長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

昭和妖怪ブームのかげで ~ぬらりひょんサーガ 百鬼拾遺・雲~

2011年10月07日 14時00分57秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
《前回までのあらすじ》
 得意の知能戦で無敵の鬼太郎少年にいどんだ凶悪妖怪ぬらりひょん。
 しかし、予想以上の鬼太郎の生命力に翻弄されてしまった彼は、ついに鬼太郎の必殺技「先祖流し」によって3万年前の旧石器時代に追放されてしまった……
 少なくとも200歳くらい年下のガキンチョの策にはまって完敗したぬらりひょんに、明日はあるのか!?


 話はまず、当時『ゲゲゲの鬼太郎』を中心として巻き起こった昭和の「第1次妖怪ブーム」から。

 水木しげるの「鬼太郎サーガ」のはじまりは、先年2008年にフジテレビの「ノイタミナ」でアニメ化されたこともある貸本版の『墓場鬼太郎』(1960~64年・全15話)です。それ以前の紙芝居時代(1950年代)に水木しげる、または彼以外の作家が描いていた鬼太郎物語もあったのですが、残念ながらそちらは現存していません。

 しかし、全国的に鬼太郎少年の物語が有名になる直接のきっかけとなったのは、「鬼太郎サーガ」第2のシリーズとなる講談社『週刊少年マガジン』連載版の『墓場の鬼太郎』(1965年8月~69年7月)と、その初アニメ化となる第1期『ゲゲゲの鬼太郎』(1968年1月~69年3月放送・モノクロ全65話)の大ヒットによる「第1次昭和妖怪ブーム」の爆発でした。少年マンガとアニメ化! 現代までに続いているヒットの法則ですよね~。

 ざっくり昭和の男子カルチャーの歴史を見てみますと、1960年代中盤の『ウルトラマン』メインの「第1次怪獣ブーム」、1960年代終盤~70年代前半の「第1次妖怪ブーム」、そして1970年代中盤の『仮面ライダー』『帰ってきたウルトラマン』などの「変身ブーム(第2次怪獣ブーム)」といった感じで、もれなく、こんな『長岡京エイリアン』をつづっている私そうだいの心をゆさぶる黄金の時代が続いていたわけなのです。どの時代にも私、生きてないんですけど。

 とにかく、この妖怪ブームによって江戸時代から日本人の心の隅っこにじめっと生息していた妖怪たちはあっという間にお茶の間のスターダムに引っぱり上げられ、それこそ「怪獣」や「改造人間」や、のちの「ポケモン」や「強そうな昆虫」とまったく同じポップな立ち位置に立たされることとなってしまったのです。照明でネバネバがかわくじゃねぇか。いい迷惑だよ~!


 さてここで扱いたいのは、「水木しげる作品」と、水木しげる以前の「伝承の世界を映像化した作品」、ブームの中でのそれぞれのぬらりひょんの違いです。


 まずは「水木しげる作品」での、ぬらりひょん。
 
 1967年10月に『マガジン』で展開された鬼太郎とぬらりひょん(feat.蛇骨婆)の激闘のもようはすでにふれた通りなのですが、ここでのぬらりひょんは、顔色ひとつ変えずに手製爆弾で住宅を爆破する前代未聞の凶悪妖怪に設定されていました。
 外見は江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕えがく「ぬうりひょん」そっくりなのですが、ふだんは背広を着た一般の人間として5階建ての高級マンションに暮らしています。
 彼がどういった生活基盤を持っていたのかは語られていないのですが、常に持ち歩いていた100万円の札束のうち、ねずみ男にあげた1万円札がぬらりひょんの消滅後に単なる木の葉に変わってしまったことからも、彼がまっとうな手段で収入を得ていたということはなさそうです。つまり、ニセ金を作って人間を「だます」という能力が、彼の妖怪としての特殊技能だったというわけです。あとは悪事を考えついたり精巧な爆弾を作ったりする「知性」ですよね。
 くわえて原作の後半では、自分の右手に鬼太郎が取り憑いてしまったことに気づいていないぬらりひょんが、行きつけのパチンコ屋でいつものように玉が入らないことをいぶかしむ描写があることから、ギャンブルの世界である程度イカサマを操作できるような妖力(技術?)も彼は持ち合わせていたようです。福本伸行か!

 そして、『マガジン』版の連載と並行して放送が開始されたアニメ第1期『ゲゲゲの鬼太郎』ですが、『妖怪ぬらりひょん』の回は雑誌掲載からわずか半年後の1968年4月に第12話として放送されています。内容は原作をかなり忠実に映像化したものとなっていました。
 ところで、昨今「ぬらりひょんのパートナーと言えば!」と引き合いに出されることの多い、赤くてでかい顔の妖怪・朱の盤(しゅのぼん)なのですが、原作やアニメ第1期にはまだ登場していません。

 ここでぬらりひょんの記念すべき「初代声優」を演じたのは、ひよわそうな爺さんを演じさせたら天下一品の名優・槐柳二(さいかち りゅうじ 当時40歳)!
 槐さんといえば『元祖天才バカボン』のレレレのおじさん役として、聴いた人の誰もが腰砕けになってしまうヒョロヒョロとしたしわがれ声が有名なのですが、そんな彼が凶悪妖怪を演じるという意外性は、ぬらりひょんの外見と行動の不気味な違和感を的確についたキャスティングだったと思います。ただ、槐さんはあの『仮面ライダー』シリーズの記念すべき敵怪人第1号「蜘蛛男」も演じており、実は悪役としてのすごみも出せるんですよね。
 槐さん、ぬらりひょんとかレレレのおじさんをやってた時、40代だったんだ……これも特殊技能! 現在はアニメのお仕事はされていないようですが、お元気でしょうか?

 余談ですが、アニメ第1期『ゲゲゲの鬼太郎』といえば、のちにアニメ『ぬらりひょんの孫』シリーズでぬらりひょん役を演じることになる大塚周夫(おおつか ちかお 当時39歳)がねずみ男の初代声優を担当していることも見逃せませんね。大塚さんは続くアニメ第2期や『墓場鬼太郎』でもねずみ男を演じています。こう言っちゃあなんなんですが、大塚さんはケチな小悪党の役が最高なんだよなぁ!

 ともあれ、アニメ第1期でのぬらりひょんは原作に忠実であるがゆえに、特に語るべき追加情報はありません。1回のみの活躍でぬらりひょんは退場。
 ちなみに、1971~72年に放送されたアニメ第2期『ゲゲゲの鬼太郎』(全45話・こっちはカラー)は、制作スタッフもメインキャスティングも変わらない第1期の正当な続編にあたるため、3万年前に流されたっきりのぬらりひょんは復活するべくもありませんでした。無念……


 その一方で、水木しげる原作でない妖怪ブーム作品にも、ぬらりひょんはしっかり登場しています!
 『大怪獣ガメラ』や『大魔神』で有名な映画会社・大映が妖怪ものの実写映画化にいどんだ! それがあの「大映妖怪3部作」でした。

・『妖怪百物語』(1968年3月 監督・安田公義)
・『妖怪大戦争』(1968年12月 監督・黒田義之)
  ※鬼太郎サーガのエピソード『妖怪大戦争』や2005年の映画『妖怪大戦争』とはまったく関係がない
・『東海道お化け道中』(1969年3月 監督・安田公義と黒田義之の共同)
 すべての脚本は吉田哲郎

 これですねぇ~。公開時期を見ての通り、まさしく妖怪ブームにあてこんだ企画でございます。
 しかし、この3部作はただブームに乗ったというだけではなく、それまで日本の映画界に連綿と続いてきた『東海道四谷怪談』『番町皿屋敷』『怪談牡丹灯籠』などの「怪談時代劇」ものの流れをしっかりと継承したシリーズで、江戸時代を舞台にした完全な時代劇に仕上がっています。

 これらの作品では、クライマックスで必ず当時の特撮技術をフル活用したぬいぐるみだらけの百鬼夜行が跳梁跋扈するシーンが用意されていたのですが、そこのレギュラーメンバーに我らがぬらりひょん先生もエントリーされていたのです。やった!
 ところが、ここでのぬらりひょんは完全なモブの1匹であり、百鬼夜行のリーダーの座は「油すまし」ということに。なぜ?

 ここでぬらりひょんを演じたのはかぶりものをつけた子役で、金色っぽい豪華な着物を身にまとい、鳥山石燕の「ぬうりひょん」そのまんまの芸術的なにやけ顔をさらしてぶらぶら歩いています。ほんとに歩いてるだけ!
 つまり、「大映妖怪3部作」は水木版のぬらりひょん=凶悪妖怪の構図をまったく導入していない、江戸時代の「なにやってるのか全然わからない爺さん」イメージを守ったものになっているのです。


 このように、「変な頭と顔の爺ちゃん」「人をだます」「凶悪かも?」というパズルのピースがぽつぽつ集まってきた妖怪ぬらりひょん。いまだ「妖怪の親玉」というピースに着目した作品は出てきていないのですが、この後、ある1ピースが生まれたことによって、ついに「妖怪総大将ぬらりひょん」は現代に活躍する条件をととのえることとなります。

 機は熟した? 妖怪ブームの中でひょっこり出てくるぬらりひょん最後のピースについては、まったじっかい~。
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