人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

2010年 カールスルーエのサムソンとデリラ Samson et Dalila / Saint-Saëns / José Cura

2016-03-02 | 演出――その他


ホセ・クーラは、2010年に、ドイツのカールスルーエ・バーデン州立劇場で、サンサーンスのオペラ「サムソンとデリラ」を演出しました。舞台セットのデザインとあわせて、タイトルロールのサムソンも歌いました。サムソンは1996年のロールデビュー以来、20年間演じてきた役柄ですが、サムソンの演出はこの時がはじめてです。
この舞台は、クーラ自らが編集してDVDも発売されています。客席やカーテンコールを写さず、アップも多用した映画のような美しい映像です。ただしどういうわけか日本語字幕はありません。このあたり、来日も10年間ないことと同様に、残念でなりません。

Samson: José Cura, Dalila: Julia Gertsheva
Stefan Stoll, Lukas Scmid, Ulrich Schneider
Conductor: Jochem Hochstenbach
Direction: José Cura
Badishes Staatstheater, 22 / 24 October 2010


 

この時のプロダクションへの思いや作品の解釈などについて、インタビューから抜粋してみました。また、主な場面がYoutubeに17に分割されてアップされています。そのいくつかも紹介します。

クーラのサムソンの解釈はまた独特で、「歴史上の自爆テロリストの1人」であり「負のヒーロー」であるというもの。
インタビューでは、演出するにあたっての、このオペラ独自の難しさについても語っています。

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●多く出演したので良い演出ができるのか?
そうは思わない。しかし、もちろん私は、自分のパートだけでなく、このオペラの全てのテキストとすべての音を知っている。そして何より、このオペラの固有の複雑さ、困難や課題を認識している。

●「サムソンとデリラ」の危険
大きな危険は、ヘブライの紛争との関わりだ。もちろん中東での戦争と関連している。
ある者は今日のイスラエルとパレスチナの状況を説明しようと試みる。一方、歴史的な演出は、まるで1950年代のハリウッド映画になってしまう。

第1幕サムソンが群衆の中から歩み出て「止めよ、兄弟たちよ!」と歌う場面
Samson et Dalila, con José Cura. Fragmento 2.


●セックスと権力、宗教の名による殺りく
セックスと権力との関係は、このオペラの心理的な構造だ。サムソンは全男性と同様に、本能に従い、動物のように行動する。これが全体を非常に普遍的にしている。彼がなんらかの内省を示す唯一の場所は、第3幕冒頭のアリアだけだ。

サムソンは内省するが、しかし回復した後、再び強くなる。そして彼は、自分が神の代理として行動していることを信じて、他の人々を殺す。この点において、世界は、残念ながら今日も何ら変わっていない。



第2幕第3場 デリラに誘惑されてしまうサムソン 「あなたの声に心は開く」
Samson et Dalila, con José Cura. Fragmento 11


第3幕 目をつぶされ拘束されたサムソンの自省のアリア
Samson et Dalila, con José Cura. Fragmento 12


●強欲さと富への渇望の象徴
演出にあたって、私は放棄された油田のキャンプに全体の舞台を置いた。現在は留置施設として使用されている。オイルは強欲さと富への渇望を示す。これらは現実に、民族間の紛争の背後にあるものだ。人々は特定せずに、単に2つの民族としてのみ示した。

サムソンは「旧新約聖書」の言葉によるために、台本にはいくつか仰々しい場所がある。また低予算のハリウッド映画で使用されてきたために、サン=サーンスの壮大な音楽が浅薄な作品に見なされる恐れがある。

●子どもたちに希望を
課題はメッセージをもたらすことだ。神の名による殺人――特定の宗教に関わりなく、野蛮な時代錯誤だ。
私は子どもたちに、愛と希望のメッセージを託す。紛争に関与する2つの民族の子どもたち。彼らは、民族や宗教に関係なく、一緒に遊び、そして友人を守る。



●好奇心と夢を実現
Q、カールスルーエでは演出、セット設計、主演をしたが指揮は?
実際には指揮も、私にオファーがあった。しかし必要なリハーサルのための時間を持てなかった。
すべてに関わっているように見えても、十分な準備なしにはそれはやれない。

もしある日あなたが、夢だと思っていたことを実現できる機会を提供されたら、ノーと拒否するだろうか。
私は人生でいつも、好奇心と、まだやったことのないことへの意欲を持っている。いつか映画監督をやりたいと望んでいた。そして機会を得た。サムソンとデリラを劇場で撮影して、DVDにした。



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このプロジェクトを演出中の魅力的なメイキング動画がクーラ自身によってアップされていたのですが、残念ながら、クーラの動画サイトの再編作業中のため、現在は削除されています。
最後に、その一部分、「あなたの声に心は開く」のサムソンとデリラのデュエットの部分をYoutubeから。
Jose Cura duo from Samson et Dalila : Saint-Saëns


映画監督がクーラの夢の1つだったのですね。だからこのサムソンのDVDはほとんど映画を見るような形になっていたわけです。
また指揮もオファーがあったとのことですが、主演しながら指揮をするのは、さすがのクーラも、この時は無理だと判断したようですね。とはいえ、この言い方だと、リハーサルの時間さえとれれば、チャレンジしないこともないような・・。
この先、そんなプロダクションが登場するのかどうか、あるとすればどこの劇場で、どの演目で実現するのか、興味深いです。

またクラシック音楽・オペラを、常に現代の社会とむすびつけて解釈し、演出、演奏するというクーラの立場はいっかんしたものです。
興味がおありの方には、クーラの社会への姿勢と発言をまとめたページ「ホセ・クーラ 平和への思い、公正な社会への発言」をご覧いただけるとうれしいです。



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