自民党派閥の裏金事件で東京地検特捜部は19日、各派閥の幹部議員を不問とし、派閥からキックバック(還流)を受けた議員側の立件は不記載額を3500万円以上に限った。「政治とカネ」の関係を縛るはずの政治資金規正法の限界と、検察の慎重な姿勢が改めて浮かび上がった。(加藤益丈、中山岳、太田理英子)
◆キックバック自体は「OK」な政治資金規正法
規正法は、キックバック自体を禁じていない。派閥から議員の関連団体への寄付として政治資金収支報告書に記載すれば適法だ。記載しなければ、一義的には報告書を作成、提出する会計責任者が罪に問われる。
政治家が罪に問われるのは、会計責任者に虚偽記入を指示したり、詳細に報告や相談を受けて了承したりするなど「共謀」が認められる場合に限られる。虚偽記入を「うすうす知っていた」程度では、共謀があったとは認められない。
特捜部が注目したのは、2022年の安倍派のパーティー券のキックバックの記載を巡る経緯。安倍晋三元首相が中止を決めながら、死亡後に派閥幹部らが還流継続を決定。不記載を会計責任者に指示するなどしていれば共謀に問い得た。
特捜部は年末から派閥幹部らを事情聴取し、会計責任者とのやりとりを調べた。会計責任者の「相談していない」「指示を受けていない」などの供述を覆す証拠は得られなかった。
19日の記者会見で地検の新河隆志次席検事は「証拠上、各会派の収支報告書の作成は会派事務局がもっぱら行っていた。派閥の幹部が、還付(キックバック)した分をどう記載していたかまで把握していたとは認められず、共謀を認めるのは困難と判断した」と説明した。
◆「動機や犯行態様などを総合考慮」「先例を踏まえた」
派閥から裏金を受け取っていた議員側の立件範囲も焦点だった。22年に薗浦健太郎元自民党衆院議員が略式起訴された事件では、不記載額は約4900万円。今回の捜査が始まった当初は「不記載額が4000万円以上が立件基準」などの見方が政界で広がった。
特捜部は、不記載額が約3500万円だった二階俊博元幹事長の秘書を略式起訴したが、松野博一前官房長官や高木毅前党国対委員長ら不記載額が1000万円超の議員は、会計責任者すら立件しなかった。
新河次席検事は「金額で機械的に処理するわけではない。動機や犯行態様などを総合考慮し、先例を踏まえた」と説明。ある検察幹部は、「線引き」への国民からの批判について「承知している」と顔をしかめた。
◆「違反ライン」国民の声で変わるのか
検察の慎重な姿勢に、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、議員が有罪になると公民権停止となる規定を挙げ「法務・検察には、選挙で選ばれた国会議員の資格を自分たちの差配で失わせるのは行き過ぎではないかという考えがある」と話す。
14年から約3年間自民党衆院議員を務め、政治資金パーティーが裏金の温床になっていると発信してきた若狭氏は「国民の間には『1000万円でも許すべきでない』という厳しい意見がある」と指摘。「検察内部に立件の可否を決める絶対的基準はない。国民の声でも変わる」とし、告発人が検察審査会に審査を申し立てた場合の判断に注目する。
安倍派幹部らを刑事告発していた神戸学院大の上脇博之教授は、検察審査会に申し立てるかどうかを検討するという。
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