獅子風蓮のつぶやきブログ

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乙骨正生『怪死―東村山女性市議転落死事件』Ⅴ章 その3

2023-03-22 01:27:22 | 東村山女性市議転落死事件

乙骨正生『怪死―東村山女性市議転落死事件』(教育史料出版会1996年5月)
より、引用しました。
できるだけ多くの人に読んでいただく価値がある本だと思いますので、本の内容を忠実に再現しています。
なお、漢数字などは読みやすいように算用数字に直しました。

なお、乙骨さんにはメールで著書を引用している件をご報告したところ、快諾していただきました。
ありがとうございます。

(目次)
□まえがき
□Ⅰ章 怪死のミステリー
□Ⅱ章 疑惑への道のり
□Ⅲ章 対立の構図
□Ⅳ章 たたかいの軌跡
■Ⅴ章 真相を明らかにすることは民主主義を守ること
□あとがき


◆“欺瞞”と叫ぶ『潮』の欺瞞性
創価学会の外郭企業である潮出版社が発行する雑誌『潮』の記事には、そうした東村山署の思惑とこれに同調する創価学会の意向が端的に示されていて興味深い。
周知のように朝木さんと激しく対立していた創価学会は、朝木さんの死後、遺族、関係者、マスコミから不可解な死への関与を取りざたされたことから、声高に関与を否定、執拗に朝木さんの死を自殺だと喧伝し続けた。そうした創価学会の主張を集約したのが、雑誌『潮』95年11月号所載の記事である。
10月5日に発売された同誌には、ジャーナリストの山本芳実氏の筆になる「世間を欺く『東村山市議自殺事件』の空騒ぎ。ことさらに『他殺説』をデッチ上げ、創価学会バッシングを企図する週刊誌報道の欺瞞」と題する記事が掲載されている。タイトルを一瞥すれば分かるように、山本氏の記事は創価学会を擁護するスタンスで書かれているが、そこには「自殺」説に立つ東村山署の本音が赤裸々に記されているのである。同記事は、次のような書き出しで始まっている。

「東京都下、人口約14万の東村山市で、9月1日、女性市議の朝木明代さん(50歳)が、マンションの6階の踊り場から落ちて死亡するという不幸な出来事があった。
彼女の転落死は警察の捜査で自殺と断定された」

冒頭でいきなり朝木さんの死を、警察は「自殺と断定」したと記す山本氏は、次のように筆を進める。

「そして彼女はその2ヶ月半前、市内で万引き事件を起こし、被疑者として9月はじめ、地検に出頭することになっていた。死者にムチ打つつもりはないが、破廉恥な事件そのものは指摘しておかねばならない。
万引きと自殺……この二つが転落死をめぐる騒ぎの構成要件なのである」

要するに『潮』の記事は、朝木さんの死は、万引き事件を苦にしての自殺というシナリオにそって構成されているのである。この『潮』が出版されたのは10月5日、当然、締め切りは最短でもその10日ほど前と考えられる。となれば少なくとも9月20日頃には、東村山署は、朝木さんの死を「自殺と断定」していたことになる。千葉副署長の「慎重な捜査を行う」との発言とは裏腹に、東村山署が当初から「自殺」との結論を出していたことを『潮』の記事は裏付けているといえよう。


◆牽強付会
同記事は、朝木さんが「かねて反創価学会のリーダーとして、派手な反学会活動を展開していた人物」であったことを紹介した後、さながら朝木さんに対するネガティブキャンペーンを展開するかのように、悪意に満ちた論述を続ける。曰く、議席譲渡によって市民から「議席の私物化で、選挙民を裏切り、愚弄した」との批判を浴びていた人物である。万引き事件を起こし、同僚の矢野市議とともにアリバイ工作に従事した人物である。そして最終的に、朝木さんの死は警察の捜査で「万引き事件を苦にしてのためらい自殺」だと断定されたと結論づけているのである。記事のなかから東村山署の注目すべき主張を拾ってみることにしよう。

①「死因について週刊誌は『外に呼び出されて拉致された……』『自殺するはずがない……』『オウムのような犯行の手口』……などと、いかにも“他殺断定”のような見出しを使うが、警察当局は『どんなに雑音が氾濫しようと100パーセント自殺に間違いない』とし、ことさら他殺説を振りまく週刊誌に不信感、不快感を隠さない」
②「万引きを働くような自制心のない性癖が、地検出頭を控えての不安から衝動的な行動に走ったとみるのが、より常識的ではあるまいか」
③「『救急車を呼びましょうか』という問いかけに、彼女は『いいです』と断っているのである。
警察が重視するのはこの最後の言葉だ(店員と彼女の緊急の会話は警察で何度も確認されている)……警察は週刊誌の取材に、この会話の内容もくわしく説明しているが、各誌とも自殺を示唆するこの部分はことさら欠落させている」
④「警察は『一度、飛び降りようと手すりの上に立ったが、まだ飛び降りの決心はできない。だがなんらかの拍子でバランスを崩し手すりを握った。そして思わずキャーと叫んで、一度は手すりにつかまり、ズルズルと落下した。その時、体が少し傾いた。だから落ちた時に背中ではなく、胸を落下点の棚に強打した。死因は肋骨が肺に突き刺さっての出血死』。正確にいうと自殺しようとしての事故死、つまり、ためらい自殺であることには疑う余地がないとしている」

この記事からは、東村山署が9月の時点で、「100パーセント自殺に間違いない」と考えていたこと。より具体的には、④「飛び降りようと手すりの上に立った……」とする「ためらい自殺」であると断定していたこと。そしてその根拠として、③救急車を断ったとする発言を重要視していることが分かる。また、自殺の動機として山本氏は、②「万引き事件を働くような自制心のない性癖が、地検出頭を控えての不安から衝動的な行動に走った」と指摘するのである。
それにしても、④に記された「一度、飛び降りようと手すりの上に立ったが、まだ飛び降りの決心はできない。だがなんらかの拍子でバランスを崩し手すりを握った。そして思わずキャーと叫んで、一度は手すりにつかまり、ズルズルと落下した。その時、体が少し傾いた。だから落ちた時に背中ではなく、胸を落下点の棚に強打した」とは、まるで見ていたようなディテールに満ちた話である。
だが、東村山署が朝木さんの手の跡だとする「ロックケープ」ビルの踊り場にある手すり(防護壁)に、大人がつかまることはほとんど不可能である。私もビル1階から2階の間にある踊り場の手すりにぶら下がろうとしたが、比較的腕力には自信のある私でも、自重ですぐに落ちてしまった。よほどの腕力がないかぎり、ぶら下がることはできないだろう。まして、立っていた大人がバランスを崩して落下する際に、とっさにつかまることなど、とてもできるとは思えない。
また、自殺断定の根拠となる救急車を断ったとする発言も、事実とは異なる。「警察は週刊誌の取材に、この会話の内容もくわしく説明しているが、各誌とも自殺を示唆するこの部分はことさら欠落させている」とするが、この点については、Ⅰ章でも触れたように、事件性の有無を立証するうえでの重要なポイントだけに、私をはじめとするマスコミ関係者は、第二発見者の店長に対し、二度、三度と発言の有無を確認している。
その結果、店長は、駐車場の管理人との間で「救急車を呼びましょうか」との会話をかわしたことは認めるが、朝木さんに「救急車を呼びましょうか」と問いかけた事実はないと断言している。そうした事実に基づいて週刊誌は、救急車を断ったという発言を取り上げないのであって、存在しない会話を重要な根拠として、自殺説を主張する東村山署と創価学会の姿勢こそ問題である。東村山署は、第二発見者の店長に対しても、第一発見者同様、自分たちの捜査上のシナリオにそった供述を強要ないしは誘導している可能性が高い。第二発見者の店長に対する事情聴取が、9月2日午前7時すぎから11時すぎまでと、実に4時間にも及んだのは、店長が供述する現場の“事実”と警察シナリオとの齟齬を埋めるために時間がかかったからとの見方も可能だ。
同様に、自殺の動機とされる「万引き事件」についても、朝木さんは「万引き事件」そのものを、「創価学会・公明集団によるデッチ上げ」であるとして全面否定。仮に起訴されたとしても断固戦うとの姿勢を見せており、これを苦にしていたようすはない。「万引きを働くような自制心のない性癖」などと断定的に記述し、あたかも起訴を恐れていたかのように書く『潮』の記事、そして東村山署の主張は牽強付会である。

 


解説
創価学会の外郭企業である潮出版社が発行する雑誌『潮』の記事には、そうした東村山署の思惑とこれに同調する創価学会の意向が端的に示されていて興味深い。

(中略)
少なくとも9月20日頃には、東村山署は、朝木さんの死を「自殺と断定」していたことになる。千葉副署長の「慎重な捜査を行う」との発言とは裏腹に、東村山署が当初から「自殺」との結論を出していたことを『潮』の記事は裏付けているといえよう。

創価学会に都合のいい記事しか載せない『潮』は、信用にあたいしません。

店長は、駐車場の管理人との間で「救急車を呼びましょうか」との会話をかわしたことは認めるが、朝木さんに「救急車を呼びましょうか」と問いかけた事実はないと断言している。

この事実は重要です。

獅子風蓮