蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

空飛ぶタイヤ

2009年10月21日 | 本の感想
空飛ぶタイヤ(池井戸潤 実業之日本社)

最近ミステリをあまり読まなくなったせいかもしれませんが、乱歩賞を受賞したけどそのあとの活躍がイマイチ・・・みたいな方が多いような印象があります。
池井戸さんは福井さんと同時受賞でともに大活躍というのは珍しい(というか最後の?)例のような気がします。もっとも、著作の大部分がビジネス系ではありますが。(そういう意味では福井さんも著作のほとんどすべてがSF(というか戦争もの?)系なので、やはり共通点あり? あるいはミステリは競争が鮮烈すぎるのでさっさと得意分野にクラ替えした人が生き残っているということでしょうか)

池井戸さんの本を読むのは、乱歩賞の受賞作(銀行員が書いたということに興味を引かれて読んだ記憶があります)以来でしたが、本書は、若干長すぎることを除けば、どんどん先が読みたくなり、予定調和的結論に行きそうで行かず(でも最後は行ってカタルシスが増す)エンタテイメントとして大変よくできていると思います。

タイトルから想像される通り、自動車メーカーがリコール隠しをしていた実話を題材にしたものです。
私は読む前に、(実話では、確か県警が異常な執念を燃やしていたような記憶があったので)刑事の視点から描いたものなんだろうな、と想像していたのですが、主人公は欠陥車で事故を起こしてしまった運送会社の社長でした。これが、本書の成功を呼んだ大きな要因のような気がします。

この社長はちょっと正義の味方・熱血気味のキャラクター設定で、途中、メーカーが提案してきた巨額の補償金を断るあたりはちょっと現実離れしています。
しかし、その他の主要キャラクターは概ね自己の欲望に忠実かつ狡猾で、「いかにもいそう」な人が多いのです。
事件が、(正義の味方によって解決されるのではなくて)そうした世間ずれした人達の思惑と計略が絡みあった結果、偶然に近い形で解決される点が、本書の魅力の核心のように思いました。
コメント
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