蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

長州戦争

2006年08月20日 | 本の感想
長州戦争 (野口武彦 中公新書)

後書きで、山口の人は「長州戦争」のことを“四境戦争”と呼んでいる、というエピソードが紹介されている。私の奥さんは山口の出身なので、試みに“四境戦争”を知っているか聞いて見たが知らなかった。(というより、長州戦争(征伐)のこと自体よく知らないみたいだった)

長州戦争は幕府の本格的な“終わりの始まり”になった重要な事件なのだが、鳥羽伏見の戦いとか江戸開城、会津戦争に比べるとかなり知名度が落ちる気がする。華々しい戦闘やエピソードにかけるせいかとも思っていたのだが、この本を読むとそれなりに大規模な戦闘があったようだ。活躍した著名人物が高杉晋作ぐらいというのが弱いところなのだろうか。慶喜が本当に前線で指揮し高杉と決戦、なんてことにでもなっていれば、もっと多くの人の記憶や記録に残ったのかもしれない。

著者は慶喜に良い感情を持っていないようで、こっぴどく非難しているが、確かに、ここぞ大将の出番!という場面になると必ず回れ右してトンズラする(著者いわく)“悪い癖”は酷い、とあらためて感じた。それでも、ダンディズムのはしり、と見られたり、大河ドラマの主人公になってしまうくらい人気があるのは、あっさり政権を投げ出した“悪い癖”が、かえって潔さと評価されているということなのだろうか、実に、著者ならずとも不思議だ。
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村田エフェンディ滞土録

2006年08月15日 | 本の感想
村田エフェンディ滞土録  (梨木香歩 角川書店)

1900年代初頭、トルコに国費留学生として派遣された日本人の記録という体裁をとった物語。
イギリス人婦人の経営する下宿に逗留し、同じ下宿にいるドイツ人、ギリシャ人ら、また日本から訪れる数少ない人との交流を描く。
少々オカルティックな現象の描写も取り入れて幻想的なムードを加えている。

下宿の召使(奴隷)であるムハンマドの楽しみは仕事を終えてから珈琲店に座りこんで吸う水煙草。ために、夕食を早く食べ終われと催促する。奴隷といっても立場は対等。このムハンマドや彼が連れてきた生意気で賢い鸚鵡の描写が出色。

そのムハンマドはやがて起こる戦乱でケマル・パシャの兵士として死亡する。しかし彼の鸚鵡は数奇な経路を経て村田(主人公)のもとに届けられる。これがこの本の最後の部分。静かで淡々とした文章がかえって悲しみを深く感じさせた。
著者の著作で世間で一番評判が高いのは「西の魔女が死んだ」だろうか。それよりもこの本は随分と良かったように思う。
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