「ちょぼ」は小さい意。
江戸時代、かわいらしい少女につけた名。または、かわいいおぼこ娘。
江戸の後期、京都・大坂の揚屋・茶屋などで、遊女・芸者の供や、
呼び迎えなどをした15、6歳までの少女をさす。
おちょぼ 第45話 祇王のあらすじ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/7e/209cd87965faf48cc1c295d4da1aa5d9.jpg)
祇王寺から奥に向かうと、さらに竹林が深くなる。
風にさらさらと鳴る竹の音以外、耳には、何も聞こえてこなくなる。
(青く苔むした庭と、どこまでも深くつづく竹林の路か。こんな景色は初めてだ・・・
さすがに京都は、奥が深い)路上似顔絵師が佳つ乃(かつの)の背中に
手を置いたまま、周りの景色に心を奪われていく。
「平家の全盛期。天下は清盛の掌中にあった。
その頃。都で評判の白拍子(水干を着て男舞をする舞女)の名手に、
祇王、祇女という美人の姉妹があった。
姉の祇王は清盛に寵愛された。、妹の祇女も世にもてはやされ、
母の刀自も立派な家屋に住まわせてもらえるようになり、
一家はたいそう富み栄えた」
祇王寺に眠る祇王のあらすじを、佳つ乃(かつの)が口にした。
「京都中の白拍子たちが祇王の幸運を羨み、祇王にあやかる。
自分の名前に、「祇」の字をつける者まで出る始末。
三年が経つ頃。京都にまた、評判の高い白拍子が現れた。
加賀国の者で、年は16歳。名を仏御前という。
「自分の舞を見てほしい」と清盛のもとを訪れる。
けれども清盛は、「遊女は招かれて参るもの、自ら推参するとは何事ぞ。
祇王がいるトコへ来るとは許されぬ。さっさと退出せよ」と追い出そうとする。
祇王が「そっけなくお帰しになるのはかわいそうどす。
同じ白拍子として、他人事とは思えませぬ。
ご対面だけでもなさったらいかがどすか」としきりにとりなす。
「お前がそこまで言うのなら」と清盛が、仏御前を呼びつける。
仏御前の今様(※平安時代中期から鎌倉時代にかけて、宮廷で流行した歌謡※)
も舞も、実に見事で、見聞きしとった者はみな一様に騒然となる。
清盛もすぐに仏御前に心を移してしまう。仏御前をそばに置こうととり計らう。
あわてたのは、呼び戻された仏御前どす。
「祇王御前のおとりなしにより、呼び戻してもろうたのに、
ウチを召し置かれるなどとなったら、祇王御前に対して面目が立ちません。
さっさとお暇をください」と清盛に申し出る。
清盛は、「祇王がいるので遠慮するのであれば、いっそ祇王を追い出そう。
祇王はさっさと退出せよ」と命じ、祇王を邸から追い出してしまう。
祇王はもとから、いつかは追い出される身であることを覚悟しとったが、
それでもこんなに早う追い出されるとは思ってもみず、せめてもの形見にと、
泣く泣く襖に、歌の一首を書きつける。
「萌え出づるも枯るるも同じ野辺の草 いづれか秋にあはではつべき」
(春に草木が芽をふくように、仏御前が清盛に愛され栄えようとするのも、
ウチが捨てられるのも、しょせんは同じ、野辺の草(白拍子)なのや。
どれも秋になって果てるように、やがて清盛にあきられて終わることであろう)
我が家に戻った祇王は、倒れ伏し、ただただ泣いてばかりいた。
そのうちに、毎月贈られとったお米やお金も止められた。
翌年の春。清盛が祇王へ使いを出す。
「仏御前が寂しそうにしとるから、いっぺん邸へ参り、今様をうたい
舞を舞って、慰めてくれ」と命じる。
母の刀自に説得をされ、祇王は泣く泣く西八条の屋敷へ赴く。
祇王はずっと下手の所に席を置かれ、悔し涙で、そっと袖をおさえる。
仏御前はそれを見て気の毒に思うが、清盛に強く止められて、なんもでけへん。
祇王は清盛の言う通り、今様をひとつ舞う。
「仏も昔は凡夫なり 我等も終には仏なり いづれも仏性具せる身を
へだつるのみこそ かなしけれ」
(仏も昔は凡人どした。我等もしまいには悟りをひらいて仏になれるのや。
誰もが仏になれる性質をもっとる身なのに、
こんな風に仏御前と自分を分け隔てするのは、誠に悲しいことだ)
祇王は屋敷をあとにし、自ら命を絶とうとこころみる。
妹の祇女も一緒にと泣く。
しかし母の刀自に泣く泣く教え諭され、都を捨て、尼になる決心をかためる。
3人は嵯峨野の奥の山里に、そまつな庵を建てる。
念仏を唱えて過ごし、一途に、後世の幸福のみを願う。
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋の風が冷たく吹き始める。
ある夜、竹の網戸をとんとんとたたく者がある。
こんな夜更けにこんな山里にいったい誰であろうと、恐る恐る出てみると、
そこに仏御前が立っていた。
驚く祇王に向かって、仏御前は言う。
「もとは追い出されるところを、祇王御前のおとりなしにより呼び戻されたのに、
ウチだけが残されてしまい、ほんまにつらい想いをしました。
祇王御前のふすまの筆を見て、なるほどその通り、いつかは我が身だと思い、
姿を変えてこちらにいらっしゃると聞き、ぜひウチもと、
こうして参りました」。衣を払いのけた仏御前は、すでに尼の姿になっとった。
「ウチの罪を許してください。
許されるなら、一緒に念仏を唱えたいと思います。極楽浄土の同じ蓮の上に、
ふたたび生まれましょう」と、仏御前が、さめざめと涙を流す。
祇王は涙をこらえ、「これほど思っておられたとは、夢にも知りませんどした。
さあ一緒に往生を願いましょう」と、仏御前を迎え入れる。
4人は同じ庵に籠り、朝夕一心に往生を願い、見事に本望をとげた、
という話が、ここには、残っとんのです」
※参考文献:「日本古典文学全集29 平家物語 一」より
(小学館 1973年初版発行 1995年第25版発行)
第46話につづく
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