蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ブラックサマーの殺人

2023年09月10日 | 本の感想

ブラックサマーの殺人(M.W.クレイヴン)

イギリスNCASCA捜査官ポーは、娘殺しの罪で、遺体未発見ながらもカリスマ・シェフのジャレド・キートンを有罪にし刑務所送りにしていた。
数年後、殺されたはずの娘が姿を現す。科学的検査をすると同一人物であることが証明され、ポーは窮地に陥る・・・という話。

殺されたはずの被害者が数年後になって出現する、しかも血液や遺伝子検査をしても同一人物と判定される、という強烈な謎のインパクトがすごい。「え、それでどうなるの?」感が強すぎて読むのを止めるのがとても困難だった。

ただ、シリーズ1作、3作と比べると、中盤ちょっと間延びした感があるし、サイコパスであるキートン、ポーの攻防両陣営の手練手管が行き過ぎで「そんなにうまくいかんだろ」と言いたくなるところも多少あったし、最後の解決がやや強引。この手はほぼオールマイティーなので禁じ手なのでは??

と、文句をつけたが、抜群のリーダビリティとキャラ立ちのすごさは相変わらず。もうすぐ、シリーズ新作の翻訳がでるらしいが、とても楽しみだ。

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異常

2023年09月01日 | 本の感想

異常(エルヴェ・ル・テリエ 早川書房)

2021年3月、エールフランスの旅客機がニューヨークに到着前に乱気流に巻き込まれるが、無事着陸する。ところがその3ヵ月後に、全く同じ旅客機がニューヨークに着陸し、3月と全く同じ人々が降りてくる。中には3ヵ月の間に病死したり、自殺したりした人もいたが、降り立った人は3月の状態で生きていた・・・という話。

ミステリのランキングで上位になっていることが多くて、ミステリだと思って読み始めた。同一人物が時を隔てて重複するという強烈な謎がどう解かれるのか?とワクワクしながら読み進んだのだが、解決はミステリというよりはSFだった。

本書のテーマは、このような不条理な状況(例えば、ほんの少し前に病死した夫に再会するが、その人は間もなく死ぬに違いないことがわかっている妻とか)に陥った人々の反応を想像することで、謎解きではなかった。

メジャーリーグで活躍する大谷選手を見ていると、そのあまりに非現実的な活躍ぶりに、もしかして私は大谷選手が寝ている間に見ている夢の中の登場人物なのではないか?と思うことがある。

自分は本当に存在しているのか?
現実とサーバ上の仮想現実に区別があるのか?
世界は自分が見ている通りの色、形なのか?

そんなことを考えさせてくれる作品だった。

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