国の生い立ち、地理的な近さなどを考えるとカナダとアメリカの同盟はイギリスとアメリカの同盟よりも親密で強固なものだと僕は思う。
今起こっていることはそのほとんど血のつながった兄弟ともいえるこの両国の絆にくさびが撃ち込まれようとしているということだ。たぶん両国の歴史上はじめて。
トランプが25%の関税を課すと決めた理由が移民と麻薬の流入だということだが、これはおそらく口実でありその真意はカナダの豊富なオイルと天然資源であることは間違いないだろう。それが欲しいために何の関係もない関税をかけてカナダ国民の雇用を奪い、独立国の自治権を奪う、つまり併合する、(カナダのトルドー首相もそのことを明言している)こんなことを目指したアメリカ大統領はかつてなく、たぶんカナダ人自身も実際に目の前で起こっていることを当初は信じられない思いでいただろう。
カナダのメディアを見ているとこのトランプの動きを Economic war 経済戦争と表現している。実際、その国の統治権を奪うことを最終目的としているのだから軍事力を使わない戦争といっても全然大げさではない。
トランプがこれほど過激になった背景にはプーチンのウクライナ戦争があることもほぼ間違いなく、あいつがやるなら俺もやる的な感覚を彼の中に生み出した可能性がおおきくて、その暗く激しいドロドロとした情念がこの二人の非常に似た気質の人物同士の間で地下水脈のようにつながっている。
ただ、非常に滑稽なのはこの関税で一番打撃を受けるのは外国ではなくアメリカ国民自身だということであり、世界最大の強国の大統領がその単純な子供でも分かるような未来を予見していないことだ。なぜなら、関税を払うのはカナダでもメキシコでも中国でもなく、アメリカの輸入業者でありそれを価格に転嫁されて払うことになるアメリカの消費者自身だからだ。
奴ら(カナダやメキシコ)はアメリカに借りがある、この関税でそれを払ってもらう、とトランプが言っているがそれを払うのは彼らではなくアメリカ人自身だということに一国の大統領が気づいていないということの衝撃、滑稽さ……なんでこんな人が大統領に?とおもっているのは僕だけではないだろう。
カナダはこれから新たな輸出先を探っていかなければならない、それはもしかしたら中国になるかもしれない。カナダが持っている天然資源は中国のハイテク業界が最も必要としているものだ、技術革新著しい中国にとっては渡りに船だろう。そしてカナダやメキシコ、そして中国の報復関税で売れなくなるアメリカ製品の代わりに中国の安くて品質の高い(中国製が劣悪という時代はすでに過去のものになりつつある)ものが流通するようになるだろう。
EUの外相が的確にも指摘しているようにこれで一番笑うのは中国だということが現実のものになっていくだろう。
まぁ、トランプのことはこれぐらいにして僕が今回触れておきたいのは中国のことである。
具体的にはかの国の科学技術レベルの目を見張るような発展だ。僕は写真が好きなのでその分野での中国の技術レベルの高さにはすでに気づいていたが、それはひとり映像関係のみならず、その他多くの科学分野でも同様にいま中国では驚異的といっていいほどの発展を見せている。
数十年前に鄧小平が来日した時に新幹線に乗ってその技術水準の高さに驚き、中国はいくら背伸びをしても不美人なのだから仕方がない、と彼得意のたとえ話をしたのを覚えているが、それがいまや中国の高速鉄道技術は日本に追いついたばかりではなく、それを凌駕するレベルにまで達している。
それだけではない、その他の製造業でも中国の今の技術は多くの面で日本をしのぎ始めている。
こんな世界というのは「あのかつての中国」を知っているものにとってはほんとうに隔世の感がある。
まぁ、おおげさではなくて自分が生きてそれを目にするとは思ってなかった世界が現出しつつある。
世界的な投資家のジム・ロジャースが19世紀はイギリス、20世紀はアメリカ、そして、好むと好まざるとにかかわらず21世紀は中国の時代になると予見したその世界が少しづつしかし確実に僕らの目の前で現出しつつある、その変化を歴史の地殻変動を、いま歴史の観測者としてリアルタイムに目撃しているんだなという実感が僕の中にある。
かつてまだイギリスが世界の覇権を握る前、スペインやオランダが世界の超大国、経済大国として君臨していたが、それらの国々が凋落していき時代はイギリスの時代に移り、そのあとはアメリカと変化していくその過程はまだインターネットがなかった時代であり、技術進化の歩みもいまよりもスローだったこともあって、その歴史の地殻変動の流れを目撃しているという感覚をもったひとはそう多くはいなかったに違いない。
しかし、インターネットの登場で地球の反対側で起こっていることをほぼリアルタイムで見ることができるようになり、技術革新も加速度的に速くなっている現在、たぶん僕らは人類の歴史上はじめてほぼ「リアルタイムで」この変動を目撃することができる、そんな時代に生きている。
そして、人類の歴史上はじめて白人以外の人間が世界の覇権を握る時代の幕が開けようとしている。
欧米の人々は口にこそしないもののやはり自分たちは優越した人種であるというプライドのようなものをその心の奥底には持っていると思う。すくなくとも「物質文明」においては歴史がそれを示唆してきているし、ごくごく一部の知的にすぐれた洞察力、慧眼を持った欧米人を除いてそれは暗黙の了解のようなものだっただろう。
しかし、彼らが優越性をほこってきたその物質文明においてさえいまや新しく勃興してきた中国という国に追いつかれ部分的には凌駕されつつあるという時代が到来している。
この事実にたとえ中国という国に反感を持つ日本人でさえ、胸のすく思いを抱いている人々は実は多いのではないか。
さて、これから日本はどうするのだろう、すぐ近くの隣国に歴史上はじめての欧米文化圏以外の超大国が出現してくるわけで、しかもその国は民主主義国ではなく、日本とも友好的な関係にはない。日本はこれから徐々に衰退していく古い超大国アメリカと同盟を結んでいる。
アメリカは今回のウクライナ戦争でロシアにさえ手を出せなかった、ましてやこれからアジアに出現する超大国はそのロシアの何十倍も強大な国になるだろう。日本に何かあったときにも果たして救ってくれるのか……いうまでもなくたとえ日米安保があってもこれからの中国の超大国化への移行の度合いが進めば進むほど現実的には手を出せなくなっていくだろう。そうなったとき日本はどうするのか…これまでのような硬直した外交ではどうにもならなくなっていくに違いない。
歴史の地殻がリアルタイムで変動するその鳴動というか大きな潮流の変化というか、そういうものをたぶん人類史上初めて視認、触感している世代として、様々な思いが交錯している昨今である。