★増える核のごみ 排出を止めるしかない
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場。候補地選定の第一歩となる「文献調査」を受け入れるか否か。地域を二分する議論の末に、長崎県対馬市が出した結論は「ノー」だった。処分場のメドもつかぬのに、「原発復権」で核のごみを増やし続ける岸田政権の矛盾が改めて浮き彫りになった形だ。
国の核のごみ処分の計画は、今なお拘泥する「核燃料サイクル」が前提。使用済み核燃料からプルトニウムやウランを取り出して再利用する構想だが、ウランなどの抽出後に残る廃液が高レベル放射性廃棄物だ。放射能レベルが極めて高く、当然、危険度も高い。
廃液はガラスで固め、金属製の特殊な容器に納めて地下300メートル以深に埋設し、放射能減衰まで実に数万年にわたり、生活環境から隔離することが決まっている。
国は最終処分の適地かどうかの調査に名乗りを上げる自治体を募っている。過去の地震などを記録の上で確かめる文献調査を受け入れるだけで、国から最大20億円の交付金が出るが、応じたのは北海道南部の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村のみ。文献調査の後、ボーリングなどによる「概要調査」、地下トンネルを掘って行う「精密調査」を経て適否が判断される。
対馬は漁業と観光のまち。核のごみによる風評被害などの損失は交付金ではあがなえないというのが市長の判断だ。福島第1原発事故を経た今、「交付金」というアメで誘って核のリスクを過疎地に押しつけるようなやり方はもう通用しないということだろう。
一方、使用済み核燃料は全国の原発内にある保管プールにたまり続けている。このまま原発を稼働させれば、例えば関西電力では、4~7年であふれ出すという。フランスへ搬出する計画もあるが、蓄積量のごく一部にすぎない。
そもそも、処分の前提である「核燃料サイクル」の破綻は明らかだ。プルトニウムなどを取り出す再処理工場はトラブル続きで、着工以来30年を経ても完成はおぼつかない。リサイクル燃料の受け皿になる高速増殖炉計画はすでに頓挫した。そうした現実に目を背け、「原発の最大限活用」を掲げて再稼働や新増設を急ぐ政府の姿勢は無責任というほかない。返すあてもないのに借金を重ねるようなものだ。その場しのぎのツケは結局、国民に回ってくる。
★辺野古代執行 対話通じて打開を図れ
政府が米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡り、司法のお墨付きを得たからといって、地元の住民や自治体の理解が得られないまま工事を再開すれば、民主主義と地方自治の理念に背くことになる。政府は工事強行を避け、玉城デニー知事との対話に応じるべきだ。
政府は軟弱地盤改良工事の設計変更を知事に代わって承認するため福岡高裁那覇支部に提訴した。勝訴すれば、設計変更を代執行して改良工事に着手できる。
8年に及ぶ法廷闘争が最終局面に至っても、政府は設計変更の承認を知事に迫るばかりで、対話を通じて打開を探った形跡はない。
対立の長期化は、岸田文雄首相が「移設工事を進める」(23日の所信表明演説)と繰り返すなど、政府が辺野古移設を「唯一の解決策」とする立場を変えず、譲歩しないからにほかならない。
代執行で県の法的対抗策を封じても反対の民意は覆せない。地元住民や自治体が反発したままでは基地の運用を円滑にできず、米軍駐留の安定性が損なわれれば、政府が目指す抑止力強化も困難になる。新基地建設の強行はとても解決策にはなり得ない。
普天間返還の日米合意から27年が過ぎ、沖縄に新基地を造る軍事的合理性は乏しくなりつつある。安全保障環境の変化を踏まえ、米軍の沖縄集中を避け、戦力を分散させる動きも始まっている。
米国のシンクタンク、戦略・予算評価センター(CSBA)は昨年11月の報告書で、多数のミサイルを持つ中国と近接する在沖縄基地には脆弱(ぜいじゃく)性があり「持続的な活用は大きな課題」と指摘した。
辺野古の軟弱地盤改良は難工事が予想され、完成は2030年代半ば以降にずれ込む。市街地にある普天間飛行場の危険性を一刻も早く除去する当初の目的は果たせず、建設費も膨らむ一方だ。
政府が工事を強行すれば長い年月と膨大な税金をかけて無用な基地を造る結果になりかねない。
岸田政権は法的措置に頼らず、政治的打開を目指すべきだ。沖縄との対話と並行して、米政府との代替案協議を重ねて求めたい。
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