どう~もこんばんは。そうだいです。
ほんとにまぁ、日々刻々とあたたかくなってまいりました。気がつけば桜の花も過ぎゆき、「ゴールデンウィークどうするぅ~?」なんていう会話が耳に入ってくる季節に。梅雨のあとは夏の到来ですよ!
4月ももうおしまいですねぇ。いろいろとやりたいことをやりつつも、まだやっていないことにも想いをはせたりしております。光陰矢の如しですからねぇ、挑戦したいことはいっぱいありますが身体は1つだけ。謙虚に貪欲に生きていこう。
先日のブログで私、最近読んだ小説とマンガについてのことをいろいろとつづっていたのですが、今回はまたしてもマンガの話題をしてみたいと思います。
しめ方としては「な~んか、気軽に読めるおもしろいマンガでもねぇかな?」という流れになったのですが、その前に最近好きだったギャグマンガってなんだっけ? と考えたときに、いくつかあった中でもいの一番に思い出したのが、今回とりあげるギャグマンガです。
これはすでに連載が終了してしまっている作品なので、最新刊を楽しみにするということはすでにかなわないのですが、当時は本当に大好きでしたねぇ。
とにかくまぁ、作者の発想の豊かさと描写力がきわだっていいんです!
『アゴなしゲンとオレ物語』(作・平本アキラ 1998~2009年に講談社『週刊ヤングマガジン』で連載 単行本全32巻)
いや~、好きでしたねぇ! だいたい12ページくらいで展開されるショートギャグマンガで、ほぼ1話完結のかたちで11年間、450話を超える珠玉のエピソード群が連載されていきました。
ストーリーの基本はいたってシンプルで、超零細運送会社「アゴナシ運送」(社員1名、のち2名)を経営している、容姿が極端に特徴的な中年男「アゴなしゲン」ことゲンさん(32歳既婚)と、彼をとりまく人々のダメダメしくもいとおしい非日常の日々を描くというものでした。
お話の主人公はいちおう、タイトルの「オレ」にあたるアゴナシ運送社員のケンヂ(19歳ヒモ生活)だったのですが、本来はツッコミ役に徹するべきところを急速にゲンさんの生きざまに影響されて自身もダメ人間街道をバク進していくことになり、その後は明確な常識人(読者が感情移入できる人)が誰もいないケイオスワールドがだだ漏れになっていくこととなります。
天下の『ヤンマガ』連載ということでお色気要素もふんだんにあり……というか、全体的に「お色気」とはちょっと違う次元にいっちゃっている「変態おげれつ要素」だけがストーリーを牽引する原動力であるという悪夢のようなエピソードもひんぴんと見られました。
まぁそんなこともあって、作品の「華」となるべき見目うるわしいヒロインの方々も単なる美女であるわけがなく、
・低収入のケンヂをやしなっている男気あふれる職業不詳の彼女「ちいちゃん」
・昼は保育士で夜は風俗嬢という、人とのふれあいをライフワークにするゲンさんのマドンナ「ハルちゃん」
・アゴナシ運送第2の社員で巨乳メガネっ子という容姿をまったく活かそうとしない冷徹娘「月形」
といったひとクセもふたクセもあるキャラクターばかり。でも、男女関係なく全キャラクターに共通しているのは、おのれにウソをつかない生きざまをまっとうしていること! これは素晴らしいことです。まぁ、あまりにウソをつかなすぎたために警察のお世話になったり、存在自体があぶなすぎていつの間にか連載から姿を消してしまった人も何人かいたんですけどね。
『アゴなしゲンとオレ物語』を語る上でどうしても避けて通れないのが、作者・平本アキラ先生の常識を超越した速度での「画力の上達」です。
ちょっとね……第1巻と最終第32巻とでは、いくら10年以上の時間差があるとはいえ、作者が違ったとしか思えないような作画レヴェルのへだたりが見受けられます。
最初期ははっきり言って「マンガを描きたい!!」という気合いだけでコマをうめているような男くさい乱雑&大出血なバイオレンスワールドだったのですが、それがみるみるうちにうまくなってくうまくなってく。
転機はやっぱり、女性でありながら積極的に体をはったボケに参加していく月形さんの参戦からなのではないでしょうか。だいたい連載3年目、単行本も第10巻を数えたあたりから「カッコイイ(ように一瞬だけ見える)男」と「セクシーな女」が要所要所でビシッと描きだされてお話を引き締めるようになってくるのです。
すごい! 混沌に秩序が生まれはじめた!!
平本先生の『アゴゲン』を通した画力の上達の歴史は、まさに人類の武器の歴史にも匹敵しようかというドラマチックなものでした。
それはそのまま作品の「ギャグの原動力」にも直結しているテーマであり、最初期の画風は、美しいもののいっさいない荒野で「きれいなお姉ちゃんはいねが~! ニッヘェ~。」というゲンさんの雄叫びがこだまする原始時代の石オノのような鈍重な破壊力のみ。全コマ全力投球なので、若干読んでていて疲れます。
ところが描写力があがった結果、ゲンさんの周辺にもチラホラと美女(たいてい変人か物の怪)が出て来るにつれて、「なんでこんな変な奴らしか寄ってこねぇんだ! デラ・ベッピン!!」という引き気味の余裕がゲンさんに生まれてくるようになるのです。基本はボケつつも、あのゲンさんにもついにツッコミをやる余裕が出てきた……まさにこれは、押して引いてのウデがかなめとなる斬撃系切れ味バツグンの日本刀の時代への移行です。
この流れにしたがって、ギャグの種類もただただお下劣下ネタ一点押しの前期から、ギャグマンガ界屈指の美麗な描線でベタ、シュール、バイオレンス、エロなどを幅広く描きわけていく後期へと進化していきました。
連載後半の『アゴゲン』のタッチは、まさに「洗練」とはこういうことなのかという感じで、前半に比べて描線は細くなって的確になり、特にスクリーントーンの技術が格段にアップしたために、全体的に絵に透明感はあるのに描かれている情報量がハンパなく豊潤という域に達していました。
もともと平本先生は1970年代の日本の劇画マンガやハリウッド映画に相当な思い入れがあるらしく、『実験人形ダミー・オスカー』や『ダーティーハリー』、『ロッキー』などにささげられたと思われるネタがしょっちゅう見られ、そのために前期は異常に点描や線描が多い真っ黒なコマが多かったのですが、そこらへんの想いをたたきつけるように描き、そして無念にも連載中断のやむなきにいたってしまった『俺と悪魔のブルーズ』(2004~08年に講談社『月刊アフタヌーン』で連載)を通じて、いい意味で平本先生はそれらへの傾倒から卒業していったようです。
こんな感じで、パワー勝負の荒削りな前期とアイデアと上達したテクニック勝負の後期。どちらもまごうことなき『アゴなしゲンとオレ物語』ながら、互いにまったく違う方向性の輝きを見せている表裏鏡あわせの関係が生まれたのです。
このへんの作品の方向性と画力との密接な関係は、同じ『ヤングマガジン』で1993~96年に連載されていた思春期ギャグマンガの最高峰とも言われる『行け! 稲中卓球部』(作・古谷実 単行本全13巻)にも通じるものがあるかと思うのですが……どっちにしろ、ギャグマンガって、絵のうまいへたって、おもしろさとは意外と無関係なんですよね。むしろ、絵がうますぎるとギャグがさめちゃうっていうマイナス面もあるような……
平本先生……キャリアの最初っから、10年以上も続く名作マンガを世に出しちゃったし、しかもあんなに絵がうまくなっちゃったし、これからどうするんだろ!?
余計なお世話ながらも心配でしょうがなかったのですが、去年の暮れからNTTドコモのケータイ電話専用の動画サービス「BeeTV」内で『アゴゲン』のパラパラアニメ放送(マンガのコマに声優のセリフがのっかったようなやつ)が配信されるようになり、今年の2月からは平本先生の満を持しての新連載となる『監獄学園(プリズンスクール)』が始まりました。いよいよ動き出しましたね!
人に『アゴなしゲンとオレ物語』を「おもしろいから読んでみてよ!」とすすめる時、なんといっても最大の障壁となるのはそのギャグのお下劣性なのですが、もうひとつ気になってしまうのがその全32巻という長さです。
でも大丈夫! 『アゴゲン』は基本的に1話完結形式ですから、どの巻のどのエピソードから読んでいただいてもけっこうです。とにかく読む人に要求されるのは、『アゴゲン』の狂気に満ちた世界に耐えられる精神の強さと、その狂気の奥に込められている人間の真実の「友愛」を見出すまなざしです。
それさえあれば、あなたにも『アゴゲン』のすばらしさはわかるはずだ、たぶん……
ここで、私がもっとも心に残っている『アゴなしゲンとオレ物語』マイベストエピソードを紹介したいと思います。
基本的に下ネタとエロに満ちている『アゴゲン』ワールドだし、私もそこが大好きなところなのですが、なぜか一番心に残ったのは、あんまりそこらへんの味わいは出てこないお話でした。
第436・437話 『女装のトラッカー 前後編』(2008年12月 単行本第31巻に収録)
これはすばらしいです。だいたい長く続いたギャグマンガの末期って、ノリノリだったころに比べて見劣りする部分が少なからずあるし、実際に『アゴゲン』の最終巻にも「うむむ。」と思ってしまう物寂しさはあったのですが、その直前に生み出されたこのエピソードは最高でした。これがおさめられたコミックス31巻自体、あのスタジオジブリの有名作への愛情がたっぷり詰まった名編『崖上のトラッカー』などの高レヴェル作がそろっています。『アゴゲン』としては最後のクリスマスとなる2008年の12月24日に起きたドドイツ・テロのお話もあるからすっげぇお得!
『女装のトラッカー』は『アゴゲン』にしては珍しく前後編の展開となっているのですが、タイトルのとおり、ひょんなことから女装した姿をゲンさんに見られてしまったケンヂが主人公となるお話です。
ほんのたわむれで女装していた姿をゲンさんに見られたケンヂなのですが、ゲンさんはどうやら女装したケンヂのことを知らない女性だと勘違いしているようすで、調子に乗ったケンヂはゲンさんに好意を寄せているようなそぶりを見せ始めるのだが……というのがお話のすじ。
いや~……このエピソードのオチには一本とられました。
400話以上やっている『アゴゲン』なんですから、とびっきりぶっ飛んだオチというものにも見慣れていたつもりだったのですが、これはもう、いやはや上質のミステリーか星新一のショートショートを読んだかのような「すっころび感」に襲われてしまいました。やられた~!!
あの、たぶん、「見知った人間が変装して初対面のふりをする」という典型的なパターンですし「男が女装して男をだます」というところもギャグマンガとしては特に目新しくはないので、もしかしたらある程度の方はオチを予想することはできるかもしれないんですが、私は見事にやられました。
無数にある珠玉の名作たちの中で、なぜ私がこのエピソードをおしたのかというと、
オチがわかったあとで読み直しても、いやさ、オチがわかっているからこそ読み直せば読み直すほどおもしろくなるから!!
ね~、ホントにミステリー小説の名作みたいでしょ? 『女装のトラッカー』は、ジャンルで言うとミステリー? スリラー? はたまたサイコサスペンス?
ほめすぎでしょうか……いや、そんなことはないはずです。とにかく、1コマ1コマでの登場人物たちの行動に込められた細かな動きすべてに「隠された意味」がある!
これは生半可な画力のマンガ家さんにはできない芸当ですよ。だからこそ、描写力の熟達した時期の平本先生だからこそ創造し得た至高の逸品だったのでしょう。
絵のうまさだけじゃなくて、このエピソードは平本先生の巧妙なストーリーテリングもきわだっています。まぁホントによくできたドラマですよ。しかも、よくよく考えてみたら「マンガ」という形式でしか成立しないんだ、このプロット。
ところで、この『女装のトラッカー』にはいつも通りレギュラーキャラのほとんどが出演しているのですが、『アゴゲン』きってのリアリストである月形だけが登場していません。
なにをかくそう、私がいちばん大好きな『アゴゲン』キャラは無駄にナイスバディな月形さんだったので、最初は「なんで出てこないんだろう?」と首をかしげていたのですが、オチを見届けた段階で深くうなずくことができました。
『女装のトラッカー』は、月形が出てきたらその時点ですべてがぶちこわしになるエピソードなのよ……
おそるべし、平本采配。
たかがギャグマンガといわずに、すべての出演キャラクターに熱い愛情と怜悧な計算の眼がゆきとどいた『アゴなしゲンとオレ物語』の伝説を、まだご覧になられていない方はぜひともご一読いただきたいと思います。
最後に、主人公ゲンさんが愛していやまないこの言葉を。
「愛死美絵無(あいしーびーえむ)」
意味は……
「愛」することも 「死」ぬことも
「美」しすぎて 「絵」になら「無」い
ほんとにまぁ、日々刻々とあたたかくなってまいりました。気がつけば桜の花も過ぎゆき、「ゴールデンウィークどうするぅ~?」なんていう会話が耳に入ってくる季節に。梅雨のあとは夏の到来ですよ!
4月ももうおしまいですねぇ。いろいろとやりたいことをやりつつも、まだやっていないことにも想いをはせたりしております。光陰矢の如しですからねぇ、挑戦したいことはいっぱいありますが身体は1つだけ。謙虚に貪欲に生きていこう。
先日のブログで私、最近読んだ小説とマンガについてのことをいろいろとつづっていたのですが、今回はまたしてもマンガの話題をしてみたいと思います。
しめ方としては「な~んか、気軽に読めるおもしろいマンガでもねぇかな?」という流れになったのですが、その前に最近好きだったギャグマンガってなんだっけ? と考えたときに、いくつかあった中でもいの一番に思い出したのが、今回とりあげるギャグマンガです。
これはすでに連載が終了してしまっている作品なので、最新刊を楽しみにするということはすでにかなわないのですが、当時は本当に大好きでしたねぇ。
とにかくまぁ、作者の発想の豊かさと描写力がきわだっていいんです!
『アゴなしゲンとオレ物語』(作・平本アキラ 1998~2009年に講談社『週刊ヤングマガジン』で連載 単行本全32巻)
いや~、好きでしたねぇ! だいたい12ページくらいで展開されるショートギャグマンガで、ほぼ1話完結のかたちで11年間、450話を超える珠玉のエピソード群が連載されていきました。
ストーリーの基本はいたってシンプルで、超零細運送会社「アゴナシ運送」(社員1名、のち2名)を経営している、容姿が極端に特徴的な中年男「アゴなしゲン」ことゲンさん(32歳既婚)と、彼をとりまく人々のダメダメしくもいとおしい非日常の日々を描くというものでした。
お話の主人公はいちおう、タイトルの「オレ」にあたるアゴナシ運送社員のケンヂ(19歳ヒモ生活)だったのですが、本来はツッコミ役に徹するべきところを急速にゲンさんの生きざまに影響されて自身もダメ人間街道をバク進していくことになり、その後は明確な常識人(読者が感情移入できる人)が誰もいないケイオスワールドがだだ漏れになっていくこととなります。
天下の『ヤンマガ』連載ということでお色気要素もふんだんにあり……というか、全体的に「お色気」とはちょっと違う次元にいっちゃっている「変態おげれつ要素」だけがストーリーを牽引する原動力であるという悪夢のようなエピソードもひんぴんと見られました。
まぁそんなこともあって、作品の「華」となるべき見目うるわしいヒロインの方々も単なる美女であるわけがなく、
・低収入のケンヂをやしなっている男気あふれる職業不詳の彼女「ちいちゃん」
・昼は保育士で夜は風俗嬢という、人とのふれあいをライフワークにするゲンさんのマドンナ「ハルちゃん」
・アゴナシ運送第2の社員で巨乳メガネっ子という容姿をまったく活かそうとしない冷徹娘「月形」
といったひとクセもふたクセもあるキャラクターばかり。でも、男女関係なく全キャラクターに共通しているのは、おのれにウソをつかない生きざまをまっとうしていること! これは素晴らしいことです。まぁ、あまりにウソをつかなすぎたために警察のお世話になったり、存在自体があぶなすぎていつの間にか連載から姿を消してしまった人も何人かいたんですけどね。
『アゴなしゲンとオレ物語』を語る上でどうしても避けて通れないのが、作者・平本アキラ先生の常識を超越した速度での「画力の上達」です。
ちょっとね……第1巻と最終第32巻とでは、いくら10年以上の時間差があるとはいえ、作者が違ったとしか思えないような作画レヴェルのへだたりが見受けられます。
最初期ははっきり言って「マンガを描きたい!!」という気合いだけでコマをうめているような男くさい乱雑&大出血なバイオレンスワールドだったのですが、それがみるみるうちにうまくなってくうまくなってく。
転機はやっぱり、女性でありながら積極的に体をはったボケに参加していく月形さんの参戦からなのではないでしょうか。だいたい連載3年目、単行本も第10巻を数えたあたりから「カッコイイ(ように一瞬だけ見える)男」と「セクシーな女」が要所要所でビシッと描きだされてお話を引き締めるようになってくるのです。
すごい! 混沌に秩序が生まれはじめた!!
平本先生の『アゴゲン』を通した画力の上達の歴史は、まさに人類の武器の歴史にも匹敵しようかというドラマチックなものでした。
それはそのまま作品の「ギャグの原動力」にも直結しているテーマであり、最初期の画風は、美しいもののいっさいない荒野で「きれいなお姉ちゃんはいねが~! ニッヘェ~。」というゲンさんの雄叫びがこだまする原始時代の石オノのような鈍重な破壊力のみ。全コマ全力投球なので、若干読んでていて疲れます。
ところが描写力があがった結果、ゲンさんの周辺にもチラホラと美女(たいてい変人か物の怪)が出て来るにつれて、「なんでこんな変な奴らしか寄ってこねぇんだ! デラ・ベッピン!!」という引き気味の余裕がゲンさんに生まれてくるようになるのです。基本はボケつつも、あのゲンさんにもついにツッコミをやる余裕が出てきた……まさにこれは、押して引いてのウデがかなめとなる斬撃系切れ味バツグンの日本刀の時代への移行です。
この流れにしたがって、ギャグの種類もただただお下劣下ネタ一点押しの前期から、ギャグマンガ界屈指の美麗な描線でベタ、シュール、バイオレンス、エロなどを幅広く描きわけていく後期へと進化していきました。
連載後半の『アゴゲン』のタッチは、まさに「洗練」とはこういうことなのかという感じで、前半に比べて描線は細くなって的確になり、特にスクリーントーンの技術が格段にアップしたために、全体的に絵に透明感はあるのに描かれている情報量がハンパなく豊潤という域に達していました。
もともと平本先生は1970年代の日本の劇画マンガやハリウッド映画に相当な思い入れがあるらしく、『実験人形ダミー・オスカー』や『ダーティーハリー』、『ロッキー』などにささげられたと思われるネタがしょっちゅう見られ、そのために前期は異常に点描や線描が多い真っ黒なコマが多かったのですが、そこらへんの想いをたたきつけるように描き、そして無念にも連載中断のやむなきにいたってしまった『俺と悪魔のブルーズ』(2004~08年に講談社『月刊アフタヌーン』で連載)を通じて、いい意味で平本先生はそれらへの傾倒から卒業していったようです。
こんな感じで、パワー勝負の荒削りな前期とアイデアと上達したテクニック勝負の後期。どちらもまごうことなき『アゴなしゲンとオレ物語』ながら、互いにまったく違う方向性の輝きを見せている表裏鏡あわせの関係が生まれたのです。
このへんの作品の方向性と画力との密接な関係は、同じ『ヤングマガジン』で1993~96年に連載されていた思春期ギャグマンガの最高峰とも言われる『行け! 稲中卓球部』(作・古谷実 単行本全13巻)にも通じるものがあるかと思うのですが……どっちにしろ、ギャグマンガって、絵のうまいへたって、おもしろさとは意外と無関係なんですよね。むしろ、絵がうますぎるとギャグがさめちゃうっていうマイナス面もあるような……
平本先生……キャリアの最初っから、10年以上も続く名作マンガを世に出しちゃったし、しかもあんなに絵がうまくなっちゃったし、これからどうするんだろ!?
余計なお世話ながらも心配でしょうがなかったのですが、去年の暮れからNTTドコモのケータイ電話専用の動画サービス「BeeTV」内で『アゴゲン』のパラパラアニメ放送(マンガのコマに声優のセリフがのっかったようなやつ)が配信されるようになり、今年の2月からは平本先生の満を持しての新連載となる『監獄学園(プリズンスクール)』が始まりました。いよいよ動き出しましたね!
人に『アゴなしゲンとオレ物語』を「おもしろいから読んでみてよ!」とすすめる時、なんといっても最大の障壁となるのはそのギャグのお下劣性なのですが、もうひとつ気になってしまうのがその全32巻という長さです。
でも大丈夫! 『アゴゲン』は基本的に1話完結形式ですから、どの巻のどのエピソードから読んでいただいてもけっこうです。とにかく読む人に要求されるのは、『アゴゲン』の狂気に満ちた世界に耐えられる精神の強さと、その狂気の奥に込められている人間の真実の「友愛」を見出すまなざしです。
それさえあれば、あなたにも『アゴゲン』のすばらしさはわかるはずだ、たぶん……
ここで、私がもっとも心に残っている『アゴなしゲンとオレ物語』マイベストエピソードを紹介したいと思います。
基本的に下ネタとエロに満ちている『アゴゲン』ワールドだし、私もそこが大好きなところなのですが、なぜか一番心に残ったのは、あんまりそこらへんの味わいは出てこないお話でした。
第436・437話 『女装のトラッカー 前後編』(2008年12月 単行本第31巻に収録)
これはすばらしいです。だいたい長く続いたギャグマンガの末期って、ノリノリだったころに比べて見劣りする部分が少なからずあるし、実際に『アゴゲン』の最終巻にも「うむむ。」と思ってしまう物寂しさはあったのですが、その直前に生み出されたこのエピソードは最高でした。これがおさめられたコミックス31巻自体、あのスタジオジブリの有名作への愛情がたっぷり詰まった名編『崖上のトラッカー』などの高レヴェル作がそろっています。『アゴゲン』としては最後のクリスマスとなる2008年の12月24日に起きたドドイツ・テロのお話もあるからすっげぇお得!
『女装のトラッカー』は『アゴゲン』にしては珍しく前後編の展開となっているのですが、タイトルのとおり、ひょんなことから女装した姿をゲンさんに見られてしまったケンヂが主人公となるお話です。
ほんのたわむれで女装していた姿をゲンさんに見られたケンヂなのですが、ゲンさんはどうやら女装したケンヂのことを知らない女性だと勘違いしているようすで、調子に乗ったケンヂはゲンさんに好意を寄せているようなそぶりを見せ始めるのだが……というのがお話のすじ。
いや~……このエピソードのオチには一本とられました。
400話以上やっている『アゴゲン』なんですから、とびっきりぶっ飛んだオチというものにも見慣れていたつもりだったのですが、これはもう、いやはや上質のミステリーか星新一のショートショートを読んだかのような「すっころび感」に襲われてしまいました。やられた~!!
あの、たぶん、「見知った人間が変装して初対面のふりをする」という典型的なパターンですし「男が女装して男をだます」というところもギャグマンガとしては特に目新しくはないので、もしかしたらある程度の方はオチを予想することはできるかもしれないんですが、私は見事にやられました。
無数にある珠玉の名作たちの中で、なぜ私がこのエピソードをおしたのかというと、
オチがわかったあとで読み直しても、いやさ、オチがわかっているからこそ読み直せば読み直すほどおもしろくなるから!!
ね~、ホントにミステリー小説の名作みたいでしょ? 『女装のトラッカー』は、ジャンルで言うとミステリー? スリラー? はたまたサイコサスペンス?
ほめすぎでしょうか……いや、そんなことはないはずです。とにかく、1コマ1コマでの登場人物たちの行動に込められた細かな動きすべてに「隠された意味」がある!
これは生半可な画力のマンガ家さんにはできない芸当ですよ。だからこそ、描写力の熟達した時期の平本先生だからこそ創造し得た至高の逸品だったのでしょう。
絵のうまさだけじゃなくて、このエピソードは平本先生の巧妙なストーリーテリングもきわだっています。まぁホントによくできたドラマですよ。しかも、よくよく考えてみたら「マンガ」という形式でしか成立しないんだ、このプロット。
ところで、この『女装のトラッカー』にはいつも通りレギュラーキャラのほとんどが出演しているのですが、『アゴゲン』きってのリアリストである月形だけが登場していません。
なにをかくそう、私がいちばん大好きな『アゴゲン』キャラは無駄にナイスバディな月形さんだったので、最初は「なんで出てこないんだろう?」と首をかしげていたのですが、オチを見届けた段階で深くうなずくことができました。
『女装のトラッカー』は、月形が出てきたらその時点ですべてがぶちこわしになるエピソードなのよ……
おそるべし、平本采配。
たかがギャグマンガといわずに、すべての出演キャラクターに熱い愛情と怜悧な計算の眼がゆきとどいた『アゴなしゲンとオレ物語』の伝説を、まだご覧になられていない方はぜひともご一読いただきたいと思います。
最後に、主人公ゲンさんが愛していやまないこの言葉を。
「愛死美絵無(あいしーびーえむ)」
意味は……
「愛」することも 「死」ぬことも
「美」しすぎて 「絵」になら「無」い
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