医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

比較する人数の問題

2005年05月18日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
現実にはありえない話ですが、ともに人口が40万人のA市とB市があったとします。「A市の住民の平均身長は165cmで、B市の住民の平均身長は168cmでした。」これを聞いた皆さんはB市には身長を高くする特別な原因があるのではないかと感じませんか。同じ日本人なのに何十万人という単位で平均身長が異なるとすれば、その結果を受け入れその原因を探すのではないでしょうか。それでは次に、ともに人数が40人のA組とB組があったとします。A組の平均身長は165cm、B組の平均身長は168cmだったとするとどうでしょうか。B組の生徒の身長が高いのは何かの原因ではなく、偶然背が高い生徒がB組に集まったと考えるのではないでしょうか。

このように対象とする人数は各群を較べる際の重要な因子になります。当然、その数が多い方が、統計学的に確かな差(有意差)が出る可能性が高いと言えます。また逆に、比較する対象数が少ないのに統計学的に意味を持つ差が出るのは、その差が大きいか特別な理由があるからだと考えられます。
本ブログでは、私の独断と偏見により、比較した人数を50人以下は星1つ★、51~100を星2つ★★、101~500を星3つ★★★、501~1000を星4つ★★★★、1001以上を星5つ★★★★★と分類しました。
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NNTについて

2005年05月18日 | 本ブログの理解を深める基礎知識
NNT(Number Needed to Treat)とは、患者さん1人がメリットを得るために、同様の患者さん何人に治療を行わなくてはならないのかを示す指数です。前回お話ししたPROSPERという研究で考えてみたいと思います。この研究では、スタチンを内服していた人の心筋梗塞と脳梗塞の発症率は14.1%で、内服していなかった人の発症率は16.2%ですから、1,000人中の発症率は内服群で141人、内服していなかった群で162人という事になります。

その差は21人で、この差を得るために1,000人の方にスタチンの投与という治療を施したのですから、NNTは1,000÷21≒50人と計算できます。つまり1人の心筋梗塞や脳梗塞の発症を予防するために、49人分の内服が必要になるのです。しかもその49人はスタチンを内服しても利益を得ていないわけです。将来誰が心筋梗塞や脳梗塞を発症するかは予測できないわけですから、全く無駄であるとは言えないのですが、薬代を支払うという行為で50分の1の確率の保険に参加する事と同じであるわけです。

では、その薬代(保険料)はいくらなのでしょうか。2005年の時点でこのスタチンの値段は10mgで約163円です。1日40mgという事は、1日652円、1年365日で23万7千円、3年間で71万3千円です。これを1,000人に投与するのですから7億1,400万円の薬代が製薬会社に支払われる事になります。そしてそのスタチンの投与で1,000中21人が心筋梗塞や脳梗塞を免れるわけですから、70歳から82歳の方の心筋梗塞や脳梗塞の発症を1人予防するために3,399万円(7億1,400万円÷21)が必要です。

この数字を高いと考えるか安いと考えるかは意見が分かれるところだと思います。意見が分かれる原因にこの研究の問題点があります。その問題点とは、心筋梗塞や脳梗塞の発症を軽症から死亡まで同様な概念でまとめてしまった事です。心筋梗塞や脳梗塞で死亡してしまう事が1人当たり3,399万円で予防できれば、その金額は安いと考える事ができますが、その反面、医療技術の進歩で軽症の心筋梗塞はカテーテル治療により200万円以内で治すことができ、入院に伴う経済的・社会的な損失を考慮しても3,399万円にはならないからです。

心筋梗塞や脳梗塞で死亡する事だけを比較しなかった理由は、死亡だけでは有意差がでないからです。さらに言えば、有意差がでないと考えられる研究は、その薬を売る製薬会社には何の利益もないからなのです。有意差が出た研究は発表し、有意差がでなかった研究が人為的に発表されないという事を防ぐために、最近、アメリカの学会はあらかじめ研究のデザインを登録しなければ、たとえ有意差が出た研究でも専門誌に掲載しないというルール作りを進めています。

さて、そんなあなたはその薬を内服しますかという問題です。

自分に利益がある可能性が50分の1であっても、自分は軽微であっても心筋梗塞には絶対なりたくないので自己負担3割を支払い、50分の1の利益の可能性を選択し内服するという意見もある反面、それではいかにも医療費の無駄遣いだという意見の方もあると思います。これまでスタチンの研究の例をお示ししましたが、動脈硬化の程度や心筋梗塞や脳梗塞の発症危険度は個人により千差万別です。一度ご自分の動脈硬化の程度や発症危険度を担当の医師に尋ねてみるのも重要なことです。

日本の医療を問いなおす―医師からの提言
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