《前回までのあらすじ》
そうだいはここ数日、忙しかったりうまくいかないことがあったりして調子が悪かったのだが、「給料日」「亀井絵里写真集」「1人カラオケ」「美女からのステキなお言葉」の黄金カルテットによってみごと回復した!
いんや~。女性はおそろしい。ありがとうござ~い。
ひさかたぶり、妖怪ぬらりひょんのお話の続きでございます。
あのーみなさん、「ぬらりひょんって、どんな妖怪?」と気になってネットや図鑑で調べてみると、たいていのものでこういった記述が出てきませんか。
「忙しい夕方時などに、どこからともなく家に入ってきて、お茶を飲んだりするなどして自分の家のように振舞い、人間が見ても『この人はこの家の主だ』と思ってしまうため、追い出すことができない。妖怪の総大将ともいわれる。」
要するにですね、ここで説明されている妖怪ぬらりひょんは、「人が複数いる空間でいつの間にか、誰だかわからない人が増えている」という、なんとなく誰もが体験したことのある「ちょっと不思議な感覚」を擬人化した存在になっているのです。
まぁ、こんなものはつきつめれば「自分が知らないだけの誰かの知り合い」だったり「その人が場所を間違えてまぎれ込んだだけ」だったりするわけで、「あっ、知らない人がいる。」と気づいた人がいても、その見知らぬ人が特別に変な行動をとらないかぎり、あえてそこを踏み込んで「なんだチミは!?」と詰問する『だいじょうぶだぁ』のマーシーのような人はあまりいないわけです。
現代の日本では、ほとんどの地域でちょっと外を歩けば知らない人に出会うことができるわけなのですが、交通手段が圧倒的に不便だったり、村の中での数十人ほどの共同生活で一生を暮らせたりしていた江戸時代の(大都市をのぞいた)おおかたの地域では、「エイリアン(外来者)」は今よりもはるかに異質な存在だったということなのでしょうか。
ただ、知らない人がいても気にならない現代にぬらりひょんの存在意義はもはやないのかというとそうでもなさそうで、そんな人口過多の時代だからこそ、ふと少人数になった時に感じる「あれ、人増えてる……」の恐怖は倍増するみたいで。
ぬらりひょんはただ家にあがりこんで飲み食いするだけなのですが、子どもが外で遊んでいるうちに人数が増える「座敷わらし」や、まっ暗な部屋の隅に散らばって1人ずつ移動する運動をしているうちにギャ~!となる「雪山の避難小屋」怪談なんかは同じ系統でも怖い方向によったやつなんじゃないかしら。
さて、こんな感じでほとんどの紹介記事でぬらりひょんのいちばんメジャーな活動内容になっている「いつの間にかいる」属性なのですが、この要素は何回か続けてきた今までの「ぬらりひょんサーガ」には、いぃ~っさい!登場してきておりません。
つまり、ぬらりひょんが誕生したと思われる江戸時代から、『ゲゲゲの鬼太郎』による「第1次妖怪ブーム」の巻き起こる直前にいたるまで、「いつの間にかあなたの家にぬらりひょんが!」なんていう設定はまったく存在していなかったのです。
だとしたら、現在まことしやかに語られている、このぬらりひょんパズルを補完する「最後にして最大の1ピース」がどうやって生まれたのかというと、これこそが「第1次妖怪ブーム」のたまものだったというわけなんですねぇ!
「都市にいる頭の長い爺さん」「ウソが得意」「妖怪の親玉」「百鬼夜行にいる」といったピースのほとんどが根拠不明なぬらりひょんなのですが、最後に登場した「いつの間にか家にいる」もまた、どうやら鳥山石燕の『画図百鬼夜行』にいる「ぬうりひょん」の絵の印象から、それを見た昭和のライターさんがたが類推して創作しただけの情報のようなのです! テキトーか!?
戦後に到来した妖怪ブームによって、怪獣やポケモンのように「この妖怪ってどんなことするヤツなの? 武器は? 弱点はぁ~?」というデータ渇望状態におちいった全国のガキンチョにこたえるべく、多くの「妖怪図鑑」というふれこみの児童書が出版されていったわけなのですが、その中で「ぬらりひょん」の項目にまさしく「いつの間にか」書き加えられた情報こそが!「いつの間にか」属性だったのです。ぬらりひょんらしい~!!
当時のおもな「いつの間にか」資料にはこんなものがありました。
『墓場の鬼太郎・大妖怪ショッキング画報』(『週刊少年マガジン』で1967年6月に掲載された特集記事)
文章を執筆したライターは不詳
イラストと短い文章で83体の日本の妖怪が紹介されている(その時点では『鬼太郎』未登場のものも多い)
ぬらりひょん(本編登場の4ヶ月前)も『画図百鬼夜行』の「ぬうりひょん」をアレンジしたイラストで紹介されており、「いそがしい夕ぐれどきに、ぬらりひょんと、みょうなものが家にはいってくる。あとでさがしてもいない。」という解説文がある
※これが史上初の「いつの間にか」解説?
『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』(1972年 立風書房ジャガーバックス)
作家の佐藤有文(さとう ありふみ 1939~99)の執筆
子供向けの妖怪図鑑
ぬらりひょんを「年の暮れで多忙な家に勝手に上がりこんで座り込む。」と解説
『おばけ文庫』(1976年 太平出版社)
作家の山田野理夫(やまだ のりお 1922~)が執筆
子供向けの妖怪図鑑
ぬらりひょんを「和歌山県の山中に住む妖怪で、山家が忙しい日暮れ時に人家に現れる。」と解説
だいたいこんなあたりが、当時の子どもたちに圧倒的なスピードで浸透していったんですなぁ。そして、あっという間に「ぬらりひょんはいつの間にか家に入ってくる妖怪」というメインイメージが定着してしまったのです。
だからこそ、同じ「第1次妖怪ブーム」につくられた作品であるのにもかかわらず、水木しげるの『墓場の鬼太郎 妖怪ぬらりひょん』や映画の「大映妖怪3部作」シリーズに登場するぬらりひょんには「いつの間にか」属性はいっさい導入されていなかったのです。それらのあとにできた属性なんだから。そして、このブームの去ったあとに創作された『地獄先生ぬ~べ~』や『ぬらりひょんの孫』のぬらりひょんには「いつの間にか」属性が当ったり前のように取り入れられているというわけ。
ぬらりひょんのイメージはつい最近(昭和後期)に「いつの間にか」できあがっていた!
実のところ、1970年代に出版されたこれらの「妖怪図鑑」の再版本をバイブルのようにかかえて育ってきた私そうだいも、長い間ぬらりひょんの「いつの間にか」属性は江戸時代の昔から伝わっている歴史のある情報かと思っていたのですが……完全にだまされていました。
でも、これをもってぬらりひょんの「いつの間にか」属性がでたらめだとはもはや言えないわけです。だって、それをもとにしたぬらりひょんイメージが現代にこうやって浸透してしまっているわけですからね。出自の正当性なんかどうでもいいという、実力本位・結果オーライの姿勢こそが「伝承されてナンボ」の妖怪のたくましさなんですなぁ~。変幻自在とはまさにこのことです。
それにしても、『おばけ文庫』の「和歌山県出身」情報はなに根拠なのだろうか……瀬戸内海出身だと思うんだけどなぁ。
こうやって出そろった現代におけるぬらりひょんパズルの全ピースだったのですが、それらを反映したぬらりひょんの活躍は、「第1次妖怪ブーム」が落ち着いて以後、1980年のバブル期にアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』の大ヒットによって再来した「第2次妖怪ブーム」以後のこととなります。
いよいよ青野武ぬらりひょんのご登場だ~! 長かったネ。
次回はですね、その「第1次」と「第2次」とのブームの谷間に、ひょっこりとあだ花のように再登場した「ヘンな顔のぬらりひょん校長」の紹介からいきたいと思います。
みなさん、水木しげる先生のゲゲゲの鬼太郎は、実は高校生くらいまでリアルタイムに成長していたって、ご存じですか~?
そうだいはここ数日、忙しかったりうまくいかないことがあったりして調子が悪かったのだが、「給料日」「亀井絵里写真集」「1人カラオケ」「美女からのステキなお言葉」の黄金カルテットによってみごと回復した!
いんや~。女性はおそろしい。ありがとうござ~い。
ひさかたぶり、妖怪ぬらりひょんのお話の続きでございます。
あのーみなさん、「ぬらりひょんって、どんな妖怪?」と気になってネットや図鑑で調べてみると、たいていのものでこういった記述が出てきませんか。
「忙しい夕方時などに、どこからともなく家に入ってきて、お茶を飲んだりするなどして自分の家のように振舞い、人間が見ても『この人はこの家の主だ』と思ってしまうため、追い出すことができない。妖怪の総大将ともいわれる。」
要するにですね、ここで説明されている妖怪ぬらりひょんは、「人が複数いる空間でいつの間にか、誰だかわからない人が増えている」という、なんとなく誰もが体験したことのある「ちょっと不思議な感覚」を擬人化した存在になっているのです。
まぁ、こんなものはつきつめれば「自分が知らないだけの誰かの知り合い」だったり「その人が場所を間違えてまぎれ込んだだけ」だったりするわけで、「あっ、知らない人がいる。」と気づいた人がいても、その見知らぬ人が特別に変な行動をとらないかぎり、あえてそこを踏み込んで「なんだチミは!?」と詰問する『だいじょうぶだぁ』のマーシーのような人はあまりいないわけです。
現代の日本では、ほとんどの地域でちょっと外を歩けば知らない人に出会うことができるわけなのですが、交通手段が圧倒的に不便だったり、村の中での数十人ほどの共同生活で一生を暮らせたりしていた江戸時代の(大都市をのぞいた)おおかたの地域では、「エイリアン(外来者)」は今よりもはるかに異質な存在だったということなのでしょうか。
ただ、知らない人がいても気にならない現代にぬらりひょんの存在意義はもはやないのかというとそうでもなさそうで、そんな人口過多の時代だからこそ、ふと少人数になった時に感じる「あれ、人増えてる……」の恐怖は倍増するみたいで。
ぬらりひょんはただ家にあがりこんで飲み食いするだけなのですが、子どもが外で遊んでいるうちに人数が増える「座敷わらし」や、まっ暗な部屋の隅に散らばって1人ずつ移動する運動をしているうちにギャ~!となる「雪山の避難小屋」怪談なんかは同じ系統でも怖い方向によったやつなんじゃないかしら。
さて、こんな感じでほとんどの紹介記事でぬらりひょんのいちばんメジャーな活動内容になっている「いつの間にかいる」属性なのですが、この要素は何回か続けてきた今までの「ぬらりひょんサーガ」には、いぃ~っさい!登場してきておりません。
つまり、ぬらりひょんが誕生したと思われる江戸時代から、『ゲゲゲの鬼太郎』による「第1次妖怪ブーム」の巻き起こる直前にいたるまで、「いつの間にかあなたの家にぬらりひょんが!」なんていう設定はまったく存在していなかったのです。
だとしたら、現在まことしやかに語られている、このぬらりひょんパズルを補完する「最後にして最大の1ピース」がどうやって生まれたのかというと、これこそが「第1次妖怪ブーム」のたまものだったというわけなんですねぇ!
「都市にいる頭の長い爺さん」「ウソが得意」「妖怪の親玉」「百鬼夜行にいる」といったピースのほとんどが根拠不明なぬらりひょんなのですが、最後に登場した「いつの間にか家にいる」もまた、どうやら鳥山石燕の『画図百鬼夜行』にいる「ぬうりひょん」の絵の印象から、それを見た昭和のライターさんがたが類推して創作しただけの情報のようなのです! テキトーか!?
戦後に到来した妖怪ブームによって、怪獣やポケモンのように「この妖怪ってどんなことするヤツなの? 武器は? 弱点はぁ~?」というデータ渇望状態におちいった全国のガキンチョにこたえるべく、多くの「妖怪図鑑」というふれこみの児童書が出版されていったわけなのですが、その中で「ぬらりひょん」の項目にまさしく「いつの間にか」書き加えられた情報こそが!「いつの間にか」属性だったのです。ぬらりひょんらしい~!!
当時のおもな「いつの間にか」資料にはこんなものがありました。
『墓場の鬼太郎・大妖怪ショッキング画報』(『週刊少年マガジン』で1967年6月に掲載された特集記事)
文章を執筆したライターは不詳
イラストと短い文章で83体の日本の妖怪が紹介されている(その時点では『鬼太郎』未登場のものも多い)
ぬらりひょん(本編登場の4ヶ月前)も『画図百鬼夜行』の「ぬうりひょん」をアレンジしたイラストで紹介されており、「いそがしい夕ぐれどきに、ぬらりひょんと、みょうなものが家にはいってくる。あとでさがしてもいない。」という解説文がある
※これが史上初の「いつの間にか」解説?
『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』(1972年 立風書房ジャガーバックス)
作家の佐藤有文(さとう ありふみ 1939~99)の執筆
子供向けの妖怪図鑑
ぬらりひょんを「年の暮れで多忙な家に勝手に上がりこんで座り込む。」と解説
『おばけ文庫』(1976年 太平出版社)
作家の山田野理夫(やまだ のりお 1922~)が執筆
子供向けの妖怪図鑑
ぬらりひょんを「和歌山県の山中に住む妖怪で、山家が忙しい日暮れ時に人家に現れる。」と解説
だいたいこんなあたりが、当時の子どもたちに圧倒的なスピードで浸透していったんですなぁ。そして、あっという間に「ぬらりひょんはいつの間にか家に入ってくる妖怪」というメインイメージが定着してしまったのです。
だからこそ、同じ「第1次妖怪ブーム」につくられた作品であるのにもかかわらず、水木しげるの『墓場の鬼太郎 妖怪ぬらりひょん』や映画の「大映妖怪3部作」シリーズに登場するぬらりひょんには「いつの間にか」属性はいっさい導入されていなかったのです。それらのあとにできた属性なんだから。そして、このブームの去ったあとに創作された『地獄先生ぬ~べ~』や『ぬらりひょんの孫』のぬらりひょんには「いつの間にか」属性が当ったり前のように取り入れられているというわけ。
ぬらりひょんのイメージはつい最近(昭和後期)に「いつの間にか」できあがっていた!
実のところ、1970年代に出版されたこれらの「妖怪図鑑」の再版本をバイブルのようにかかえて育ってきた私そうだいも、長い間ぬらりひょんの「いつの間にか」属性は江戸時代の昔から伝わっている歴史のある情報かと思っていたのですが……完全にだまされていました。
でも、これをもってぬらりひょんの「いつの間にか」属性がでたらめだとはもはや言えないわけです。だって、それをもとにしたぬらりひょんイメージが現代にこうやって浸透してしまっているわけですからね。出自の正当性なんかどうでもいいという、実力本位・結果オーライの姿勢こそが「伝承されてナンボ」の妖怪のたくましさなんですなぁ~。変幻自在とはまさにこのことです。
それにしても、『おばけ文庫』の「和歌山県出身」情報はなに根拠なのだろうか……瀬戸内海出身だと思うんだけどなぁ。
こうやって出そろった現代におけるぬらりひょんパズルの全ピースだったのですが、それらを反映したぬらりひょんの活躍は、「第1次妖怪ブーム」が落ち着いて以後、1980年のバブル期にアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』の大ヒットによって再来した「第2次妖怪ブーム」以後のこととなります。
いよいよ青野武ぬらりひょんのご登場だ~! 長かったネ。
次回はですね、その「第1次」と「第2次」とのブームの谷間に、ひょっこりとあだ花のように再登場した「ヘンな顔のぬらりひょん校長」の紹介からいきたいと思います。
みなさん、水木しげる先生のゲゲゲの鬼太郎は、実は高校生くらいまでリアルタイムに成長していたって、ご存じですか~?