「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

なおざりにしすぎ!『アフターダーク』by村上春樹

2019年06月11日 | 小説レビュー
~時計の針が深夜零時を指すほんの少し前、都会にあるファミレスで熱心に本を読んでいる女性がいた。
フード付きパーカにブルージーンズという姿の彼女のもとに、ひとりの男性が近づいて声をかける。
そして、同じ時刻、ある視線が、もう一人の若い女性をとらえる―。
新しい小説世界に向かう、村上春樹の長編。「BOOK」データベースより


前から気になっていた本で、図書館にあったので借りてきました。

読み始めてから中盤くらいまで、「これって村上春樹やんなぁ?なんか伊坂幸太郎みたい」と、不思議な感覚で読み進めました。

セリフや描写には、「さすが、村上春樹!」と唸らされますし、ストーリーも「どうなっていくんやろ?」と、読者を惹き付ける力もあります。
とはいえ、かなりクオリティの低い作品です。

色々と個性的なキャラクターが登場しますが、味見程度のキャラクター紹介で留まっています。

あちこちに手を広げて、食べ散らかしただけで、まとまりがなく、謎が謎のままで放っておかれ、結局夜が明けて朝がきて終わりましたという感じ。

全体を俯瞰している謎の存在も訳がわからず、お姉さんの状態もわからず、テレビの謎も解明されず、マスクの親父も不明、白井の今後もわからず、高橋とマリの未来もわからず、何もかもがわからず仕舞いで中途半端で、関連付けられておらず、本当に「これをあの村上春樹がホンマに書いたんか?」と問いたくなります。

どんな一流作家さんにも、スランプとか、新しい作風を模索しながら、苦しみながら書いた時期というのがあるとは思いますが、これはヒドいですね。

★★☆2.5です。

エッセイというよりも、ほぼ絵本『切なくそして幸せな、タピオカの夢』by吉本ばなな

2019年06月08日 | 小説レビュー
『切なくそして幸せな、タピオカの夢』by吉本ばなな

~人生は一度だけ。なるべく幸せでいた方がいい。なるべく愛する人と、おいしく食べた方がいい。
だれの胸の中にもある、亡き両親への思慕と子への情愛をあたたかな筆致でつなぎとめた傑作エッセイ。豪華イラスト付。「BOOK」データベースより


嫁さんから「図書館で借りてきて欲しい」と頼まれて借りてきました。読み終えた嫁さんは「泣いたわぁ~」とのことでしたが、僕にはそこまででした

やはり、母と父とでは、子を想う気持ちのリアリズムに少しのズレがあるのかもしれませんね

エッセイというよりも、「ほぼ絵本」と言って差し支えないほどの文章量です。30分もあれば充分に読めます。

Soupy Tangさんという、台湾在住のイラストレーターが描いたイラストが満載なんですが、僕自身、この画にイマイチ感情移入できませんでした。線がクッキリしすぎているというか、もう少し抽象的にぼやかした感じの画の方が、読者に対して想像の自由度を与えられたと思います。

いずれにしても、子育てに悩んだり疲れているお母さんにはオススメの絵本ですね。

★★★3つです。

心理描写がスゴい!『こころ』by夏目漱石

2019年06月07日 | 小説レビュー
『こころ』by夏目漱石

~この小説の主人公である「先生」は、かつて親友を裏切って死に追いやった過去を背負い、罪の意識にさいなまれつつ、まるで生命をひきずるようにして生きている。
と、そこへ明治天皇が亡くなり、後をおって乃木大将が殉死するという事件がおこった。
「先生」もまた死を決意する。だが、なぜ…。「BOOK」データベースより


ある程度、結末が予想されている中、心の揺れ動く様だけで、これほど読ませてくれる文学作品があるでしょうか?

『こころ』というタイトル通り、前半は、主人公の『私』のこころの裡、後半は、『先生』の手紙に認められた『先生』のこころの裡で構成されています。

まぁ、本当に煩悶ですね。よくぞこれだけの心の裡側について言葉を尽くせるものかと、あらためて夏目漱石の筆力・表現力に感心します。さすがやなぁ~と思いますね。

ストーリーとしては、若き書生の『私』が、海水浴場で見かけた謎の紳士『先生』に惹かれて、書生のような形で『先生』の自宅に出入りするところから始まります。

『私』の父の病に対する思いや、『先生の妻』への想い、そして『先生』の心の不思議を解明しようとする思いなど、前半は『私』こころの揺れ動きを巧みに表現しています。

後半は、『先生』が、なぜこのような、一見空虚な世捨て人のような厭世観を漂わせているのかということの原因が、先生の長い長い手紙によって明かされます。

この手紙を読んだ時に、僕の頭の中には宇多田ヒカルの『誰かの願いが叶うころ』のメロディが浮んできました・・・。

〈中略〉
~自分の幸せ願うこと 
わがままではないでしょ
それならあなたを抱き寄せたい 
できるだけぎゅっと
私の涙が乾くころ 
あの子が泣いてるよ
このまま僕らの地面は乾かない

あなたの幸せ願うほど 
わがままが増えてくよ
あなたは私を引き止めない 
いつだってそう
誰かの願いが叶うころ 
あの子が泣いてるよ
みんなの願いは
同時には叶わない


『先生』や『K』の真っ直ぐな思いを受け止めたはずの『お嬢さん』の心の揺れ動きが、「クスクスと笑うだけで」とかで、肝心な場面に至っても、あまりハッキリと表現されず、イマイチ伝わらなかったのが残念ですね。

漱石にすれば、それは「割愛しても良かろう」と思ったのかも知れません。

『親友:K』を裏切り、奥さんやお嬢さんを欺き、『K』を自殺に追い込んでしまったことで、ずっとずっと心の中の闇として抱え続けてきた『先生』は、死に場所を探す為に生きていたといっても過言ではないでしょう。

そんな折、乃木希典の殉死を受けて、「ここしかない」と決断します。

西南戦争に従軍した際に、大切な連隊旗を奪われた屈辱を抱え続け、35年間も死に場所を探し続けてきた乃木希典。

そんな乃木将軍の生きざまと自分をダブらせて、最期を遂げた先生の心の闇は、果たして取り払われたのでしょうか?

重く苦しく、悲しく切ない物語です。

また、あとに残された『妻』や『私』のことを思うと、不憫でなりません。

本書を読んで感じたことは、「いい人だと思っていた人でも、いざという時には瞬間的に悪人になる(なりうる)」という事でしょう。

信頼していたのに裏切られた叔父と同じことを自分が親友に対してやってしまった後悔。

こういう話は、私の身の周りでも、しばしば見聞きしたことがあります。

そのきっかけは『金銭欲』であったり、『愛欲・恋欲』であったり、『出世欲』であったり、でしたね。

では本書は、「人を信じるな」ということを訴えているか?といえば、そればかりではなく、「人を信じても良いが、裏切られる可能性があることを充分に心に留めて、備えて、人生を歩んでいって欲しい」ということでしょう。

『先生』は、『私』に最期の遺書として、遺訓として、「備えよ!」ということではないでしょうか?

また、自分自身も、気をつけなければ、己の欲の為に、簡単に人を裏切る可能性があるということを胸に留めたいです。

★★★☆3.5です。

神の存在とは?『沈黙』by遠藤周作

2019年06月06日 | 小説レビュー
『沈黙』by遠藤周作

~キリシタン迫害史を背景とする緊迫のドラマの中に、神の存在を問い、信仰の根源を衝いて、西洋と日本の思想的対立を鋭くえぐり出す長編小説。
谷崎潤一郎賞、ピエトロザク賞受賞「BOOK」データベースより


う~ん・・・、重苦しい小説でした。
暗くて辛い描写ばかりで、少しも救いがありません。

キリスト教の若き司祭・ロドリゴが主人公です。

ポルトガルで、その身を信仰に捧げていたロドリゴのところに、遠く日本の地において布教活動を続けていたはず、かつての師匠・フェレイラ師が、日本幕府のキリスト教弾圧の末に棄教したという話が届きます。

いても立ってもいられないロドリゴは、仲間のガルベらとともに日本への船旅に出ます。

荒れ狂う海原に乗り出した一行は、インドを経て数ヶ月間に航海の据えに澳門にたどり着きます。

そこで出会った隠れキリシタン・キチジローの案内で、『島原の乱』が平定された直後のキリスト教信者に対する厳しい弾圧が行われていた長崎、五島列島に上陸します。

弾圧から逃れて人里離れた辺境の地で暮らす隠れキリシタン達に歓迎されるロドリゴでしたが、執拗に追いたてる長崎奉行所の包囲網にかかってしまい、とうとう囚われの身となってしまいます。

独房に入れられ、奉行たちから厳しい詰問を繰り返され、「転べ!」と、棄教を迫られるロドリゴでしたが、堅い信念とキリストへの強い思いを裏切ることなく、頑なに拒否し続けます。

老齢の狡猾な井上筑後守な取調べと様々なかけひきの末、「私が転ばなければ、私を信じる日本人信徒たちが酷い目にあう」ということを目の当たりにし、イエス・キリストの「私を踏みなさい」という、声ならぬ声を聞き、とうとう踏み絵を踏みつけてしまいます。

ここに至までのロドリゴの心の裡の煩悶と懊悩が繰り返される様は凄まじいものがあります。

ロドリゴの救いを求める必死の祈りと、常に沈黙を守り続けるイエス・キリストの姿(実際に姿はありませんが)との対峙が、「信仰とは何か?神のは実在するのか?」ということを読者に訴えかけます。

歴史で語り継がれている日本で行われたキリスト教弾圧の凄まじさや、日本を取り巻く異国間の勢力争い等を垣間見ることが出来ました。

キリシタン大名としては、高山右近や大友宗麟などが有名で、数々の逸話をのこしていますが、宗教弾圧ということに関しては戦国時代前後に盛んに繰り返されており、為政者が国を統治する上で、民衆による宗教信仰が様々な障壁となっていたかということが、よく知られています。

しかしながら、未だにイスラム過激派によるテロが繰り返される現実を思うときに、宗教への信仰は時に恐ろしい結末を生むということを思い知らされます。

本書の評価ですが、レビューはとても高く、『沈黙-サイレンス』として、マーティン。スコセッシ監督のもと映画化もされており、本書が世界に与えた影響は大きいと思います。

とはいえ、信仰心の薄い私自身は、読んでいて、あまり感じ入ることが少なかった為・・・、

★★★3つの評価にとどまります。

普通って何やろ?と、『コンビニ人間』by村田沙耶香

2019年06月02日 | 小説レビュー
『コンビニ人間』by村田沙耶香

~36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが…。
「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う衝撃作。第155回芥川賞受賞。「BOOK」データベースより


いやぁ~!快作快作!あんまり期待せずに読み始めたんですが、夜中の0:00~2:00までかかって一気読みしてしまいました!土曜日で良かったです(^o^;)

さて皆さん、「これって社会の常識や」とか「それが普通やろ!」とか、我々は日常的に口にしたりしていますが、この本からは「『普通』って何なんや!?」って、頭をガチーン!!と殴られたような、目が覚めたような気持ちになりました。

世界には色んなジャンルのマイノリティがおられますが、そういう異端児って、世の中の多数派からは、自分の物差しの範疇を超えた謎の存在として、敬遠され、遠ざけられたりすることもしばしばあります。

周りを見て、自分と同じような価値観を持っている人といると安心しますし、そうでない人を排除しようとしたりもしますよね。

個性的な人が、その才能を開花させ、例えば芸術面とかで突き抜けてしまうと、「天才や!」、「偉大や!」となる訳です。

例えば、岡本太郎とか、忌野清志郎とか、甲本ヒロトとかね。

ブルーハーツの曲にも「~どこかの偉い人ぉ~テレビで喋ってるぅ~今の若い人には個性がなさすぎるぅ~僕らはそれを観てぇ~一同大笑いぃ~個性があればあるで、押さえつけるくせにぃ~」と。

自分の才能や個性を発揮できる、その道や場所を見つけられた一握りの人は幸せです。もちろん、そこに至るまでの努力の結果なんですけどね。

この物語の主人公である、惠子も小さい頃から「変わった娘」として、家族や同級生、先生からも、その心の裡を中々理解されず生きていて、苦しんだ経験から「自分の考えや言葉を口にすることなく、周りに合わせて自分を押し殺していれば何の問題も起こらない」と、心を閉ざし、コンビニ人間として、与えられた役割を丁寧に一生懸命こなしていきます。

恵子のような人を「自閉症スペクトラム症」と定義付けることが出来るかも知れません。

ネットで調べると・・・、

~アスペルガー症候群と高機能自閉症は、両方とも自閉症スペクトラム症の中に包括される障害です。自閉症スペクトラム症の特徴としては、社会的コミュニケーションにおける困難さや、興味や活動の様式が限定されていることが挙げられます。
アスペルガー症候群は、自閉症スペクトラム症の中でも、言葉や知的の遅れがない(IQ70以上)障害です。
特徴としては、遠まわしな表現や比喩を使った表現、表情やしぐさから相手の感情を読み取ることに困難さがあるため、自分の話ばかりしてしまったり、相手が傷つく言葉を悪気なく伝えてしまったりするなどの困りごとがあるといわれています。
その他にも、一度決まったルーティンが崩れたり、新しい環境へ適応が必要になったりするなど変化に対する抵抗が強くあるともいわれています。

とのこと。


東田直樹さんの『自閉症の僕が跳びはねる理由』を読みましたが、作中に、「出来れば僕らのような人を見かけても、奇異の目を向けないで、そっと見守って欲しい」と書いてありました。

本書の内容は、かなり過激で片寄った登場人物が出てきますが、恵子の周りの人々が色々な立場から話す言葉や、行動に対して、「あぁ~、俺もこっち寄りの考えかも?」と、納得させられてしまいました。

自分は普通の人間だと、思っていますし、恵子のような人がいると、やっぱり距離をおいてしまうかも知れません。

しかし、この本を読んでから、改めて「世の中には色んな人がいはるんやし、自分の価値観での『当たり前』を押し付けたらアカンよな」と思いました。

Amazonのレビューを読んでいると、賛否両論で、特に『否』の方の意見はかなり辛辣ですが、「あぁ~、やっぱりこういう考えて方の人もいはるんやなぁ」と、また考えさせられました。

いずれにしても、とても読みやすい文章ですし、芥川賞とか何とか、先入観なく、色んな人に読んで欲しい作品です。

久々の
★★★★4つです。