《前回までのあらすじ》
ちまたの、『妖怪人間なんとか』実写ドラマ化とかいう心底ど~でもいい話題など、どこ吹く風!
そうだいは相変わらず妖怪総大将ぬらりひょんの一大叙事詩をたどる途上にあったが、サブタイトルに使っていた鳥山石燕の『画図百鬼夜行』シリーズの副題が全部つきてしまったことに驚愕していた。
え、もう14回目なんだ……猫娘は4回で終わったのに……これも、愛!!
アニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』の大ヒットによって1980年代中盤に巻き起こった「第2次妖怪ブーム」でしたが、このブームは1970年前後に起きた「第1次妖怪ブーム」とは、内容において大きな違いがありました。
簡単にいえば、「第1次」の主役はあくまでも日本の伝承の世界に棲んでいた妖怪たちであって、水木しげるによるマンガ作品『ゲゲゲの鬼太郎』は、あくまでもその中にあるコンテンツのひとつに過ぎなかったのです。いやいや、もちろん最大級の貢献度はになっていたわけですが、先に紹介したように、大映の「妖怪3部作」といった「鬼太郎サーガ」と直接の関係がない(水木しげるによるコミカライズはあったらしい)ヒット作もちゃんといっしょに並んでいたわけです。無論のこと、アニメ『妖怪人間ベム』(1968~69年)もそういった流れのひとつですよね。
そういった「第1次」にたいして、結果的に昭和最後の妖怪ブームとなった「第2次」はどうだったのかといいますと、こちらは「妖怪ブーム」というよりも「鬼太郎ブーム」といった方が正しいような内容でした。
要するに、「第2次」はほぼすべてが『ゲゲゲの鬼太郎』というフィクション作品に起点を持つものであり、表向きは「日本古来の……」といったていをなしているようでいながら、実は最近できたばかりの特徴で全身を塗り固めていた妖怪たちでいっぱいだったわけなのです。
そして、言うまでもなくその代表格のような例が、我らがぬらりひょん先生だったということなんですねェ~。
いつの間にか「邪悪なことばっかしか考えていない妖怪」というイメージをばっちり身にまとい、「第2次妖怪ブーム」に欠かせないヒール役になりおおせていたぬらりひょん。
瀬戸内海でぷかぷかしていた過去がなつかしい……
「わしも、もしあのままでおだやかな日々を過ごせていたらどうなっていただろうかと、時々ふと思うことがある……ひまな漁師にしか相手にされないつまらない妖怪のままだったとしても、金とも名声ともまるで縁のないぷかぷかのくり返しだったとしても、それでも、それなりの幸せはあったのではないかと。」
「……ぜんぶ、この大都会が悪いんですよ、ぬらりひょんサマ。オヤジ、ちくわぶ。」
深夜のガード下の屋台で、コップ酒に目をおとしながらつぶやくぬらりひょんと、何かを忘れようとするかのように機械的におでんを口に入れていく朱の盤。
目に浮かぶねェ~。2人の明日はどっちだ!?
さて、そういった感じで、「第1次」ほどの幅の広さはなかったものの、少なくとも「鬼太郎サーガ」という作品世界限定では爆発的な広がりを見せることとなった「第2次妖怪ブーム」。現在の妖怪カルチャーに色濃く影響を与えている新展開が目白押しだったわけです。
ところが、ここで気をつけなければならないのが、「第2次妖怪ブーム」の盛り上がりが、必ずしも「鬼太郎サーガ」の造物主こと水木しげるの意図する展開ばかりでなかったということです。というか、鬼太郎がオカリナムチをあやつる正義の少年になったりアニメ第3期がめまぐるしいバトルシーンを売りとしたアクションものになっていたりした時点で、すでに『ゲゲゲの鬼太郎』という作品は水木しげるの「フハッ。」な世界から解き放たれた存在になってしまっていたのです。
実際に、「第1次」で2度アニメ化された『ゲゲゲの鬼太郎』は、純粋に水木しげるのマンガ作品(本来「鬼太郎もの」ではなかったものも含む)を動画にしたものでしかなかったわけなのですが、1980年代における「第2次妖怪ブーム」でのアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』と水木しげるのマンガ作品『ゲゲゲの鬼太郎』との間には、どうにも埋めがたい不思議な「差異」があったのです。
もちろんそこには、妖怪ぬらりひょんのあつかい方ひとつをとっても大きすぎる違いがありました。
ちょっとここで、アニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』の放送されていた1985年10月~88年3月のあいだに展開されたその他の「鬼太郎サーガ」作品を時系列順にあげてみましょう。
『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』(1985年9月~87年8月 全26話)
・『月刊コミックボンボン』(講談社)で連載された鬼太郎サーガ番外編シリーズ
・このシリーズは「水木プロダクション製作」となっており、実質的な原作者は特撮ライターの金田益実、作画者は当時水木プロに所属していた森野達弥だった
※森野は現在独立して活動しており、そのためか『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』の単行本コミックスは、連載時以降再版されていない
・アニメ第3期のタイアップ作品で世界観はほぼ同じであるものの、だいぶ自由にアニメから逸脱した長編ストーリーマンガとなっている
・ぬらりひょんが実際に日本妖怪の3分の2を統率する「妖怪総大将」に設定されていて、アニメとは比較にならないほど強大なラスボスに設定されている
※鬼太郎によって約7千万年前に追放されたぬらりひょんと朱の盤が現代に復活した経緯がしっかりと説明されている唯一の公式作品
・この作品でのぬらりひょんは、洋装の軍服とマントを身にまとった大男となっており(顔つきはアニメ第3期に近い)、シーンによっては身長50メートルくらいまでに巨大化して自ら闘う
・物語のクライマックスで、ぬらりひょんは三原山噴火口に落下して巨大ゾンビ妖怪「食妖鬼」に変貌し、伊豆大島を壊滅させて鬼太郎と決戦する
『新編 ゲゲゲの鬼太郎』(1986年5月~87年9月 全52話)
・『週刊少年マガジン』(講談社)で連載された、水木しげるによる鬼太郎サーガ8番目のシリーズ
・ラスト4話分の『鬼太郎地獄編』はアニメ化にさきがけた『月刊少年マガジン』での連載(1987年6~9月)
・このシリーズはアニメ第3期の放送開始後に連載が始まっているが、ほとんどのエピソードがアニメ化されているため、第3期の実質的な「原作」にあたる
・『地獄編』も含めて、ぬらりひょんと朱の盤がいっさい登場しない
・妖怪ハンター・ヒ一族、魔女ジニヤー、鬼道衆などといった強豪が登場している
アニメ第3期の劇場版第4作『激突!!異次元妖怪の大反乱』(1986年12月 48分)
・「東映まんがまつり」の1作で、4作製作されたアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』オリジナル劇場版の最終作
・ストーリーは原作マンガの『朧車(おぼろぐるま)』(1968年10月発表 全4回)をもとにしている
・原作では「妖怪総理大臣ぐわごぜ(ガゴゼ)」と「朧車」がラスボスとなっていたが、この作品ではさらにその上に「妖怪皇帝ぬらりひょん」が設定されている
・ぬらりひょん率いる妖怪軍団は東京都心を占拠することに成功しており、アニメ第3期の中でぬらりひょんが「妖怪総大将」になったのはこの1回だけ
※この映画が公開された当時、TVアニメ本編はシリーズ中盤の第60話付近にさしかかっていたのだが、ぬらりひょんは相変わらずの小悪党のままであり、劇場版での「総大将ぶり」はかなり異質
・妖怪皇帝ぬらりひょん自身にさほどの外見の変化はないが、『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』のような洋装軍服にマント姿で、終始、顔も鋼鉄のカブトと鉄仮面で隠している(けど、声でぬらりひょんだとすぐわかる)
・どういった経緯でかは不明なのだが、この作品だけであの「蛇骨婆」がひょっこり復活している(やっぱりぬらりひょんは彼女を忘れてはいなかった……愛だ)
・アニメ第3期名物「正義に目覚めたねずみ男(演・富山敬!)」の涙の演技が炸裂するウェッティな傑作
オリジナルビデオ『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪奇伝・魔笛エロイムエッサイム』(1987年7月リリース 56分)
・東映による実写版『ゲゲゲの鬼太郎』の第2作(Vシネマとしての製作)
・ゲゲゲの鬼太郎と「悪魔くん」が共演するオリジナルストーリー(脚本・大原清秀)
※水木しげる原作の『悪魔くん』は1963~94年に執筆された名シリーズで、1966年10月~67年3月には実写版連続ドラマ(モノクロ)、1986年9月には『月曜ドラマランド』版実写スペシャルドラマ、1989年4月~90年3月にはテレビ朝日でアニメシリーズが放映されている
※鬼太郎と悪魔くんはマンガ『鬼太郎対悪魔くん』(1976年7月)でも共演(というか、文字通りの対決)したことがあるが、内容はまったく違う
※「悪魔くん」というキャラクターは複数の原作シリーズによってそれぞれ別の少年が名乗っているため、すべてが同一人物ではない
・主役の鬼太郎をはじめ、キャスティングは『月曜ドラマランド』版から一新されている(当然ながら、目玉の親父役の田の中勇だけはいっしょ)
・ぬらりひょん役を演じたのは、時代劇の悪代官役や『仮面ライダースーパー1』(1980~81年)の帝王テラーマクロ役などでも有名な、名悪役俳優の汐路章(しおじ あきら 59歳)
・ぬらりひょんは『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』や劇場版『激突!!異次元妖怪の大反乱』に準拠した洋装軍服姿
・この作品でもぬらりひょんは悪のラスボスを演じており、従えている妖怪は朱の盤、桜の精、濡れ女、鉄鼠、カラス天狗、夜道怪(やどうかい)、ぬっぺっぽう、河童、家鳴り(やなり)
こういった作品が「第2次妖怪ブーム」をいろどっていたわけなんですね。
いや~しかし、こうやってならべてみただけでも、ぬらりひょんというキャラクターの哀しい境遇が容易に見てとることができるのではないでしょうか。
水木先生、ぬらりひょん一味はガン無視ですか……かわいくなくても一応レギュラーにはなっていた猫娘さえもがうらやましく見えてしまうこの扱い。
とにかく、ぬらりひょんはアニメ本編ではうだつのあがらないしけた悪役にあまんじていたのですが、早くもすでに、この1980年代の時点で、マンガ『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』と劇場版『激突!!異次元妖怪の大反乱』の2作品で見事に「妖怪総大将」の立場をつかみ取ることに成功していました。まぁ、そんなに長い時間じゃなかったし、その末路もかなりキッツイものにはなっていましたが。
『魔笛エロイムエッサイム』では、前作の『月曜ドラマランド』版にくらべて配下の妖怪が倍増するという快挙をなしとげてはいたのですが、それでも10匹そこそこじゃあ「総大将」とは呼べませんやねぇ。
まぁ、こういった感じで、わかりやすい「勧善懲悪」をむねとするアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』周辺において、ぬらりひょんは屈指の名悪役としてのポジションを手堅く確保することに成功したのでありました。
さぁ最後に、「鬼太郎サーガ」でも異色の作品と言える『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』の中で妖怪総大将ぬらりひょんご本人が語っていた、彼と朱の盤が7千万年の時を超えて現代に復活することができた、その衝撃の真相を紹介して今回はおしまいにしましょう。
「きみ(鬼太郎)に原始時代に流されてから わしはずっと時をまった。
いわば2億年という長い年月をへて ふたたび帰ってきたわけだ。
それまでのわしには たいした力などはなかった。
ところが人間のみにくい欲望や悪行を見ているうちに……
わしの頭にさまざまな変化があらわれた。
人間のかずかずの戦争の記憶が流れだした。
戦乱とにくしみの邪悪なエネルギーがわしに力をあたえてくれ、
人間の悪が多くなれば多くなるほど わしの力は強くなるのだ!」
(第6回『出現!妖怪総大将』の巻より)
……要するに、過去から現代まで、鬼太郎に会うために長生きして待っていた、ということなのね。
なんか発言があいまいなのですが、流されたのが「原始時代」だったら時間は「3~5万年前」だし、アニメどおりに「白亜紀末期」だったとしてもせいぜい「7千万年前」ですよね?
「2億年」はいくらなんでも言いすぎだろ……さすがはぬらりひょん、「ウソの精」なだけはある!
なるほど、ということは、現在の「妖怪総大将ぬらりひょん」があるのは、ひとえに他ならぬ「ゲゲゲの鬼太郎」その人のおかげ、ということになるのね!!
なんか、ほんとに「バットマンとジョーカー」とか、「アンパンマンとばいきんまん」みたいな根元的でウロボロス的な関係にあるのね、このお2人。
ぬらりひょんサーガ、ふーかーいーぞぉ~!!(なぜか味皇)
ちまたの、『妖怪人間なんとか』実写ドラマ化とかいう心底ど~でもいい話題など、どこ吹く風!
そうだいは相変わらず妖怪総大将ぬらりひょんの一大叙事詩をたどる途上にあったが、サブタイトルに使っていた鳥山石燕の『画図百鬼夜行』シリーズの副題が全部つきてしまったことに驚愕していた。
え、もう14回目なんだ……猫娘は4回で終わったのに……これも、愛!!
アニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』の大ヒットによって1980年代中盤に巻き起こった「第2次妖怪ブーム」でしたが、このブームは1970年前後に起きた「第1次妖怪ブーム」とは、内容において大きな違いがありました。
簡単にいえば、「第1次」の主役はあくまでも日本の伝承の世界に棲んでいた妖怪たちであって、水木しげるによるマンガ作品『ゲゲゲの鬼太郎』は、あくまでもその中にあるコンテンツのひとつに過ぎなかったのです。いやいや、もちろん最大級の貢献度はになっていたわけですが、先に紹介したように、大映の「妖怪3部作」といった「鬼太郎サーガ」と直接の関係がない(水木しげるによるコミカライズはあったらしい)ヒット作もちゃんといっしょに並んでいたわけです。無論のこと、アニメ『妖怪人間ベム』(1968~69年)もそういった流れのひとつですよね。
そういった「第1次」にたいして、結果的に昭和最後の妖怪ブームとなった「第2次」はどうだったのかといいますと、こちらは「妖怪ブーム」というよりも「鬼太郎ブーム」といった方が正しいような内容でした。
要するに、「第2次」はほぼすべてが『ゲゲゲの鬼太郎』というフィクション作品に起点を持つものであり、表向きは「日本古来の……」といったていをなしているようでいながら、実は最近できたばかりの特徴で全身を塗り固めていた妖怪たちでいっぱいだったわけなのです。
そして、言うまでもなくその代表格のような例が、我らがぬらりひょん先生だったということなんですねェ~。
いつの間にか「邪悪なことばっかしか考えていない妖怪」というイメージをばっちり身にまとい、「第2次妖怪ブーム」に欠かせないヒール役になりおおせていたぬらりひょん。
瀬戸内海でぷかぷかしていた過去がなつかしい……
「わしも、もしあのままでおだやかな日々を過ごせていたらどうなっていただろうかと、時々ふと思うことがある……ひまな漁師にしか相手にされないつまらない妖怪のままだったとしても、金とも名声ともまるで縁のないぷかぷかのくり返しだったとしても、それでも、それなりの幸せはあったのではないかと。」
「……ぜんぶ、この大都会が悪いんですよ、ぬらりひょんサマ。オヤジ、ちくわぶ。」
深夜のガード下の屋台で、コップ酒に目をおとしながらつぶやくぬらりひょんと、何かを忘れようとするかのように機械的におでんを口に入れていく朱の盤。
目に浮かぶねェ~。2人の明日はどっちだ!?
さて、そういった感じで、「第1次」ほどの幅の広さはなかったものの、少なくとも「鬼太郎サーガ」という作品世界限定では爆発的な広がりを見せることとなった「第2次妖怪ブーム」。現在の妖怪カルチャーに色濃く影響を与えている新展開が目白押しだったわけです。
ところが、ここで気をつけなければならないのが、「第2次妖怪ブーム」の盛り上がりが、必ずしも「鬼太郎サーガ」の造物主こと水木しげるの意図する展開ばかりでなかったということです。というか、鬼太郎がオカリナムチをあやつる正義の少年になったりアニメ第3期がめまぐるしいバトルシーンを売りとしたアクションものになっていたりした時点で、すでに『ゲゲゲの鬼太郎』という作品は水木しげるの「フハッ。」な世界から解き放たれた存在になってしまっていたのです。
実際に、「第1次」で2度アニメ化された『ゲゲゲの鬼太郎』は、純粋に水木しげるのマンガ作品(本来「鬼太郎もの」ではなかったものも含む)を動画にしたものでしかなかったわけなのですが、1980年代における「第2次妖怪ブーム」でのアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』と水木しげるのマンガ作品『ゲゲゲの鬼太郎』との間には、どうにも埋めがたい不思議な「差異」があったのです。
もちろんそこには、妖怪ぬらりひょんのあつかい方ひとつをとっても大きすぎる違いがありました。
ちょっとここで、アニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』の放送されていた1985年10月~88年3月のあいだに展開されたその他の「鬼太郎サーガ」作品を時系列順にあげてみましょう。
『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』(1985年9月~87年8月 全26話)
・『月刊コミックボンボン』(講談社)で連載された鬼太郎サーガ番外編シリーズ
・このシリーズは「水木プロダクション製作」となっており、実質的な原作者は特撮ライターの金田益実、作画者は当時水木プロに所属していた森野達弥だった
※森野は現在独立して活動しており、そのためか『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』の単行本コミックスは、連載時以降再版されていない
・アニメ第3期のタイアップ作品で世界観はほぼ同じであるものの、だいぶ自由にアニメから逸脱した長編ストーリーマンガとなっている
・ぬらりひょんが実際に日本妖怪の3分の2を統率する「妖怪総大将」に設定されていて、アニメとは比較にならないほど強大なラスボスに設定されている
※鬼太郎によって約7千万年前に追放されたぬらりひょんと朱の盤が現代に復活した経緯がしっかりと説明されている唯一の公式作品
・この作品でのぬらりひょんは、洋装の軍服とマントを身にまとった大男となっており(顔つきはアニメ第3期に近い)、シーンによっては身長50メートルくらいまでに巨大化して自ら闘う
・物語のクライマックスで、ぬらりひょんは三原山噴火口に落下して巨大ゾンビ妖怪「食妖鬼」に変貌し、伊豆大島を壊滅させて鬼太郎と決戦する
『新編 ゲゲゲの鬼太郎』(1986年5月~87年9月 全52話)
・『週刊少年マガジン』(講談社)で連載された、水木しげるによる鬼太郎サーガ8番目のシリーズ
・ラスト4話分の『鬼太郎地獄編』はアニメ化にさきがけた『月刊少年マガジン』での連載(1987年6~9月)
・このシリーズはアニメ第3期の放送開始後に連載が始まっているが、ほとんどのエピソードがアニメ化されているため、第3期の実質的な「原作」にあたる
・『地獄編』も含めて、ぬらりひょんと朱の盤がいっさい登場しない
・妖怪ハンター・ヒ一族、魔女ジニヤー、鬼道衆などといった強豪が登場している
アニメ第3期の劇場版第4作『激突!!異次元妖怪の大反乱』(1986年12月 48分)
・「東映まんがまつり」の1作で、4作製作されたアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』オリジナル劇場版の最終作
・ストーリーは原作マンガの『朧車(おぼろぐるま)』(1968年10月発表 全4回)をもとにしている
・原作では「妖怪総理大臣ぐわごぜ(ガゴゼ)」と「朧車」がラスボスとなっていたが、この作品ではさらにその上に「妖怪皇帝ぬらりひょん」が設定されている
・ぬらりひょん率いる妖怪軍団は東京都心を占拠することに成功しており、アニメ第3期の中でぬらりひょんが「妖怪総大将」になったのはこの1回だけ
※この映画が公開された当時、TVアニメ本編はシリーズ中盤の第60話付近にさしかかっていたのだが、ぬらりひょんは相変わらずの小悪党のままであり、劇場版での「総大将ぶり」はかなり異質
・妖怪皇帝ぬらりひょん自身にさほどの外見の変化はないが、『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』のような洋装軍服にマント姿で、終始、顔も鋼鉄のカブトと鉄仮面で隠している(けど、声でぬらりひょんだとすぐわかる)
・どういった経緯でかは不明なのだが、この作品だけであの「蛇骨婆」がひょっこり復活している(やっぱりぬらりひょんは彼女を忘れてはいなかった……愛だ)
・アニメ第3期名物「正義に目覚めたねずみ男(演・富山敬!)」の涙の演技が炸裂するウェッティな傑作
オリジナルビデオ『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪奇伝・魔笛エロイムエッサイム』(1987年7月リリース 56分)
・東映による実写版『ゲゲゲの鬼太郎』の第2作(Vシネマとしての製作)
・ゲゲゲの鬼太郎と「悪魔くん」が共演するオリジナルストーリー(脚本・大原清秀)
※水木しげる原作の『悪魔くん』は1963~94年に執筆された名シリーズで、1966年10月~67年3月には実写版連続ドラマ(モノクロ)、1986年9月には『月曜ドラマランド』版実写スペシャルドラマ、1989年4月~90年3月にはテレビ朝日でアニメシリーズが放映されている
※鬼太郎と悪魔くんはマンガ『鬼太郎対悪魔くん』(1976年7月)でも共演(というか、文字通りの対決)したことがあるが、内容はまったく違う
※「悪魔くん」というキャラクターは複数の原作シリーズによってそれぞれ別の少年が名乗っているため、すべてが同一人物ではない
・主役の鬼太郎をはじめ、キャスティングは『月曜ドラマランド』版から一新されている(当然ながら、目玉の親父役の田の中勇だけはいっしょ)
・ぬらりひょん役を演じたのは、時代劇の悪代官役や『仮面ライダースーパー1』(1980~81年)の帝王テラーマクロ役などでも有名な、名悪役俳優の汐路章(しおじ あきら 59歳)
・ぬらりひょんは『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』や劇場版『激突!!異次元妖怪の大反乱』に準拠した洋装軍服姿
・この作品でもぬらりひょんは悪のラスボスを演じており、従えている妖怪は朱の盤、桜の精、濡れ女、鉄鼠、カラス天狗、夜道怪(やどうかい)、ぬっぺっぽう、河童、家鳴り(やなり)
こういった作品が「第2次妖怪ブーム」をいろどっていたわけなんですね。
いや~しかし、こうやってならべてみただけでも、ぬらりひょんというキャラクターの哀しい境遇が容易に見てとることができるのではないでしょうか。
水木先生、ぬらりひょん一味はガン無視ですか……かわいくなくても一応レギュラーにはなっていた猫娘さえもがうらやましく見えてしまうこの扱い。
とにかく、ぬらりひょんはアニメ本編ではうだつのあがらないしけた悪役にあまんじていたのですが、早くもすでに、この1980年代の時点で、マンガ『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』と劇場版『激突!!異次元妖怪の大反乱』の2作品で見事に「妖怪総大将」の立場をつかみ取ることに成功していました。まぁ、そんなに長い時間じゃなかったし、その末路もかなりキッツイものにはなっていましたが。
『魔笛エロイムエッサイム』では、前作の『月曜ドラマランド』版にくらべて配下の妖怪が倍増するという快挙をなしとげてはいたのですが、それでも10匹そこそこじゃあ「総大将」とは呼べませんやねぇ。
まぁ、こういった感じで、わかりやすい「勧善懲悪」をむねとするアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』周辺において、ぬらりひょんは屈指の名悪役としてのポジションを手堅く確保することに成功したのでありました。
さぁ最後に、「鬼太郎サーガ」でも異色の作品と言える『最新版 ゲゲゲの鬼太郎』の中で妖怪総大将ぬらりひょんご本人が語っていた、彼と朱の盤が7千万年の時を超えて現代に復活することができた、その衝撃の真相を紹介して今回はおしまいにしましょう。
「きみ(鬼太郎)に原始時代に流されてから わしはずっと時をまった。
いわば2億年という長い年月をへて ふたたび帰ってきたわけだ。
それまでのわしには たいした力などはなかった。
ところが人間のみにくい欲望や悪行を見ているうちに……
わしの頭にさまざまな変化があらわれた。
人間のかずかずの戦争の記憶が流れだした。
戦乱とにくしみの邪悪なエネルギーがわしに力をあたえてくれ、
人間の悪が多くなれば多くなるほど わしの力は強くなるのだ!」
(第6回『出現!妖怪総大将』の巻より)
……要するに、過去から現代まで、鬼太郎に会うために長生きして待っていた、ということなのね。
なんか発言があいまいなのですが、流されたのが「原始時代」だったら時間は「3~5万年前」だし、アニメどおりに「白亜紀末期」だったとしてもせいぜい「7千万年前」ですよね?
「2億年」はいくらなんでも言いすぎだろ……さすがはぬらりひょん、「ウソの精」なだけはある!
なるほど、ということは、現在の「妖怪総大将ぬらりひょん」があるのは、ひとえに他ならぬ「ゲゲゲの鬼太郎」その人のおかげ、ということになるのね!!
なんか、ほんとに「バットマンとジョーカー」とか、「アンパンマンとばいきんまん」みたいな根元的でウロボロス的な関係にあるのね、このお2人。
ぬらりひょんサーガ、ふーかーいーぞぉ~!!(なぜか味皇)