環境問題と心の成長 1

2009年06月29日 | 持続可能な社会

*以下は曹洞宗大本山永平寺の『傘松(さんしょう)』誌に連載したものです。、より多くの方に読んでいただきたく、了承を得て、若干訂正を加えて転載するものです。今後徐々に掲載していきたいと思っています。


   環境問題と心の成長 1


 はじめに

 原稿を書きはじめた7月15日(2007年)、大型の第4号台風が多くの被害を残して去っていきました。翌日、7月にこんなに大きな台風が来るのは戦後初めてであり、台風の大型化は地球温暖化によるものだ、と新聞に報道されていました。

 振り返ると、この冬は「記録的暖冬」で、1月に埼玉県でモンシロチョウが飛び、2月に家の近所ではサザンカと一緒にツツジが咲き、3月にはニュースで静岡でクワガタが動き出したといっていました。数年前(?)から繰り返し「記録的~」と報道されています。「記録的猛暑」、「記録的豪雪」、「記録的集中豪雨」、「記録的暖冬」……。

 もう目で見え肌で感じられるところまで気候変動・温暖化は進行しているようです。

 多くの人が「なんとなくおかしい」と感じはじめていますが、それはもはや感じだけの話ではないようです。

4月7日の朝日新聞に、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書の記事がありました。これは、世界各国の数千人もの科学者たちが合意してあえて発信した世界への警告という意味があるようです。

 近未来予測のごく一部を拾ってみると、2020年代には気温上昇幅は0・5~1・2度程度とされており、それに伴って、

・数億人が水不足による被害にさらされる

・サンゴ礁の白化現象が広がる

・生き物の生息域が変化し、森林火災の危険性が増す

・洪水と暴風雨の被害が増える

・栄養不足、下痢、呼吸器疾患、感染症による負担が増える

・熱波、洪水、干ばつにより病気になったり、死亡したりする確率が増える

・感染症を媒介する生物の分布が変わる

・北米では、河川の流量が減り、現在のような水需要は満たせなくなる

といったことが危惧されており、2050年代、2080年代とさらに深刻になると予想されています。

 存知あげている研究者の言葉では、これでもまだ控えめな予測で、もっと深刻な事態も予想しておいたほうがいいのではないか、ということでした。

 項目の中の「洪水と暴風雨の被害が増える」は、「近未来」どころか、この梅雨の雨、第4号台風などですでにはっきりと「現状」になっているのではないでしょうか。

 すでにご存知の方も多いかもしれませんし、今後書かせていただきますが、「環境問題」は「地球温暖化」だけのことではなく、もっと多様で深刻であるようです。

 ある種結論を先に言ってしまえば、そうした現状の中で、環境問題による被害を最小限にとどめるには、私たちすべての最大限の努力が必要で、それには現行の経済至上主義的な社会の価値観を根本的に転換する必要があるのではないか、と私は考えています。

 もう少し言えば、価値観―心を変え、行動を変え、社会のあり方を変えなければ、環境問題は解決しないのではないか、ということです。

 そうしたことを学び、考え、発言しているうちに、福岡の曹洞宗のお寺様とご縁をいただき、そのご紹介で、本誌に2年間連載させていただくことになりました。

 編集部から「最初に自己紹介を」とのことなので、私事めいて恐縮ですが、道元禅師とのご縁と環境問題への関心について、すこしだけ書かせていただきます。


 道元禅師とのご縁

 筆者は、幼年時代からの良寛ファンという意味では、曹洞宗とのご縁は浅くないかもしれません。

 といっても、道元禅師のことをはっきり知ったのは、ちょうど四十年前大学一年生の時、哲学者田辺元の全集を読んでいて、「正法眼蔵の哲学的私観」という文章に出会ってからです。

 当時の私にはとても理解しきれない難解な文章でしたが、「道元という方は大変な人らしい。主著の『正法眼蔵』はすばらしい、しかしものすごくむずかしい本らしい」ということだけはわかりました。

 そしてそれ以来、『正法眼蔵』にいわば憧れ続け、何とか理解したいものだと思いながら学びを続けてきました。

 大学での専攻はキリスト教神学だったのですが、途中から学びの関心がキリスト教よりも禅や京都学派哲学さらに仏教全体に向かい、やがて坐禅もするようになりました。

 加えて深層心理学や臨床心理学、トランスパーソナル心理学、それと並行して仏教の深層心理学という角度から唯識も学びました(そうした学びを通じて、現在、私のなかではキリスト教と仏教の壁はまったくなくなっています)。

 学んでみて、唯識の心理洞察があまりにもみごとなのに驚き、かつそのわりに一般に知られていないのが惜しいという気持ちから、専門研究書としてではなく思想的・心理学的アプローチで『唯識の心理学』(青土社)を書いたのが1990年でした。

 それがきっかけで、さらに唯識関係の本を何冊も書くことになり(『わかる唯識』水書坊、『唯識で自分を変える』すずき出版、『大乗仏教の深層心理学』青土社、『摂大乗論 現代語訳(共訳、コスモスライブラリー)、『唯識のすすめ』NHKライブラリー、『唯識と論理療法』佼成出版社など)、現在では仏教系の大学で「仏教心理論」という講座を担当させていただくなど、唯識の専門家に準ずる扱いをしていただいています。

 そうこうしているうちに、現代的なアプローチからする私の唯識―仏教理解を評価してくださる仏教関係者の方も出てきました。

 特にうれしかったのは、2001年10月、駒澤大学で行なわれた曹洞宗総合研究センターの大会で「日本のコスモロジーの再創造――禅・唯識・ウィルバーを手がかりに」という記念講演をさせていただいたことでした(内容は拙著『コスモロジーの創造』法蔵館の要約)。

 以後、2002年、曹洞宗埼玉県第一宗務所教化研究会、04年、曹洞宗九州管区教化センター設立三十周年記念講演、05年、九州曹洞宗青年会宮崎大会、06年、曹洞宗島根県布教講習会、同夏永平寺での曹洞宗保育連合会保育研修大会など、ほとんど毎年のように曹洞宗関係の集まりで講演させていただき、今回のご縁をいただいた福岡県の曹洞宗のお寺では何度も仏教講演会や法話会にお招きいただいています。

 その間、2004年に、『道元のコスモロジー――『正法眼蔵の核心』(大法輪閣)という本を書き、ようやく自分なりの『正法眼蔵』理解をまとめることができました。

 そういうわけで、長い間、道元禅師―曹洞宗とのご縁をいただいてきた者として、本山の雑誌に書かせていただくのは大変光栄でもあり、とてもうれしく思っています。


 環境問題への関心

 ここ40年近く、私の学びの中核は仏教(特に禅と唯識)と心理学でしたが、さらに加えて、生物学、人類学、宇宙論、脳科学、生態学などの自然科学も関心と必要があってできるだけ学ぶようにしてきました。

 専門領域を超えて様々な分野を学んできた動機は、人生の早い時期から抱えた、「なぜ、人間は死を恐れ、空しさに悩まされるのか」という実存的問題と、「なぜ、人間は戦争や環境破壊という愚かなことをするのか」という社会的問題に対する答えを得たいということでした。

 そして大学生の頃から、その答えは、特定宗教や特定思想、あるいは特定の学問分野だけでは出すことができないのではないかと考えるようになり、できるだけ総合的な学びをすることによって根源的な答えを見出そうとしてきました。

 そういうわけで、私はどの分野についても「専門家(スペシャリスト)」ではないのですが、「ジェネラリスト」と名乗れるほどではないにしてもできるだけ総合的に考えようとしてきたという意味で、環境問題についても専門家の方とは別の視点からできる・しなければならない発言があるのではないかと考え、また活動を続けています。

 特に昨年11月には、元国立環境研究所所長の大井玄先生、国立環境研究所理事の西岡秀三先生、環境問題スペシャリストの小澤徳太郎先生と一緒に、シンポジウム「日本も〈緑の福祉国家〉にしたい!――スウェーデンに学びつつ」を行ない、合わせて私の研究所の雑誌『サングラハ』(第98、90号。唯識の代表的古典の一つ『摂大乗論』のサンスクリット名『マハヤーナ・サングラハ』にちなんでいます)で、まずシンポジスト4名の論集、続いて拙稿「持続可能な社会の条件」を掲載しました。

 現在は、シンポジウムにお集まりの方々との間で形成された合意を受けて「持続可能な国づくりの会」を設立すべく、若いメンバーたちと一緒に活動を行なっています。

 次号から、そうした中で「環境問題をどうするか」、学び考えてきたことを書かせていただき、みなさんからのご意見やご批判もぜひ聞かせていただきたいと願っています。



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