素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

忘れられない連載

2009年08月24日 | 日記
  第2、第4月曜日は、子ども会の取り組みで、古紙回収の日となっている。ダンボール、雑誌、本などは普通の業者は嫌がるのだが、これを請け負っている業者は紙であれば、すべて持っていってくれるので有難い。
  そこで、2週間に1度のペースで、今まで置いてあった古い雑誌を片付けて出すときめている。今日で、やっと、雑誌類は95%片付いた。その中に、どうしても捨てられない連載があった。

  和光大学の丸木 政臣氏を中心に活動していた全国生活教育連盟の『生活教育』という雑誌の1984年7月号から1年間(全12回)連載された《子どもの荒廃に挑む~学校再建の道を求めて~》である。書いてる人は 能重 真作さん。

  能重さんは、足立十二中での生活指導の実践を「ブリキの勲章」という題で出版し、ベストセラーになり、映画化もされ、生活指導のカリスマ的存在であった。“ヤンキー先生”でもそうであるが、1度マスコミで取り上げられ、話題になるとその後、なかなか地道な教育実践はできなくなる。という風に、私は思っていた。

  来月から、能重さんの連載が始まるという予告を見ても、どうせ自分とは違うスーパーマン先生の報告だろうと期待していなかった。25年前で当時33歳の私には、マスコミでちやほやされる先生は信用できないという偏見があった。

  そして、連載第1回を読んだ時、衝撃を受けた。内容は足立十二中から荒川四中に転勤し、荒れた状態の中で苦悩する姿を、ありのままさらけだしていたのだ。それでも、どうせ、回がすすむにつれ、劇的によくなっていくに違いないと思っていた。

  しかし、連載がすすんでも、無秩序な状態は遅々として改善されない。日付けをみると、8回になっても、4月のことが話題である。毎日の悪戦苦闘ぶりが想像できた。第7回の中の、《ささやかな励まし》という部分を抜粋すると

 *そんなある日、私を励ましてくれたうれしいできごとがあった。忘れもしない始業式の日から1週間ほどたった、4月13日のことである。
 その日の学級日誌に、次のように書いてあったのである。“先生、いつまでも元気に頑張ってね” その日の日直の一人、石川澄子という女生徒が書いたものである。「私を励ましてくれたうれしいできごと」というのは、たったこれだけのことなのだが、子どもから学級日誌を受け取り、廊下を歩きながら この一文を目にした時、「感激」と言ってもいいような熱いものが胸のうちにこみあげてくるのを感じたのである。まさに、「地獄で仏を見る」思いであった。
  私は、職員室にとんで帰ると、子どものようにはしゃいで、そこにいた先生たち誰かれかまわず、その学級日誌を見せて、しゃべりまくった。今考えれば、なんとたわいのない自分だったのだろうと思うのだが、当時の私はそんなささやかなことでも励まされるほど、精神的にまいっていたのである。*

  連載の最後は、9月の修学旅行への取り組みについて書かれていて、教師が引率しても統率できないのならと開き直り、班による自由行動を打ち出し、成功するところでおわっている。(完)ではなく(未完)とうってあった。

  1年間、連載を読みながら、実態のすさまじさもさることながら、その中で苦悩する姿を飾らずに出してくれたことが、規模は違っても、同じように生活指導で日々振り回されている私にとって、元気を与えてくれた。「成功」物語より「未完」物語のほうが 心に、より響く。
  能重さんは、三十年のベテラン教師であった。そして、前任校では生活指導の輝かしい実践をされ、全国的にも名が知れ渡った人である。それでも転勤先では、そのことは通用しない。一から実践を積み上げていかなければいけない。という厳しい現実を教えられたと思う。
  同じ学校に勤務を続ければ、周り(生徒、保護者、同僚)に対して一定のイメージが出来上がり、指導がスムーズにいくことがよくある。でもそれは、新しい学校では通用しない。前はこれでうまくいったのにという意識を捨て去り、一つ一つ、賽の河原ではないが、石を積み上げないといけない。これが、年齢を重ねれば重ねるほど結構つらいものである。

  この連載を読んだ当時は、10年目ぐらいだったのでそこまで深く考えなかったが、20年、30年と勤務を重ねるにつれ、この連載が心の支えになったことは確かである。

  これだけは、捨てられず、切り取って製本した。ずい分古い実践だが、基本的には今、学校でおこっていることと通じる。自分の手元に置いておいても、意味がないので、勝手に、心ある人に押しつけようとおもっている。    
コメント (1)
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