蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

皿の上に、イタリア

2017年05月20日 | 本の感想
皿の上に、イタリア(内田洋子 講談社文庫)

内田さんの作品を読むたび、「これはもしかしてフィクション?」などと思ってしまいます。
そう思えてしまうくらい、多彩で、ドラマのような著者の日常が記録されています。

タイトル通り、イタリア料理を紹介するエッセイ集なのですが、料理とともに登場するお酒(主にワイン)がとてもうまそうで、通勤電車で読んでいると「帰ったらすぐにビールかワインが飲みたい、新鮮な魚のツマミも」と思うことしきりでした。

本書は短いエッセイの集合体で、それぞれ異なるエピソードが語られますが、冒頭に登場するカラブリア出身の屋台の魚屋兄弟3人は何度も登場します。そこで売られている魚もとてもおいしそうなのですが、ハードボイルドな魚屋兄弟3人の描写もまた素敵でした。

いろいろな料理、食べ方が登場しますが、素材のよさがポイントになっていることが多く、同じ料理をつくってみたい、と思えるようなものはあまりありません(詳しいレシピとかも書いてないし)でしたが、オリーブ油にまみれたフォカッチャをコーヒーにどっぷり漬けて食べる、というのはやってみようかな、と思いました。
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ティエリー・トグルドーの憂鬱

2017年05月14日 | 映画の感想
ティエリー・トグルドーの憂鬱

主人公は長年エンジニアをしていたが、リストラにあって失業中。障害を持つ息子、ローンが残った自宅、なかなか見つからない仕事と憂鬱のタネが尽きない。やっと量販店の警備員の仕事を見つけるが・・・という話。

この手の話としてお決まりの妻との不仲、酒(もしくは薬物)びたりという要素はないのだけど、題名通り、主役の人が終始憂いを含んだ表情でほとんど笑わない。
勤めている量販店では客の万引きはともかくとしても、それ以上に従業員の不正が横行している。
大昔の話だがバイトしていたコンビニで、仲が良かった店長さんが「万引きは客より従業員の方に注意している」なんてミもフタもないことを言っていた(そんなことをバイトの一人であるオレにいうなよ、と思った)ことを思い出した。

ついには20年も働いてきた従業員の不正(とれもセコい手口だが)も糾弾されることになるのだが、その結末も映画全体のムードに合わせたかのような後味が悪いものだった。
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Aではない君と

2017年05月14日 | 本の感想
Aではない君と(薬丸岳 講談社)

主人公はやり手の建設会社社員。離婚し一人息子の親権は元妻にあるが、14歳の息子とは時々会って食事したりしている。その息子が同級生を殺害した容疑で逮捕されてしまい、主人公の生活は一変する・・・という話。

面白いエンタテイメント小説は、「この先どうなるんだろう」という期待をふくらませてページをめくらせてくれます。本書は(若干説教くさくて)エンタテイメントとは言えないかもしれないのですし、ダイナミックな展開があるわけではないのですが、同じように先をどんどん読みたくなる内容でした。

というのも、私にも同じような年ごろの子供がいるので、「もし自分の子供が殺人を犯して逮捕されたら、オレってどうなるんだろう?」というリアルな??興味があったためです。(イヤ別に、私の息子が人殺ししそう、というわけではないですが)

主人公の行動があまりヒーローっぽくないというか、普通に?情けない(同僚の行為を受け止められない、再婚間近だった女性には(事件を契機として)あっさり振られる、裁判所の調査官と面接しても今後の見通しについて何も発言できない、すぐに酒に逃避したくなる等々)のがまた、我が身を見ているようでとてもリアルでした。
ただ、主人公の子供が逮捕された後、ずっとダンマリだった理由は少々不自然かなあと思えました。

わき目もふらずテーマに沿って一直線に進む物語は、社会的な問題提起もあることですし、映像化に向いてるかなあ、と思いました。
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ある天文学者の恋文

2017年05月07日 | 映画の感想
ある天文学者の恋文

主人公(エイミー=オルガ・キリレンコ)は、スタントマンをやりながら物理学を学ぶ学生。教授だったエド(ジェレミー・アイアンズ)と恋仲になるが、彼は高齢で子供も二人いる。エドは病気で亡くなるが、エドはエイミーに多数のメッセージ(エイミーの電子メールの送付される動画、手紙、郵送されるCD)を残していた。エイミーは長年苦しんでいる過去の出来事をビデオメッセージで指摘されてカッとなってエドからのメッセージを停止する指示をしてしまうが・・・という話。

「鑑定士と顔のない依頼人」のトルナトーレ監督作品ということで、ひねりの効いたストリーなのかと思ったら、そうではなくてストレートな(しかし、小細工にはに凝りに凝った)恋愛映画だった。

主人公役のオルガの存在感が圧倒的で、かなり歳が離れた教授との熱愛、難解そのものの天文物理学の学位を獲得しながらスタントマンも務める、といった、かなり不自然な設定を見事に克服して十分に納得性がある出来上がりになっていた。

原題は「correspondence」。とてもおしゃれだ。しかし「コレポン」では今の日本では通じない(20-30年くらい前は日本語化してたけど、最近はほとんど聞かない)から、これをしのぐ邦題をつけろといわれても難しいよね。
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熊と踊れ

2017年05月05日 | 本の感想
熊と踊れ(アンデシュ・ルースルンド、ステファン・トゥンベリ ハヤカワ文庫)

暴力的でアル中気味の父親のせいで崩壊した家庭に育ったレオは、弟二人と協力して小さな内装工事の会社を経営している。
弟たちと軍隊経験がある友人と組んで銀行強盗を計画し、軍の備蓄兵器庫から大量の機関銃を盗み出す。綿密な計画と冷静な実行力で強盗は面白いように成功する。それゆえにか強盗をやめるきっかけを失い、弟二人が一味からぬけた後には婚約者や父親まで巻き込んで強盗計画をたてるが・・・という話。

強盗をするシーンとレオの少年時代のシーンが交互に語られる。
実際に発生した事件をもとにしているらしく、武器を盗み出す場面や強盗実行の計画・実行の場面に非常にリアリティがあるが、それ以上にレオの回想場面で描かれる父親との関係性の方がより一層迫力があり、かつ、テーマや描写に文学的といっていい深みが感じられた。

解説によると共著者のひとりは実際に事件を起こした犯人の弟(本人は犯行に関与しなかったそうである)とのことで、本物の経験に裏打ちされた物語は力強い。

それにしてもレオ(のモデルになった人)の計画力・実行力は恐ろしいほどで、その情熱を事業の拡大に当てていればビジネスでも大成功したんじゃないだろうか。
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