蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

落下の解剖学

2024年03月23日 | 映画の感想
落下の解剖学

雪の山荘でサンドラの夫が転落死する。発見者は犬の散歩帰りの息子で、彼は視覚に障がいがあった。当時山荘にはサンドラしかおらず、彼女は殺人の容疑で逮捕されフランスの法廷で裁かれることになった・・・という話。

サンドラはドイツ生まれだが、英語はネイティブ並み、フランス語は苦手、という設定になっている。法廷では、基本的にフランス語での証言を求められるが、通訳がついていて核心に近いところでは英語で証言する。
サンドラの弁護士はフランス人で、打ち合わせする時、サンドラは英語で話すが、弁護士はたどたどしい英語で話す、みたいな異言語文化間の摩擦が本作の見どころの一つだと思うが、字幕ではそのニュアンスが十分には伝わってこなくて残念だった。

サスペンス感はなくて、ミステリとしてみると謎解きに意外性はあるものの、解決があいまいでカタルシスもない。全体としてノンフィクション風で、エンタメとして見ると失望しそうだが、逆にいうとカンヌの審査員にはウケそうな内容なのかもしれない。

検察官や弁護士が特有の衣装をまとったり、裁判官の席に無造作に大量の資料が積み上げられるフランスの法廷シーンが興味深かった。
謎解きのキーとなるシベリアンハスキー?の飼い犬の演技?が見事だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ななつのこ

2024年03月23日 | 本の感想
ななつのこ(加納朋子 創元推理文庫)

短大生の入江駒子は、「ななつのこ」というミステリ短編集が気に入って、自分の周りでおきたちょっとした事件の内容を同書の著者に手紙で送る。著者からは謎解きを記した返信がきて・・・という短編集。

著者の別のシリーズを読んでいて、「駒子シリーズ」も読んでみたいな、と思っていた。最近久々にシリーズ新刊が出たので、きっかけとして読み始めることにした。

本書が最初に刊行された頃は、北村薫さんの「私」シリーズを始めとする「日常の謎」ミステリが全盛期?で、本書のように、そのものズバリ「日常の謎」系ミステリが新人賞を獲るのはかえって困難だったと思われるが、それを乗り越えて鮎川賞を受賞しただけのことはある内容。

特に絵画のすり替えトリックの「モヤイの鼠」がよかった。トリックは本当に単純極まりないのだが、それだけに謎解きに鮮やかさがあった。

「私」シリーズには、素朴な謎解きの裏に人間の愚かさや悪どさをのぞかせる、読者をヒヤリとさせるものがあったが、本書ではそういうところはなくて、ほとんどの登場人物が善意な人。それが、心温まると感じる人もいれば、物足りないと感じる人もいるかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする