蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

貧困の光景

2009年10月22日 | 本の感想
貧困の光景(曽野綾子 新潮文庫)

海外の日本人牧師の援助団体のスタッフとして、また、日本財団の理事長として、著者はそれらの組織が行った海外での援助が適正に現地で実施されているかを視察するため、アジア、アフリカの被援助国をたびたび訪問している。
そこで見た、日本における貧困とはレベルが違う貧しさを紹介している。

著者が描く「貧困の光景」は、それぞれが深刻で目をそむけたくなるようなものばかりだ。しかし、読書はそのような光景の描写を読んで、哀れみとか同情とか悲しみを感じはするが、心揺さぶられるような感動には到らない。
読者が感動するのは、例えば次のようなシーンだと思う。

「私もスポンサーとしてその給食を食べさせてもらうことにした。肉と野菜とご飯が大体五十円くらいでできる。食器はめいめいで持って来る。私が様子を見ていると、一人の子供がお皿を大切そうに持って、こぼさないように気をつけながら、校庭を横切って反対側の木立の間に行くのが見えた。そこに大体同じくらいの年の三人の少年が遠慮がちに立っていた。先生に聞いてみるとそのうち二人は兄と弟、もう一人は友だちなのだという。少年は自分がもらった給食を毎日身内や友だちにも分けて食べさせて、彼らを養っていたのである。十歳かそこらの「小さな父」は日本にはほとんどいない。しかし貧しい国には至るところにいて、私に深い感動を与えるのである。」(31P)

こうした少年の行動は、貧しさや困難にも負けない(もちろん、負けてしまうことも多いのだが)愛情とか悟性とかが、人間には備わっていて、時にはそれらが絶望的な状況の中であっても発動されることを確認させてくれる。だから、読者は大きな安堵とともに感動の波に洗われるのだと思う。
コメント
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