2018年のブログです
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なにか面白そうな小説はないかな?と本棚を眺めていたら、隅っこのほうに樋口有介さんの『雨の匂い』(2007・中公文庫)があったので、再読しました。
2007年の本で、読むのはかなりしばらくぶりなので、たぶん2回目です。
当然(?)なかみもほとんど忘れていたのですが、読んでみるととてもおもしろく、2日で読んでしまいました。
少し暗い小説なので、60歳を過ぎた今のじーじにはちょうどいい小説なのですが、11年前のじーじには少し暗すぎて、本箱の隅に置いたのかもしれません。
暗い小説です。
有介版『悪霊』かもしれません。
主人公の男子大学生が、癌で入院中の父の看病と在宅療養中の祖父の介護をするという、それだけでも暗い設定ですが、しかし、主人公はそれを淡々とこなし、そういう中でも女友達らと淡々とつきあって、有介ワールドの青春物語が進行します。
しかし、父親と別れた母親が登場をして、金を無心するあたりから物語は暗転してきます。
母親だけでなく、バイト先のいいかげんなおとなやその他のいやなおとなも登場して、淡々と生きている主人公を脅かします。
そして、物語は『悪霊』の世界に。
もっとも、こういう暗さは、今の年取ったじーじにはなじみのある(?)世界で、違和感はありません。
むしろ、こんな中にこそ、人生の真実はあるのだろうな、と思います。
生と死、生きることの苦しさと辛さ、切なさ、そして、生きる意味、などなど、考えることや感じることはたくさんありそうです。
ストーリーを追うだけでなく、余白に漂うものを丁寧に感じることに意味があるのかもしれません。
今、この時、この年齢で、この小説を再読できてよかったな、と思います(主人公は男子大学生ですが、若い人はもう少し年を取ってから読んだほうがいいのかもしれません)。 (2018.10 記)