蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

偽画

2020年09月05日 | 本の感想
偽画(松下麻理緒 角川文庫)

学芸員の園田由紀は、世界的大家の抽象画家山岡の主要作品を集めた企画展の担当者として美術館に臨時採用されていた。山岡は企画展に出す秘蔵の傑作があるとの言葉を残して急死し、この傑作を預けていた著名コレクターの医師も死亡する。いずれも死の直前に会っていたのは山岡の妻だった・・・という話。

画家と画商、美術館、学芸員の関係がわかりやすく描かれていて、主筋の部分は面白かった。

ただ、動機がいかにもありそう、というもので、トリックも平凡な感じで、ミステリとしてはイマイチかな・・・という感じだった。
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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

2020年09月05日 | 本の感想
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(ブレイディみかこ  新潮社)

著者は英国人と結婚して一人息子がいて、英国の南端の、夏の保養地として有名なブライトンで暮らしている。息子はカトリック系のおとなしい小学校から、元・底辺中学校へ通うことになるが・・・というノンフィクション、というか体験談。

かなり昔だが、英語の研修でブライトンに2カ月くらい滞在したことがあった。夏ならよかったんだけど、1月と2月だった。英語の先生にも「冬にブライトンに来るなんて、ツイてないね」なんてことをよく言われた。
本書は口コミ中心に人気となってベストセラーになり本屋でも平積みされていることが多いのだが、私としてはブライトンを舞台にした作品ということで興味をひかれた。

なのだが、ブライトンの街を描写した箇所はほとんどなかった・・・

そこは残念だったが、国籍や人種を巡るアイデンティの葛藤、貧富の格差、ジェンダーの揺らぎなど、あと5年か10年くらいで日本人もこんなことで悩むんだろうなあ、とおもわれる社会課題がビビットに描かれていてとても楽しく読めた。ただ、息子はあまりに出来すぎでしょ。中学生がここまで成熟して冷静な視点を持てるとは思えないなあ。

私がいたころのブライトンは、英国社会全体が荒れている感じで、景気も悪かった。
バブル期の「日出ずる国」(ほんの一瞬だったが)だった日本から来た私に、周囲の英国人から「いいなあ日本は景気良くて・・・」みたいなことをよく言われた。概して英国人は自信を喪失しているように見えた。ちょうど今の日本人が中国を見ているような感じとそっくりだった。
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一人称単数

2020年09月05日 | 本の感想
一人称単数(村上春樹 文芸春秋)

「ヤクルトスワローズ詩集」を読みたくて、というか本として持っていたくて本書を買った。著者がスワローズの長年のファンというのは有名で、ファンクラブの名誉会員としてチームのサイトに寄稿をしたりもしている。
私はパリーグではスワローズ的な地位?にあるロッテのファンなのだが、「村上春樹が名誉会員(それも名目だけでなく本気のファン)で寄稿までしてくれるなんて、なんてうらやましいんだ」なんて思っていた。
「ヤクルトスワローズ詩集」によると、著者は売り出し中の頃、同名の詩集を自費出版しているそうで、著者の手許には2部しか残っていないそうだが、市中では驚くような高値で取引されているそうである(そりゃそうだよね。しかも印刷部数は500部でナンバリングしてあって全冊サイン入り!)。
下記のようなところは、弱いチームのファンなら、誰でも心当たりがあるはずの負け惜しみ?だろう。
***
「・・・ほとんど天文学的な数の負け試合を目撃し続けてきた。言い換えれば「今日もまた負けた」という世界のあり方に、自分の身体を徐々にならしていったわけだ。潜水夫が時間をかけて注意深く、水圧に身体を慣らしていくみたいに。そう、人生は勝つことより、負けることの方が数多いのだ。そして人生の本当の知恵は「どのように相手に勝つか」よりはむしろ、「どのようにうまく負けるか」というところから育っていく。
「我々の与えられたそういうアドバンテージは、君らにはまず理解できまい!」、僕は満員の読売ジャイアンツ応援席に向かって、よくそう叫んだものだ(もちろん声には出さなかったけれど)。」
***

本書に収載された他の作品では「品川猿」がよかった。ひなびた温泉宿に泊まったら日本語に堪能?な猿が背中を流してくれたり、晩酌の相手をしてくれたりする、という、昔話みたいな筋なのだが、この猿が、上品で、慎み深く、教養高いとても魅力的なキャラクターとして描かれていて「こんな体験してみたい」と思わせるものがあった。
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