■ 反対討論
Date: 2008-05-15 (Thu)
5月13日の衆議院本会議で道路整備財源特措法の再議決に反対の討論を行った。余りマスコミでは紹介されなかったが、私なりに真髄をついたつもり。少し長いがここに掲載します。
反対討論(5月13日衆院本会議)
菅 直人
民主党の菅直人です。私は、民主党・無所属クラブを代表して道路整備費の財源の特例に関する法律の一部を改正する法律案の再議決に対し、反対の立場で討論を行います。
福田総理、あなたはこれからの日本をどのような方向に導こうとしているのですか。道路政策をどのように改革しようとしているのですか。今までの道路政策を続けていけば道路が栄えて国が滅びます。その危機感を総理はお持ちなのですか。残念ながら総理のこの半年余りの発言からはそうした危機感は全く伝わってきません。
今、日本は衰退の道を歩み始めています。その最大の原因は霞ヶ関の官僚が国民やこの国の将来のためでなく、自分たち官僚組織と族議員のために税金や年金を無駄遣いしてきたからです。その最大のものが道路をはじめとする大型公共事業を聖域化してきた長年の財政運営にあります。最大の地場産業である農業や林業の衰退を放置し、十分な子育て支援も行わず、地方の医療崩壊にも手を打たず、代わりに道路やダムなど大型公共事業で地域を活性化するというやり方はとっくに限界が来ています。農山村での安定した生活が見込めなくなったために農山村から若者が流出し、他方、若者の集まる大都市では子育てに過大な負担がかかるため出生率は激減しています。さらに、霞ヶ関を中心に地方を支配してきた中央集権政治そのものが東京などへの過度の集中を生み、地方を衰退させてきました。地方の崩壊と少子化、これが日本の衰退の姿そのものです。
こうした事態を根本的に打開するためにわれわれ民主党は、道路特定財源の大半を地方の自主財源にして地方の自主性を生かして地域活性化を図ることを提案しています。道路整備も高速道路を除いて権限を地方に移すべきです。国交省の地方支配の出先であり、無駄遣いの温床となっている地方整備局の都道府県への移管も進めるべきです。道路政策の改革は日本の国のかたちを変える大改革の第一歩です。
総理の言われる一般財源化にはこうした国の将来展望が全く見えません。今日朝の 閣議決定でも一般財源化した財源を地方の自主財源とすることや道路整備の権限を地方に大胆に委譲するといった考え方は全く含まれていません。逆にこれまで通り霞が関の官僚組織と族議員が全国の道路建設を完全に支配する中央集権構造は変えないという決意が閣議決定のはしばしに表れています。
ここで日本における道路建設がいかにコストを無視しているかについて具体的な事例を挙げてみたいと思います。冬柴大臣や道路族と呼ばれている皆さんは「必要な道路は造る」と言い続けています。しかしなぜ「必要な道路をできるだけ安く造る」といわないのでしょうか。必要な道路でも建設コストが高すぎるため使えない道路がたくさんあります。その典型が東京湾を横断しているアクアラインです。アクアラインは1兆4400億円で建設されましたが欧米の同様な橋やトンネルに比べて2倍以上建設コストが高くなっています。海の上から構造物を海底に沈める「沈埋工法」で作ればずっと安くできたものを、わざわざ海底のすぐ下にトンネルを掘るという難しい工法を採用したためにきわめて工事費が高くなっています。トンネルの上部は海底に沈殿しているマヨネーズのような液状物に接しているため、そのままではトンネルが浮き上がってしまうのでわざわざ浮き上がりを防ぐ工事が必要であったということを知っている人は少ないでしょう。そしてこの巨額の建設費を償還するために当初の通行料金は片道4000円とバカ高く設定され、その結果、通行量が見通しを大きく下回り、年間300億円もの赤字が続きました。そして最後は道路公団の民営化のどさくさにまぎれて第三セクターの東京湾横断道路株式会社から赤字分を含め、1兆5千億円で道路公団本体が買い取ることで巨額の赤字を分らなくしてしました。まさに「飛ばし」による不良債権隠しであり、関係者は赤字の責任は全く問われていません。
建設コストが高くその結果通行料金が高くなったために、使いたくても使えない道路は全国にたくさんあります。本四架橋や多くの高速道路がまさにそうです。巨額の税金や通行料を使って造った道路が十分活用されていないというのは二重の損失です。
我が党の試算によれば、欧米の事例を参考に建設工法を工夫し、適正な価格で建設すれば暫定税率分の財源がなくても十分に必要な道路の建設は可能です。日本では道路や橋やトンネルの建設コストが適正であるかを客観的にチェックするシステムがありません。コストや投資効果をチェックするのはすべて国交省の息のかかった団体です。今日朝の閣議決定を見ても欧米に比べて異常に高いコストを適正化しようという意思は全く含まれていません。土建国家を守るための必要経費と考えているのですか。高い建設コストこそが、天下りの財源、更には道路族議員の政治資金の捻出に必要だと考えているとしか思えません。
さて今回の法案です。道路官僚と族議員による巨額の無駄遣い構造が民主党をはじめ野党議員の国会審議により誰の目にも明らかになりました。それにもかかわらず、10年間59兆円を道路特定財源としてこれまで通り無駄遣いを含めて支出する法案を、しかも参議院では否決された法案を、こともあろうに衆院の3分の2の力で強引に再可決しようとはどういうことですか。特定財源を10年つづけるというこの法案を修正もせず、衆議院で再議決するというのは支離滅裂としか言いようがありません。
59兆円の財源の中には民営化したはずの旧道路公団の通行料収入などが12兆円も計上されているではありませんか。民営化した会社の売り上げを政府の計画に盛り込むというのはどういうことですか。つまりは小泉内閣で行った道路公団の民営化がいかにまやかしで、結局、民営化会社は国土交通省の出先機関であることを自ら示していることではありませんか。まやかしの道路公団改革とまやかしの郵政改革を叫ぶ小泉総理のもとで行われた郵政解散で得た議席で、再議決をするなどもってのほかです。まず今の衆議院議員が国民の意思を代表しているかどうか、衆議院を解散して信を問うべきです。
この法案と一般財源化の矛盾について総理は「来年からの一般財源化を閣議で決めた」と言いたいのかもしれません。しかし福田総理が一般財源化を言い出したのは暫定税率が期限切れになる直前の3月27日ではないですか。道路族議員の反発が怖くて衆議院段階の国会審議では一切一般財源化を言わないまま強行採決をし、暫定税率が切れる直前になって始めて総理が言い出した一般財源化の約束に国民が不信を持つのは当然です。今の総理の姿勢では、小泉総理の道路公団民営化が偽装民営化であったのと同様、偽装一般財源化にしかなりません。
すでに今現在、現在道路特定財源の根拠法は期限切れで、一般財源化が実現した状況にあります。そこで一般財源化を確実にする一番の早道は、道路特定財源を改めて決める本法案を廃案にすることです。今からでも遅くはありません。総理をはじめ一般財源化に賛成の議員は再議決に反対の票を投じてください。 国会は国権の最高機関であり、国会での議決は閣議決定よりも優先します。国会の権威を守り、一般財源化を実現するために与野党を超えて再議決に反対されることを重ねて強く求めて反対討論を終わります。
Date: 2008-05-15 (Thu)
5月13日の衆議院本会議で道路整備財源特措法の再議決に反対の討論を行った。余りマスコミでは紹介されなかったが、私なりに真髄をついたつもり。少し長いがここに掲載します。
反対討論(5月13日衆院本会議)
菅 直人
民主党の菅直人です。私は、民主党・無所属クラブを代表して道路整備費の財源の特例に関する法律の一部を改正する法律案の再議決に対し、反対の立場で討論を行います。
福田総理、あなたはこれからの日本をどのような方向に導こうとしているのですか。道路政策をどのように改革しようとしているのですか。今までの道路政策を続けていけば道路が栄えて国が滅びます。その危機感を総理はお持ちなのですか。残念ながら総理のこの半年余りの発言からはそうした危機感は全く伝わってきません。
今、日本は衰退の道を歩み始めています。その最大の原因は霞ヶ関の官僚が国民やこの国の将来のためでなく、自分たち官僚組織と族議員のために税金や年金を無駄遣いしてきたからです。その最大のものが道路をはじめとする大型公共事業を聖域化してきた長年の財政運営にあります。最大の地場産業である農業や林業の衰退を放置し、十分な子育て支援も行わず、地方の医療崩壊にも手を打たず、代わりに道路やダムなど大型公共事業で地域を活性化するというやり方はとっくに限界が来ています。農山村での安定した生活が見込めなくなったために農山村から若者が流出し、他方、若者の集まる大都市では子育てに過大な負担がかかるため出生率は激減しています。さらに、霞ヶ関を中心に地方を支配してきた中央集権政治そのものが東京などへの過度の集中を生み、地方を衰退させてきました。地方の崩壊と少子化、これが日本の衰退の姿そのものです。
こうした事態を根本的に打開するためにわれわれ民主党は、道路特定財源の大半を地方の自主財源にして地方の自主性を生かして地域活性化を図ることを提案しています。道路整備も高速道路を除いて権限を地方に移すべきです。国交省の地方支配の出先であり、無駄遣いの温床となっている地方整備局の都道府県への移管も進めるべきです。道路政策の改革は日本の国のかたちを変える大改革の第一歩です。
総理の言われる一般財源化にはこうした国の将来展望が全く見えません。今日朝の 閣議決定でも一般財源化した財源を地方の自主財源とすることや道路整備の権限を地方に大胆に委譲するといった考え方は全く含まれていません。逆にこれまで通り霞が関の官僚組織と族議員が全国の道路建設を完全に支配する中央集権構造は変えないという決意が閣議決定のはしばしに表れています。
ここで日本における道路建設がいかにコストを無視しているかについて具体的な事例を挙げてみたいと思います。冬柴大臣や道路族と呼ばれている皆さんは「必要な道路は造る」と言い続けています。しかしなぜ「必要な道路をできるだけ安く造る」といわないのでしょうか。必要な道路でも建設コストが高すぎるため使えない道路がたくさんあります。その典型が東京湾を横断しているアクアラインです。アクアラインは1兆4400億円で建設されましたが欧米の同様な橋やトンネルに比べて2倍以上建設コストが高くなっています。海の上から構造物を海底に沈める「沈埋工法」で作ればずっと安くできたものを、わざわざ海底のすぐ下にトンネルを掘るという難しい工法を採用したためにきわめて工事費が高くなっています。トンネルの上部は海底に沈殿しているマヨネーズのような液状物に接しているため、そのままではトンネルが浮き上がってしまうのでわざわざ浮き上がりを防ぐ工事が必要であったということを知っている人は少ないでしょう。そしてこの巨額の建設費を償還するために当初の通行料金は片道4000円とバカ高く設定され、その結果、通行量が見通しを大きく下回り、年間300億円もの赤字が続きました。そして最後は道路公団の民営化のどさくさにまぎれて第三セクターの東京湾横断道路株式会社から赤字分を含め、1兆5千億円で道路公団本体が買い取ることで巨額の赤字を分らなくしてしました。まさに「飛ばし」による不良債権隠しであり、関係者は赤字の責任は全く問われていません。
建設コストが高くその結果通行料金が高くなったために、使いたくても使えない道路は全国にたくさんあります。本四架橋や多くの高速道路がまさにそうです。巨額の税金や通行料を使って造った道路が十分活用されていないというのは二重の損失です。
我が党の試算によれば、欧米の事例を参考に建設工法を工夫し、適正な価格で建設すれば暫定税率分の財源がなくても十分に必要な道路の建設は可能です。日本では道路や橋やトンネルの建設コストが適正であるかを客観的にチェックするシステムがありません。コストや投資効果をチェックするのはすべて国交省の息のかかった団体です。今日朝の閣議決定を見ても欧米に比べて異常に高いコストを適正化しようという意思は全く含まれていません。土建国家を守るための必要経費と考えているのですか。高い建設コストこそが、天下りの財源、更には道路族議員の政治資金の捻出に必要だと考えているとしか思えません。
さて今回の法案です。道路官僚と族議員による巨額の無駄遣い構造が民主党をはじめ野党議員の国会審議により誰の目にも明らかになりました。それにもかかわらず、10年間59兆円を道路特定財源としてこれまで通り無駄遣いを含めて支出する法案を、しかも参議院では否決された法案を、こともあろうに衆院の3分の2の力で強引に再可決しようとはどういうことですか。特定財源を10年つづけるというこの法案を修正もせず、衆議院で再議決するというのは支離滅裂としか言いようがありません。
59兆円の財源の中には民営化したはずの旧道路公団の通行料収入などが12兆円も計上されているではありませんか。民営化した会社の売り上げを政府の計画に盛り込むというのはどういうことですか。つまりは小泉内閣で行った道路公団の民営化がいかにまやかしで、結局、民営化会社は国土交通省の出先機関であることを自ら示していることではありませんか。まやかしの道路公団改革とまやかしの郵政改革を叫ぶ小泉総理のもとで行われた郵政解散で得た議席で、再議決をするなどもってのほかです。まず今の衆議院議員が国民の意思を代表しているかどうか、衆議院を解散して信を問うべきです。
この法案と一般財源化の矛盾について総理は「来年からの一般財源化を閣議で決めた」と言いたいのかもしれません。しかし福田総理が一般財源化を言い出したのは暫定税率が期限切れになる直前の3月27日ではないですか。道路族議員の反発が怖くて衆議院段階の国会審議では一切一般財源化を言わないまま強行採決をし、暫定税率が切れる直前になって始めて総理が言い出した一般財源化の約束に国民が不信を持つのは当然です。今の総理の姿勢では、小泉総理の道路公団民営化が偽装民営化であったのと同様、偽装一般財源化にしかなりません。
すでに今現在、現在道路特定財源の根拠法は期限切れで、一般財源化が実現した状況にあります。そこで一般財源化を確実にする一番の早道は、道路特定財源を改めて決める本法案を廃案にすることです。今からでも遅くはありません。総理をはじめ一般財源化に賛成の議員は再議決に反対の票を投じてください。 国会は国権の最高機関であり、国会での議決は閣議決定よりも優先します。国会の権威を守り、一般財源化を実現するために与野党を超えて再議決に反対されることを重ねて強く求めて反対討論を終わります。