1997年にロールデビューして以来、約20年、200ステージ以上、解釈を深め、歌い演じてきた、ホセ・クーラのオテロ。意外にも、ニューヨークのメトロポリタンオペラ劇場では、2013年に初めてオテロを歌いました。
長く続いたモシンスキーによる古典的な演出ですが、このクーラの舞台が最後になりました。2015-16シーズンには新演出に切り替わり、アントネンコ主演でMETライブビューイングにもなったので、ご覧になられた方も多いでしょう。
残念なことに、2013年にクーラが出演した旧演出の最後の舞台は、HDにもならず、録画もありません(この時はヨハン・ボータの舞台がHD上演されました)。ただラジオ中継されましたので、YouTubeに主要な場面の録音(音声のみ)がアップされています。
この出演の際の、クーラのインタビューにおける発言から一部を抜粋したものと合わせて紹介します。
LATINOS POST 2013/3/24「進化し続けるアーティストー新しいオペラと演劇表現の探求、彼自身の条件と整合性」
"Jose Cura: An Ever-Evolving Artist In Search Of New Operatic and Theatrical Expression, On His Own Terms And Integrity"
ホセ・クーラ(オテロ)、クラッシミラ・ストヤノヴァ(デズデモーナ)、マルコ・ヴラトーニャ(イアーゴ)
José Cura: Otello, Krassimira Stoyanova :Desdemona, Marco Vratogna :Iago
Conductor: Alain Altinoglu , Production: Elijah Moshinsky
●オテロは“ハンカチの話”ではない
オテロにおいて、私たちは、人種差別、傭兵制度、反逆、背教の問題について話している。我々はハンカチの話(嫉妬と策略の象徴)をしているのではなく、シリアスな深刻な問題について話しているのだ。
ヴェルディのオテロとスティッフェリオ。一見、嫉妬と復讐に関連する話だが、その二つのキャラクターは非常に異なる。嫉妬はあくまでドラマの外殻にすぎず、それぞれはるかに深い意味をもつ。
●現代のオペラを
オペラ的な演劇を行う別の方法があるとをつよく信じる。繊細さとニュアンスにもとづいた方法が。それは現代のオペラ。俳優が自分自身を、本当の深さと特徴づけで役柄に投入する。それは近代的なオペラだ。
将来やりたいのはピーター・グライムズ(2017年ボンで演出、ロールデビューの予定)。私が愛するのはオペラの舞台に流動性を創造するという夢を助けてくれるオペラ。舞台演劇のように。素晴らしい誘惑だ。私の次の夢は演劇の舞台だ。
●今後の仕事
ストックホルムでプッチーニの「ラ・ボエーム」を演出する(2015年11月初演され、16年6月まで上演中)。リエージュのワロニー王立劇場では、自分自身も歌う「トゥーランドット」の演出をする(2016年9月)。
今後は、新しい作品の演出に集中し、時折、歌うことになるだろう。
芸術的な探求に加え、自分のプロダクションをつくって活動してきた。重要なことは、それが、自分自身にもとづいて、芸術の旅を自らナビゲートすることを可能にしたことだ。
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インタビューでも語っているように、クーラのオテロは、非常に演劇的で、ドラマティック、役に没入して、緊迫感ある人間ドラマをつくりだそうとします。クーラは一貫して、「ヴェルディは『オテロはベルカントじゃない、メロドラマだ』と繰り返し語った」、「ドラマを伝えるために声を変形させることを恐れてはならない」と主張してきました。
そのため、「美しい歌」を求める人々、また批評家からも、批判されることが多いのも事実です。しかしいったん、そのドラマの中に引き込まれた観客は、つよい印象を受けるようです。
クーラのオテロの解釈、ヴェルディ論については、詳しくは、このブログの「2012年オテロとヴェルディ」でインタビューからの発言を紹介しましたので、あわせてお読みいただけるとうれしいです。
またメトロポリタンオペラをこよなく愛する、ニューヨーク在住のMadokakipさんのオペラブログに、このオテロの素晴らしい観賞レポートが掲載されています。ラジオ放送と同じ日に観賞されていますので、こちらも非常に参考になるかと思います。
「OTELLO (Wed, Mar 27, 2013)」
くどいようですが、クーラのオテロは決して「耳に美しい歌」ではありません。心を揺さぶり、ザワザワさせます。あえて声を歪ませ、リズムやテンポを崩させることもしばしばです。指揮者とオケを挑発しているのではと思うことも(笑)
こちらが受け止める力のない時には、正直、聴くのがしんどいこともあります。第4幕などは、歌を聞いているというより、音楽と一体になったオテロの魂の叫び、慟哭そのもの。ですから、しつこくて申し訳ありませんが、端正で美しい歌唱がお好きな方には、以下の録音はおすすめできないことをあらかじめ、申し添えておきます。
第1幕、オテロとデズデモーナの二重唱「暗い夜の中に(もう夜も更けた)」
Jose Cura 2013 "Già nella notte densa" Otello
第2幕、カッシオへのデズデモナの願いを聞いて動揺するオテロ。オテロとデズデモナ、イアーゴなど「あなたの怒りを買って嘆く人からの」
Jose Cura 2013 "D'un uom che geme sotto il tuo" Otello
第2幕、オテロとイアーゴ デズデモナの「裏切り」を疑い始め、自滅への道を歩み始める、イアーゴとの2重唱。
Jose Cura 2013 "Tu, indietro, fuggi!" Otello
第2幕、オテロとイアーゴの復讐を誓う二重唱「大理石のような空にかけて誓おう」
José Cura "Si, pel ciel marmoreo giuro!"
第3幕、デズデモナに正面から疑問をぶつけることなく、疑いを勝手に確信していくオテロ「ご機嫌よろしゅう」
Jose Cura , Krassimira Stoyanova Otello "Dio ti giocondi, o sposo"
第3幕、オテロの嘆き「神よ、あなたは私になげつけた」
Jose Cura "Dio! mi potevi scagliar" Otello
第4幕、デズデモーナの死、そしてオテロの死
Jose Cura , Krassimira Stoyanova "Chi è la?... Niun mi tema" Otello
この出演の際には、ニューヨークの大学での対談に出席して、オテロの解釈をはじめ、とても興味深いことをいろいろ話しています。Vimeoにアップされています。リラックスして楽しい対談で、特に後半は爆笑、爆笑です。なぜ爆笑かはちょっとここには書きにくいので(笑)、ご覧になっていただければ・・。
残念ながら字幕なしの英語ですが、ヒアリングが可能な方にはぜひ、おすすめします。
*先に紹介したMadokakipさんのブログのコメント欄では、オテロ解釈の部分についてのみですが、Madokakipさんが日本語に訳して紹介してくださっています。
A Conversation with Josè Cura
なお、今年2016年のザルツブルク復活祭音楽祭のオテロにも出演予定で、3/26(現地)にネットラジオで中継予定です。
→ プログラム
*写真はMETのHPや報道からお借りしました。