蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

そしてミランダを殺す

2020年09月13日 | 本の感想
そしてミランダを殺す(ピーター・スワンソン 創元推理文庫)

投資家として成功して大金持ちのテッドは、妻ミランダが浮気している現場を目撃する。テッドは空港で知り合ったリリーと話し込むうち、リリーに誘導されてミランダの殺害を決意する。実はリリーは犯罪に罪悪感をもたないサイコパスで自らも過去に殺人を犯していた・・・という話。

ありがちな筋立てだなあ・・・と読み進むうち、全体の半分近くある第一部のラストで意外な展開があってかなり驚き、第二部以降を興味深く読むことができた。

サイコパスというと理解不能な人格として描かれることが多いが、リリーは普通の性格の穏やかな人として描写されているのも他の似たような作品との違いを引き立たせていたと思う。

ラストのオチは、ちょっと余分で、無い方がよかったと思った。(確かに留飲は下がるんだけどね)
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ありきたりの痛み

2020年09月13日 | 本の感想
ありきたりの痛み(東山 彰良 文藝春秋)

売れっ子になる前に福岡の新聞や雑誌に連載していた映画評と直木賞受賞前後のエッセイを集めた本。
著者は私より一回りくらい年下なのだが、岸田秀の「ものぐさ精神分析」に非常に大きな影響を受けたそうだ。私が大学生のころは岸田唯幻論ブームの終り頃だったが、それでも私含め多くの人が影響を受けていた。私も先輩に勧められて「ものぐさ精神分析」を読んだクチなのだが、すぐに夢中になって大方の著作を読んだ記憶がある。
唯幻論の背景にあるフロイトやユングの理論自体が非科学的なものと見なされる傾向がある現代では忘れ去られた話だと思っていたので、とても懐かしい人に再会したような気分になった。

映画評も私がよく映画を見ていたころの公開作品が多くて、タランティーノとかコーエン兄弟が好きなあたりも「年代だねえ」と思わせた。
著者は映画好きな人に多いゾンビフリークなのだが、私はゾンビ映画だけは好きになれない。
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十二月の十日

2020年09月13日 | 本の感想
十二月の十日(ジョージ・ソーンダーズ 岸本佐知子訳 河出書房新社)

私は訳者の岸本さんのエッセイのファンで刊行されているものはすべて読んだ。エッセイから推測する限り、岸本さんはちょっとオカシな人っぽいのだが、本作もかなりヘンテコな筋立てが多い短編集。

SF的な味付けが加えられている作品が多いが、奇妙な設定に加えて、登場人物についての説明をほとんどしないでいきなりストーリーが展開するので、真ん中あたりまで読んでもう一度初めに戻って読み返さないと意味がよくわからないものが多かった。

それでも最後まで読むと奇妙で深い余韻が残る作品が殆どなので、アメリカでの評価が高いのも理解できないわけではないが、そうかといって同じような作品が日本でベストセラーになるかというとかなり疑問だ(解説によるとアメリカでは「ベストセラーリストのトップを独走した」そうだが)。

と、ここまで書いてきて気がついたのだが、本作のテイストは伊坂幸太郎さんの作品に似ているような気もする。伊坂さんの作品は説明過剰くらいであるところはちょっと異なるが、そこは短編と長編の違いということで。

本書の収載作の中では一番長い「センブリカ・ガール日記」が印象深い。「SG」というグロテスクな装飾品の設定も面白いが、俗物で見栄っ張りな主人公の姿が自分自身を見ているようで身につまされる。
表題作の「十二月の十日」もよかった。ふざけた調子で語られるのだが、むしろそれが重いテーマを際立たせているように思えた。
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