蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ヨルガオ殺人事件

2023年01月03日 | 本の感想
ヨルガオ殺人事件(アンソニー・ホロヴィッツ 創元推理文庫)

スーザンはベストセラーミステリの編集者を辞めてクレタ島で経営するが不振で、収入を求めてイギリスの高級ホテルのオーナーの依頼を受けて、そのホテルで8年前に起きた殺人事件の真相をつかんだというメッセージを残したまま失踪したオーナーの娘の捜索をするが・・・という話。

いまや本格(というか犯人あて)ミステリの帝王といえるほど毎年ランキング総なめ状態の著者だが、私は読むのは初めて。
どうも本格ミステリって筋立てが現実離れしている、というイメージが強いせいだが、本作はそんな本格嫌いをこそ感心させようとする、たくらみが満ちていたと(素人考えですが)思えた。

本作は、目次や献辞まで再現した完全なる作中作と、スーザンが主役の本編の二重構造になっているが、作中作の方はクリスティ風のやや浮世離れした名探偵(アティカス・ピュント)が完全無欠の論理構成で事件を解決する。醜い欲望や人間関係への深入りは避けられていて、クリーンでピュアなミステリになっている。実際、真相は意外性たっぷりで、作中作だけでも相当高く評価されそう。
一方、本編の方は世間の垢にまみれたドロドロがストーリーの肝になっており、作中作とのハイコントラストが実に見事。

本編の方は、犯人を特定する決め手については直接言及しておらず、そこここにヒントはちりばめられているものの、ちょっとフェアではないのでは(素人の見方ですみません)?と思えたが、作中作の方は(後から読めばだが)文中の手がかりで犯人が特定できるように思えた。
コメント
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