〈法廷の雫〉
「もうこれで終わりにしよう」。愛息の首に、テレビのコードを巻き付けた。
「もうこれで終わりにしよう」。愛息の首に、テレビのコードを巻き付けた。
千葉県長生村の自宅で昨年7月、重度の知的障害がある次男=当時(44)=を窒息死させたとして殺人罪に問われた、無職・平之内俊夫被告(78)の裁判員裁判で、千葉地裁は12日、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。(↑*無罪が適当と思う)
◆コロナ禍以降、障害者支援施設に通えなくなって
公判で被告は長年にわたる介護の苦悩をとつとつと明かした。
検察官「コードをかけたとき、思いとどまらなかったのか」
被告「それはなかった。限界でしたから」
検察官「今でも殺すしかなかったと?」
被告「今は考えてません。本当に毎日毎日苦しんでいます」
次男の清泰(きよやす)さんを幼い頃から「おきよ」と呼び、夫婦で愛情を注いだ。神奈川県でラーメン店を営み、休みには家族で全国を旅行した。
次男は高校生ごろから思い通りにならないと自宅でテレビを投げたり、コンビニの商品を崩したりするようになった。県立障害者支援施設「中井やまゆり園」に短期入所を繰り返したが、2020年の新型コロナウイルス禍以降は通えなくなった。
◆泣き叫ぶ妻の声で我に返ったが
被告は体力の限界を感じ、園に長期入所を希望。ケースワーカーにもSOSを出した。「私か家内が倒れたら(次男を)殺してしまうかも」。だが、空きはなかった。
次男が近所の薬局を荒らしたのを機に「もう迷惑をかけられない」と長生村に一戸建てを購入。環境の変化を心配する妻の反対を押し切り、引っ越した。それでも、次男が暴れる頻度は増え、頭を壁にぶつける自傷行為も激しくなった。
引っ越した1カ月後、テレビを投げ、カーテンを引きちぎり、裸で飛び出そうとした。必死に押さえ込むと玄関に倒れ込み「これ以上かわいそうで見ていられない」と首を絞めた。2階に逃れた妻は、冷たくなった次男を見て「嫌だ、起きて」と泣き叫んだ。
◆申し訳ない。でも、みんな分かっていない
検察官「奥さんが悲しむ姿を想像できなかったのですか」
被告「ほんの少し気持ちを分かってくれると思っていた。何でやっちゃったんだろうと思った」
被告は「息子には申し訳ない」と謝罪し「(介護が)どんなに苦しかったか。みんな分かっていない」とあきらめたように話した。中井やまゆり園の生活支援部長の男性は証人尋問で「無理してでも受け入れるべきだった」と悔やんだ。
どこかで引き返すことはできなかったのか。判決は「被告だけを責めるのは酷」と指摘。次男に愛情を注ぎ、献身的に支えていたことを認めた。浅香竜太裁判長が「贖罪(しょくざい)と供養に励んでほしい」と諭すと、被告はゆっくりとうなずいた。
◇
◆「家族に自己責任を負わせた結果」
平之内被告のケースは、高齢の親が障害のある子を世話する「老障介護」だった。千葉地裁判決は「十分な福祉的支援が受けられない絶望的状況」と指摘。
神奈川県が昨年12月に公表した、被告への支援のあり方を検証した中間報告書では、中井やまゆり園が入所申し込みを断ったことを「機械的対応」とした。県についても「入所待機者への対応に何ら関与しなかった」と連携不足を挙げた。
障害者支援施設に入所できない待機者は算定基準に違いがあるものの、東京都では昨年12月時点で1271人。埼玉県は2023年度末で1502人。千葉県は昨年4月時点で472人。神奈川県は把握しておらず集計中だ。
日本障害者協議会の藤井克徳代表(75)は「障害が重くても人を殺すことは許されない」とした上で、事件を「行政が家族に自己責任を負わせた結果」と受け止める。
家族が追い詰められる背景に「直系家族および兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」とする民法規定を挙げる。障害者の扶養を家族に担わせる風潮が強く、行政支援は足りない「構造的問題」を指摘。「家族に過度な責任を負わせない方向に、障害者政策を転換する必要がある」と警鐘を鳴らした。(長屋文太)
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「法廷の雫(しずく)」では、法廷で交錯する悲しみや怒り、悔恨など人々のさまざまな思いを随時伝えます。
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