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ヘリコバクター・ピロリ菌感染による胃ガンのリスク

2014年01月22日 | 消化器
8年ほど前に、ヘリコバクター・ピロリ菌の保菌と胃ガンの発症率についてお伝えしました。

この研究では、約8年間追跡してヘリコバクター・ピロリ保菌者は2.9%が胃ガンを発症しましたが、非保菌者からは胃ガンは発症しませんでした。

私もガン年齢になっていますので、自分は保菌者かどうか調べてみることにしました。

奇妙なことに、ピロリ菌を保菌しているかどうかの検査は胃カメラをして胃潰瘍か十二指腸潰瘍か慢性胃炎と診断されていなければ健康保険が効きません。

検査法は
(1) 血液検査
(2) 便検査
(3) 呼気検査
(4) 胃カメラ時の組織検査
です。

血液検査の場合は自費では800円です。


保菌者と判明した場合も、胃カメラをして胃潰瘍か十二指腸潰瘍か慢性胃炎と診断されていなければ、除菌のための薬に対しても健康保険が効きません。ランサップという薬代6,011円は自費で支払わなければなりません。

私はここであることに気がつきました。

私が「奇妙」と表現したわけは、

NNT(Number Needed to Treat)とは
でお伝えしたように、一人の心筋梗塞や脳梗塞を予防するのに悪玉コレステロール低下薬には3,000万円をかけても健康保険が効く、あるいは「メタボリック症候群撲滅だ!」と盛んにコレステロール値や糖尿病の指標が測定されているのに、保有している人がしていない人と比較して約3%も胃ガンの発症率が上昇するピロリ菌の検査は、胃潰瘍か十二指腸潰瘍か慢性胃炎と診断されていなければ健康保険では補てんしてもらえないことです。

百歩譲って、保菌者の胃ガンの発症率を調査した研究は、症状がある患者を対象としたものであるからという理由は理解できます。しかし、それほど大きな金額ではないのです。

最近、日本人を対象とした以下のような研究が報告されています。
The effect of eradicating helicobacter pylori on the development of gastric cancer in patients with peptic ulcer disease.
Am J Gastroenterol. 2005;100:1037.
この研究では5年間の調査で、ピロリ菌保菌者の胃ガン発症率は3.8%、除菌に成功した者の発症率は1.2%と報告されています。

Helicobacter pylori eradication reduced the incidence of gastric cancer, especially of the intestinal type.
Aliment Pharmacol Ther. 2007;25:805.
この研究では3年間の調査で、ピロリ菌保菌者の胃ガン発症率は1.7%、除菌に成功した者の発症率は0.4%と報告されています。

The effect of Helicobacter pylori eradication on reducing the incidence of gastric cancer.
J Clin Gastroenterol. 2008;42:279.
この研究では3.2年間の調査で、ピロリ菌保菌者の胃ガン発症率は4.3%、除菌に成功した者の発症率は1.5%と報告されています。

つまり、ピロリ菌保菌者は除菌すると胃ガンの発症率が3~5年で約2%ほど低下するのです。2%の改善ということは、50人に一人が有効ということですから、ランサップという薬代6,011円に50を乗して約30万円で1人の胃ガンの発症が予防できることになります。

厚生労働省は、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを減らす薬は1人の予防に3,000万円を費やしてでも健康保険の対象とする一方、胃ガンのリスクを減らす薬は1人の予防に30万円で済むのに、胃カメラを行わなければ健康保険の対象としていません。約8年間追跡してヘリコバクター・ピロリ保菌者は2.9%が胃ガンを発症したけれど、非保菌者からは胃ガンは発症しなかった報告があるのだから、「ヘリコバクター・ピロリ保菌者」はもはや完全に「患者」でしょう。

これは明らかに製薬会社の厚生労働省に対するロビー活動の差と考えられます。ピロリ菌を除菌する薬は相対的に薬価が安く、もうけにならないのです。逆に言えば、悪玉コレステロール低下薬の会社は、このように芸能人を次々に投入して国民をあざむいて儲けようと必死です。「物を売りたかったら、まず不安感を煽れ」と言われます(このままで老後の生活費は大丈夫ですか?あなたの抜け毛大丈夫ですか?目尻のしわが気になりませんか?などこの手の商法は巷にあふれています)。、このサイトって凄く不安感を煽っているでしょう。

このブログは厚生労働省の方にもご覧いただいていると思います。そんなロビー活動に騙されないで、内視鏡検査なしでもピロリ菌検査、ピロリ菌除菌にも健康保険が効くようにして下さい。健康保険は予防には適応されないという考え方は理解できますが、それなら悪玉コレステロールが高いのは「疾患」で(心筋梗塞を発症するのはその中のごく一部です)、ピロリ菌の保菌は「疾患」でない理由が説明がつきません。

まとめ
一般の「悪玉コレステロールが高い人」→心筋梗塞の発症率は6年間で2.7%→「悪玉コレステロールが高い人」は疾患と見なされる→1人の発症予防に3,000万円必要→悪玉コレステロールを改善させるのに健康保険が効く

一般の「ピロリ保菌者」→胃ガンの発症率は5~8年間で平均3%→「ピロリ保菌者」は疾患とみなされない→1人の発症予防に30万円でよい→しかし胃潰瘍か十二指腸潰瘍か慢性胃炎でないと保菌を改善させるのに健康保険が効かない


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2 コメント

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無症状の場合 (secondopinion)
2014-01-31 17:34:23
貴重なコメントありがとうございました。私も全く同感ですが、その後の記事も参照下さい。
http://blog.goo.ne.jp/secondopinion/e/c4b39ae18c3c4b1139e551f67171ec1b
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Unknown (通りすがり)
2014-01-31 15:03:28
初めまして。
おおむねおっしゃっていることは間違いはないとは思いますが、

「つまり、ピロリ菌保菌者は除菌すると胃ガンの発症率が3~5年で約2%ほど低下するのです。2%の改善ということは、50人に一人が有効ということですから、ランサップという薬代6,011円に50を乗して約30万円で1人の胃ガンの発症が予防できることになります。」

ここは少し言い過ぎではないでしょうか。除菌失敗例もありますし、再感染もあります。
また3つお示しの論文の一番上は何らかの症状があってピロリ陽性が判明した保菌者たち
真ん中の論文はぱっと見、なぜ内視鏡を受けて感染が判明したか分からないですけど
一番下の論文も、症状があって内視鏡を受けて感染陽性が判明した人たちです。

無症状でピロリ保菌者の解析ではないはずです。2001年のNEJMもそうだと思います。
なので「症状があってピロリ保菌者の場合は」と書き換えるほうが正確なのではないでしょうか。
ピロリの除菌の保険適応が狭いことは私も不満ですし、ただの保菌者も除菌すれば胃癌リスクは下がりそうな気がしますが、ただ「保菌者」だけの表現でブログに書くには書き過ぎかなと感じます。

いかがでしょうか。
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