蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

アンダーカレント(映画)

2024年06月22日 | 映画の感想
アンダーカレント(映画)

関口かなえ(真木よう子)は銭湯を経営していたが、夫(永山瑛太)が突然失踪してしまう。ほとぼりが醒めた頃、釜焚き用人員として堀(井浦新)を雇って営業を再開する。かなえは友人の紹介で探偵(リリー・フランキー)に夫の探索を依頼するが・・・という話。

サスペンス風な設定なのに、なぜ夫は失踪したのか、かなえと堀はどうなるのか、かなえの秘密の真相は何なのか、みたいな所の解決は一切ないし、全体にスローテンポで「このシーンが挿入される意味は?」と考えたりしてしまうことも多い。なので、若い頃にみたら退屈で仕方なかったと思うが、年を取った今となっては、その曖昧さがかえって楽しく感じられるのだった。

私の若い頃はどこにでもあった銭湯は、今では街なかではほとんど見かけなくなってしまった。でもいまだに銭湯を描く映像作品は多いし、私自身も銭湯が舞台というだけで見てみたくなるのは、郷愁というものなのだろうか。

リリー・フランキーって、どの役でも似たような感じだし、役者修行をしたわけでもないと思うのに、どんな役でもなんしかうまくこなして、それらしく見えてしまうのが不思議。真木よう子や井浦新も上手で見ていて安心感があるんだけど、リリーと比べると、演じてる感が見えてしまうような気がした。
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ロスト・キング 500年越しの運命

2024年06月18日 | 映画の感想
ロスト・キング 500年越しの運命

フィリッパ(サリー・ホーキンス)は、難病持ちでシングルマザー(ただし離婚した夫との関係は良好)、会社では昇進がかなわず落ち込んでいた。子どもたちとシェイクスピア劇を見て、親族を殺害して王位の簒奪者となったとされていたリチャード3世のエピソードが史実だったのか?と疑問を持つ。
リチャード3世の同好会?に入りあまたの解説書を読んだフィリッパは確信を深め、遺体を捨てられたとされる王が、現在は駐車場となっている場所に埋められていると信じて、発掘プロジェクトを立ち上げる・・・という話。

リチャード3世実はいい人説が盛んになったのは「時の娘」がきっかけなのかもしれないが、現代でも同好会?ができるほど、その説を信じる人が多いのに驚いた。
日本でも昭和の頃には(多分、徳川幕府を打倒した明治政府の差し金で??)江戸期は暗黒時代だった、とうムードだったけど、昨今ではむしろ平和で文化が花咲いた時代として黄金期とする向きが増えているように、「史実」はうつろいやすいものなのだろう。

最初はフィリッパに対して冷淡だった大学が、遺骨発見となったら、自らの手柄であったかのように手のひらをクルリと返す様が(よくあることとはいえ)滑稽だった。

本筋とは無関係だが、離婚した夫が(多忙なフィリッパの代わりに)夕食を作りに来てくれたり、子どもたちとごく自然に接したり、挙げ句にフィリッパのクラウドファンディングに匿名で寄付したりするシーンが印象的だった。日本でも離婚は日常化しているけど、こんなに素敵な?離婚文化?はまだまだ醸成されていないよなあ。
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夏期限定トロピカルパフェ事件

2024年06月16日 | 本の感想
夏期限定トロピカルパフェ事件(米澤穂信 創元推理文庫)

小市民シリーズ第2作。
小鳩は夏休みの間、小佐内がランキングした市内の甘味処を巡回しようと誘われる。ある店からテイクアウトしたシャルロットというケーキに、あまり甘いものが好きでないはずの小鳩は魅了される(シャルロットだけはぼくのもの)。健吾が店に残した「半」という文字だけのメモの意味を探る(シェイク・ハーフ)。小佐内の自宅で彼女の帰りをまっているうち、小佐内を誘拐したという電話が来る(おいで、キャンディーをあげる)。そして謎解きの「スイート・メモリー」からなる連作集。

連作集といっても、全体として一つのストーリーを構成している。そして第1作の「春期限定・・・」とは違って、日常の謎ミステリーとみせかけてちょっとダークでビターな結末(かつ、ちゃんとミステリでもある)を用意しているのが、作者の本領発揮といったところか。
それにしても小学生みたいな外見で甘いものを食べるのが至上の楽しみという小佐内さんの正体が怖すぎる・・・
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万事快調

2024年06月11日 | 本の感想
万事快調(波木銅 文藝春秋)

茨城県北部の工業高校に通う朴秀実は、ラッパーに憧れて地元のサイファーに参加する。父は暴力をふるい、弟は不登校だ。
同じ高校の矢口美流紅は、実習中に小指の切断につながる怪我をして陸上部を辞める。シングルマザーは精神にダメージを受けて寝たきりに近い。
やはり同級生の岩隈真子は図書室の常連だ。
そんな3人は校舎の屋上に放置された元園芸部のビニールハウスで、秀実が手に入れたタネから大麻を栽培しようとする・・・という話。

秀実が読んでいるのは「侍女の物語」で、弟から推薦図書を尋ねられると古今東西のSFの名作をすらすらと並べる。
矢口は評論家並に映画に通じていて、将来は監督になりたいと思っている。
3人が通っているのは田舎の底辺校という設定なのに、超一流進学校の生徒並にハイブラウなのが(リアリティはないけど)妙にかっこいい。

人を殺したかもしれない、という場面に遭遇しても罪悪感や後悔はゼロで、大麻の栽培がバレたらどうしよう?なんてこともあまり気にしない。
それはハイブラウで、同級生たちより遥かに先んじて様々な形で世間を味わった彼女たちが、眼前の現実に絶望しきっていて、これ以上悪くなりようがない、と悟っているから、のように思えた。

地名とか企業名とか作品名などの殆どが実在で、高校生が喜々として大麻を栽培する(ちょっとノウハウめいた記述もある)なんて、大手出版社が出していいのか?とちょっと心配になったが、文学賞も受賞しているそうで、いやさばけたもんなんだね、昨今は。
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違国日記

2024年06月10日 | 映画の感想
違国日記(映画)

中学校卒業間近の田汲朝(早瀬憩)は交通事故で両親を亡くす。祖母も親戚も引き取りを敬遠する中、作家でおばの高代慎生(新垣結衣)は朝を引き受けるが・・・という話。

原作を読んだあとに見た。
原作では、特段のドラマがあるわけではなくて、ありがちな自由業者の悩みや苦しみ、自分の位置づけを決められなくてふわふわしてる高校生の姿がたんたんと描かれていたので、映画化されると聞いた時、相当に難物ではないかと思えた。どのように映像化できたのか、怖いもの見たさ的な下世話な興味もあった。

あて書きしたかのように、朝と慎生は、原作と見た目も雰囲気もよく似ていた。新垣さんは、もともと素でも慎生的ムード(強気だけどもろい感じ?)を持っていたような気がするが、朝の方は地なのか演技がうまいのか、まあとにかく原作のファンでもあまり違和感はないかと思えた。

慎生と醍醐奈々、朝とえみりの関係が主な横軸なのだが、奈々(夏帆)が登場する場面は明るくて楽しげだったのに対して、朝とえみりはもうちょっと掘り下げ?て欲しかったかな?

慎生の元彼の笠町(瀬戸康史)は、原作とは別人だった。もうちょっとおっさん臭い人でないとね・・・

総じて、原作のわけのわからなさ、中2的な自己撞着がうまく再現されて、わけのわからないもどかしい(褒め言葉です)映画にできていた、と思う。
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