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ホセ・クーラは、今年2016年、年頭からヴェルディのオテロの出演が相次いでいます。しかもクーラは、今年4月には、ハンガリーのジュールで、初めて指揮者としてオテロを演奏することになっています。
オテロ出演が相次いだのは、シェークスピア没後400年の記念の年ということもありますが、実はアクシデントが重なったためでもありました。
1/21~2/1のバルセロナ・リセウ大劇場のオテロは、アレクサンドルス・アントネンコのキャンセルにより急きょ、出演となりました。また間もなく3/19から開幕するザルツブルク復活祭音楽祭2016のオテロも、ヨハン・ボータが病気により降板、クーラが代役を引き受けたものでした。
*4/19追加 クーラが出演したザルツブルクのオテロは4/23~クラシカジャパンで放送されるそうです。ザルツブルクのオテロについてはこちらの投稿をご覧ください。
クーラとボータとアントネンコ、この3人は、声、歌唱スタイルも、容貌も、個性も全く違っています。
この機会に、現在、世界中の劇場で主にオテロを歌っている3人の聴き比べをしてみました。
その前にそれぞれについて。
●アントネンコ(Aleksandr Antonenko)
1976年6月、バルト三国の1つであるラトビアの首都リガで生まれました。2016年3月現在39歳、まもなく40歳です。2008年には夏のザルツブルク音楽祭でムーティ指揮のオテロに出演しています。
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●ヨハン・ボータ(Johan Botha)
1965年8月、南アフリカのルステンブルク生まれ。現在50歳です。
*9/8追記 ガンで闘病との情報でしたが、残念なことに2016年9月、亡くなりました。51歳になったばかりでした。(2016年9月8日死去)
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●ホセ・クーラ(Jose Cura)
1962年12月、アルゼンチンのロサリオで誕生。現在、53歳。1997年にオテロのロールデビューしました。
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同じ部分の歌唱で比べるとして探したところ、オテロの第3幕、デズデモーナとの二重唱「ご機嫌よろしゅう」“Dio ti giocondi”がありました。
第2幕でイアーゴの策略によりデズデモーナへの疑いをもったオテロ。この第3幕の二重唱でも、正面からデズデモーナに自らの疑惑をただすことなく、勝手に確信を深めていきます。オテロとデズデモーナの丁々発止、非常に緊迫感あるやりとりが魅力的でドラマティックな場面です。
ちょうど、それぞれメトロポリタンオペラ(MET)での録音です。クーラ版とボータ版は同じ演出、アントネンコ版は、新演出に切り替わった初演の舞台です。指揮者はそれぞれ違いますが、同じ劇場、同じオーケストラです。
1、まずは一番若いアントネンコから。2015年METの舞台。
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Dio ti giocondi - Otello - Yoncheva Antonenko
↑最初にリンクを張った動画が削除されていましたので、差し替えました。残念ながら短いので、聞き比べにはなりにくいですね。
Otello: "Tu pur piangi?" (Yoncheva, Antonenko)
2、つづいてヨハン・ボータ。METの舞台ですが、2008年でしょうか。時期は未確定です。
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Verdi - Otello - Stoyanova & Botha - Dio ti giocondi, o sposo
3、最後はホセ・クーラ。METで2013年です。
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Jose Cura , Krassimira Stoyanova Otello "Dio ti giocondi, o sposo"
同じ場面、同じ劇場、同じオケですが、三者三様ですね。
聞き終えて、それぞれから、全く違うオテロ像が思い浮かびました。
アントネンコは、若く気品があり、悩み深き青年オテロ。そしてボータは、温厚で人格者のオテロが、追いつめられていく姿。最後のクーラは、ギラギラした支配欲、力にあふれ、デズデモーナを組み伏せようとするバイオレンスな中年オテロ。まるで別人のようです(笑)
声質、年齢と声の成熟、解釈・・それぞれの個性で演技と歌唱、オテロ像をつくっているのでしょう。観客も、好みはそれぞれ。このブログを見てくださった皆さんは、どう感じられたでしょうか。
最後におまけ。1999年のマドリードの舞台から、まだ若々しいクーラのオテロ、第1幕の二重唱「もう夜も更けた」を。
Jose Cura "Già nella notte densa" 1999 Otello
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