インターネットの利用者情報が外部に筒抜けの状態を改善するための電気通信事業法改正案が国会に提出され、近く審議入りする。しかし、データ活用を重視するIT業界などへの配慮から、利用者保護の規定は骨抜きにされた。利用者のプライバシー保護を最優先に法案修正も検討すべきだ。
新しい服を買おうとネットで検索したら、全く別のサイトを開いても服の広告ばかり目に入る。こんな経験をした人は多いのではないか。閲覧履歴から利用者の興味に合わせて表示する「ターゲティング(追跡型)広告」である。
過去に閲覧したサイトの関連広告が自動的に表示されるのは、閲覧した日時や回数、ログインIDなどの情報が「クッキー」と呼ばれるファイルに記録され、本人が知らない間にサイトと連携した広告会社などに送られるからだ。
無作為に広告を出すよりも効果が高いとされるが、自分のデータが手の届かないところで使われる利用者の不安は当然だ。
総務省の有識者会議は当初、プライバシー保護の観点から、検索サイトなどの運営者が閲覧履歴を外部に提供する場合、利用者の事前同意や、利用者の求めにより情報提供の停止を義務付ける内容の報告書をまとめようとした。
しかし、情報収集が制限され、事業への悪影響を恐れる経済界が強く反発。報告書は利用目的を通知・公表するだけでもよい内容に後退し、法案にも反映された。
通知・公表は多くのサイトがすでに実施しており、法改正でどれだけの効果があるかは疑問だ。
クッキーが記録する情報は氏名や住所などと異なり「個人情報」に当たらず、経済界は規制強化がビジネスに加え、日本のデジタル化を阻害すると懸念している。
とはいえ、利用者保護は世界の趨勢(すうせい)だ。欧州連合(EU)や米カリフォルニア州では利用者同意の義務化が進む。米IT大手のアップルやグーグルはクッキーの制限、廃止にかじを切っている。
利用者の信頼を得ずして、ビジネスの機会が広がるだろうか。プライバシー保護に必要な規制は何か、徹底した議論を求めたい。
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