蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

組織は合理的に失敗する

2009年10月04日 | 本の感想
組織は合理的に失敗する(菊澤研宗 日経ビジネス人文庫)

タイトルがうまいし、「不条理の原因は人間の合理性にある」というテーマも興味をひくし、不条理のかたまりのようなイメージがある日本陸軍を例にあげてテーマを解題する手法もとても良かった。

「取引コスト理論(すべての人間は限定合理的で機会主義的であるために、合理性と効率性と倫理性は一致するとは限らない)」をガダルカナル戦に当てはめ、
「エージェンシー理論(依頼人と代理人(エージェンシー)との利害不一致および情報の非対称性から合理性と効率性と倫理性は一致するとは限らない)」からインパール作戦を分析し、
「所有権理論(財のもたらす利益の所有権があいまいなことから不条理な事態が生じる)」からジャワ軍政(所有権を明らかにしたことによる成功例)を取り上げている。
また、日本陸軍の自生的な組織改革の例として硫黄島戦、沖縄戦を紹介している。(本書のオリジナルは栗林中将の再評価がブームとなる前に出版されている)

日本陸軍は白兵戦を基本戦術とする軍体系を膨大なコストをかけて構築していたので、例えそれを繰り返すのが無謀だとわかっていても変更することはできなかった(白兵戦術を止めることを関係者に説得したり、別の戦術を採用するために軍体系を変更するためのコストが巨大すぎた。そのコストを負担するよりは多少無理があってもこれまで業績をあげてきた戦法を採用しようという、当事者にとっては合理的な行動が不条理な白兵突撃の繰り返しという結果を招いた)というガダルカナル戦の分析は非常に斬新なイメージがあった。

一方、インパール作戦については、「エージェンシー理論」のあてはめにちょっと無理を感じた。

ジャワ軍政がこんなにうまくいっていたとは、本書を読むまで知らなかったし、今村大将が中央からの圧力に屈することなく融和的な方針を貫いたこと、戦争犯罪に問われて服役する時、(日本で服役することもできたのに)自ら志願して部下が服役している孤島に赴いたこと、などは(本書の趣旨とは関係ないが)感動的エピソードだった。今村大将の業績はもっと広く紹介されるべきだと思った。
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家族の言い訳

2009年10月01日 | 本の感想
家族の言い訳(森浩美 双葉文庫)

タイトル通り、家族関係をテーマにした短編集。

家族間の葛藤とか愛憎とかといったドロドロ系の話ではなくて、「家族はこうあってほしい」みたいな、悪くいうとお涙ちょうだいというか予定調和系の話が多い。家族との関係に悩んでいたりする人にはカタストロフィがあるかもしれない。

著者は放送作家出身で、作詞家として有名な人。そう思って読むせいか、1回もののテレビ・ラジオドラマにぴったりの分量と内容だった。なので、「どっかで見たような、聞いたような話だなあ」というものが多い。

そういう前提にたったとしても、途中で投げ出したくなくなることもなく、気分よく読了できたのは、やっぱりベテランらしい技術のおかげでしょうか。
「おかあちゃんの口紅」なんか、読み初めて数行で「ああ、きっとあんな話だろうな」と想像できて、まさにその通りの筋なのに、最後にはちょっと感動できてしまうのでした。
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