穴にハマったアリスたち

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感想:小説スイートプリキュア♪

2020年08月19日 | 小説版プリキュア
長らく積んでたのを読みました。
素晴らしすぎて胸が熱い。スイプリ本編を反映した正に正統続編。
こんな名作を積んでたなんて勿体なさ過ぎた。

■小説 スイートプリキュア♪



ノイズとの決戦から1年。
北条さんは中学3年生になられた。そして南野さんらと疎遠になっていた。
いきなり立ち込める暗雲。どんより気分の日々。

南野さんはスイーツで著名な専門校を目指し。
エレンは路上ライブで身を立て始め。
アコさんは王族ライフに戻っていき。

北条さん自身もドイツへの音楽留学が決まりました。
みんなバラバラ。それぞれ自分の将来に不安と不満を抱え、それと向き合うのに精いっぱい。
あんなに仲良しだったのに。でもやむをえない。大人になるとはそういうこと。

南野さんの作ったケーキをむしゃむしゃ盗み食いしながら、北条さんは寂しく思う。
こんなにむしゃむしゃ食べてるのに、奏はスルー。昔みたいにツッコんでくれすらしない。
ただただ白い眼を向けてくる南野さんの前で、リアクションを求めてむしゃむしゃむしゃむしゃし続ける北条さんの姿が泣けます。
ね、ねぇ今度一緒に海行かない?勇気を振り絞ったそのお誘いも「は?」と冷たくあしらわれ。
むしゃむしゃしながら北条さんは無言でうつむくばかり。

やがて北条さんがドイツに旅立つ日が近づいてくる。
加音町の人たちが送別会を開いてくれ、そこで北条さんと南野さんは連弾を披露します。そして失敗する。主には南野さんの練習不足で。
正直、ピアノ留学する北条さんと連弾とか、南野さんも辛すぎる。聴衆たるこの町の人たちの音楽水準も異常に高いし。

南野さんの失敗に、北条さんは激怒。これまでの鬱屈もあり、それはそれは激怒。エレンやアコさんがドン引きする勢いで怒り狂う。
そして項垂れてるところを王子先輩に慰めてもらっていたら、それを南野さんに見られた。
なお、この送別会のために、王子先輩と二人っきりでピアノレッスンをしてたりしました。南野さんには内緒で。ちょっぴりときめきながら。
言うまでもなく南野さんは引きつります。そう。そういうことするのね、響。それ、仕返しのつもり?
それはそれはおぞましい空気が立ち込める。

その翌日から異変が始まった。音が何かおかしい。
不思議がる北条さんのもとに、王子先輩の失踪の報が。
続けて聖歌先輩や町の人々も姿を消していく。

突如起きた謎の失踪事件に、加音町の人々も疑心暗鬼。
そこにメイジャーランドから連絡が。
何だか分からないが、何かが起きている。おそらくこれはヴァニッシュのせいだ。
何でもヴァニッシュとやらは、音の反響をなくしていくらしい。なるぼど、だから音がおかしかったのか。
あと、悲しい気持ちを持った人に取り憑く習性があるそうです。なるほど、奏が犯人だ。北条さん納得。だって私と王子先輩がいちゃついてるとこ見て悲嘆してたし。

たちまち広がる疑念。しかしそれを嘲笑うかのように、被害も容疑者も増えていく。
犯人は奏かエレンかアコか。それとも音吉さんか。そもそヴァニッシュなんて実在するのか?実はピーちゃんことノイズが復活したのでは。

何が真実かも分からぬ「スイートプリキュア」の真骨頂。
放送当時「メイジャーvsマイナー」と聞いて誰もが思った。マイナーだからといって悪ではない。きっと和解するんだろう。
だけど描写上は明らかに悪。しかもそれはそれとしてアフロディテ様も黒幕臭がぷんぷんする。秋映画の「敵はアフロディテ様!?」のコピーも正にそれ。
幸せアイテムは毎回ネガトーンに変化し、黒ミューズやら何やらも入り混じり、最早何も信じられないあの空気が、再び。

そうこうする内にメフィストやアフロディテ様まで消え、容疑者だったはずのエレンやアコや音吉さんも消えていく。かつての切り札、幸せのメロディーも効果ゼロ。
とうとう残るは南野さんと北条さんだけに。ではやはり奏がヴァニッシュか。
恐慌状態で南野さんから逃げ出す北条さんが痛ましい。

だけど。駆け出した北条さんの背後で遂には南野さんも消滅。どういうことだ。やはりヴァニッシュなんていないのか…?
戸惑う北条さんの前に現れるピーちゃん。やはり、ノイズか…。
絶望に打ち震え、涙ながらに命乞いし、無様に逃走する北条さんが実に実に辛い。
これは、無理だ。「価値観の多様化」「人によって真実が変わる」ことによる断絶を、「共有体験」をキーに乗り越えたスイートチーム。だけれどその共有体験がマイナスに働く。なまじ共有体験に依存していたが故に、これから起きる分断には弱かった。「既に起きた分断」への解決策にはなる。でも「これから起きる分断」は共有体験があればあるほど辛くのしかかる…。

そして絶望的な悲しみの中、北条さんは気づく。これは「悲しい」だ。私は悲しかったんだ。
ヴァニッシュは悲しみに取り憑く。みんなを消したヴァニッシュは、私だ。

自分を傷つけるあの人がいなければ、悲しみも消えるはず。だけど実際はどうか。音の響かない世界の何と寂しいことか。
自問自答の果て、北条さんは気づく。
かつての戦いで悟った「幸せと悲しみは音符の並びひとつで変わる」。でもこれは不完全だった。並びで変わるんじゃない。一つの音符に、幸せも悲しみも同居してるんだ。
表裏一体ではなく、不可分だ。無理に「幸せ」「悲しみ」と言葉にするから分からなくなる。「幸せ」であり「悲しみ」でもあるんだ。

確かにみんなバラバラで、そのせいで悲しい。でも違うみんながいない世界はもっと嫌だ。
様々な真実があり、音が響きあう。その音は必ずしも「幸せ」だけではないけれど、「悲しみ」もまた響きあう大切な音。

迷いの晴れた北条さんの前に、遂にヴァニッシュが姿を現す。が、キュアモジューレは沈黙。悲しみに錆び付いた心のト音記号は動かない。メイジャーランドが陥落した今、プリキュアの力も発動しない。

絶体絶命のそこに、生き延びていたピーちゃんが。
自分を、悲しみを信じてくれるか?
無言の問いに、北条さんはかつてのノイズを抱き締める。今度こそ本当に、悲しみを受け止めよう。
そして起動するキュアモジューレ。メイジャーではない、マイナーランドによるキュアメロディ。

定義上は「ダークメロディ」とも言えそうなこの変身は熱すぎる。
描写はされていませんが、やっぱりデザインが少し違うのかしら。それとも「幸せ」も「悲しみ」も同じなんだから、全く同じ姿なのか。

こうして加音町を襲った災厄は解決しました。北条さんは予定どおりドイツへ。
離れることは悲しいけれど、夢を目指す幸せでもある。悲しみと幸せは一体だ。

…読後も興奮が収まらない、本当に素晴らしい続編でした。これぞ「スイートプリキュア」。安易に奇をてらった『意外にも』暗い話ではなく、本編の流れからの納得感とカタルシスが凄まじい。
ここまで正統な本気の続編は、公式でないとできないんじゃなかろうか。

プリキュアファンに強く強くお薦めしたいです。


小説 スイートプリキュア♪ (講談社キャラクター文庫) [ 大野 敏哉 ]

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