医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

薬剤溶出ステントの功罪

2006年09月26日 | 循環器
以前、薬物溶出ステントは血管の中に入れたあとも、その内側に膜が出来にくく、再狭窄と呼ばれる現象が起こりにくいということをお伝えしました。しかし、膜が出来にくいために人体はそのステントを異物と判断してそこに血液の塊を作りやすくなります。血液の塊で血管が塞がれると再狭窄どころか、心筋梗塞を起こしてしまいます。血液の塊で突然つまってしまうこのタイプのつまり方では、心臓の筋肉が血液不足に対して慣れていないために致死的名不整脈で命を落としてしまうことが多いのです。

今回の学会では薬物溶出ステントを入れた場合の血の塊で閉塞してしまう(血栓症)発症率が発表されました。通常は「アスピリン」と「パナルジン」と呼ばれる血液の塊を出来にくくする薬を内服するので、その場合はほとんど血栓症は起きず、発症率は0.2%ぐらいです。

厚生労働省は薬物溶出ステントを入れた後は「アスピリン」と「パナルジン」を最低3カ月処方し、アスピリンは半永久的に処方するように勧告していましたが、医者は血栓症の発症を恐れて3か月後もパナルジンを処方する場合が多かったようですが、今回の発表ではパナルジンは3カ月で中止しても血栓症は起きないようです。

問題は「アスピリン」です。これまでアスピリンは脳梗塞の発症を予防するなど、血栓症予防に対する多くの効果が確立してきました。逆に言うとアスピリンを内服していると血液が固まりにくくなるので、ガンなどの手術をする場合は中止するべき薬なのです。

さて、今回の学会で、薬物溶出ステントを入れたあと「アスピリン」の内服も止めると3%の確率で血栓症が起こることが発表されたのです。

つまり血栓症の発症はほぼ「死亡」を意味しますから、薬物溶解性のステントを入れた後にガンなどが見つかり手術をしなくてはいけない場合には、アスピリンを中止して手術に望むわけですから、3%の確率で起こる「死亡」を覚悟しなければならないのです。

心臓の血管の再狭窄では死亡することはありませんから、将来手術を受ける確率が高い方は薬物溶出ステントは入れない方がいいのかもしれません。薬物溶出ステントでないステントを入れて、再狭窄でカテーテル治療を繰り返す可能性を選択するか、薬物溶出ステントを入れて手術が必要になった場合の3%の可能性を選択するか、それは患者さんご自身が決めなくてはならないことだと思います。患者さんがその後どれぐらいの確率で手術が必要になるのかは医者にもわからないからです。

このように薬物溶出ステントがいいことずくめではない事がわかった後でも、薬物溶出ステントをどんどん使っている施設があります。今回の発表によると使用するステント全体に対する薬物溶出ステントの割合は、日本の場合施設によってさまざまで、20%~90%だそうです。アメリカではほとんど施設が90%の割合で薬物溶解性のステントを使っています。3%ぐらいが死亡しても、それ以外の多くの人が恩恵にあずかるのだからいいという、「全頭検査なしOK」、「イラク戦争アメリカ兵派遣OK」の理論です。

う~ん、私なら普通のステントにしてもらいますね。ガン以外にも将来手術の必要性が出てくる場合ってかなりありますからね。



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コメント (4)
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