つながりコスモロジーや唯識を伝えると、いくつか特徴的な反応があります。
その中でも、最初の頃、私には不思議だと思えた反応のタイプがあります。
それは、「こういう考え方を受け容れたら、私が私でなくなってしまうような気がする」、「今までの私って何だったんだろうと思ってしまう」というものです。
それまでのものの考え方・コスモロジーでは、人生がむなしく感じられたり、落ち込みがちだったりしていたのに対し、新しいコスモロジーだと、人生が輝いて見えてきたり、元気が出てきたりするのだから、取り替えたほうが自分のためなのはわかりきったことなのに、と思ったのです。
しかしやがて、これは臨床心理学的な目で見れば、十分ありうることだ、ある意味では当たり前だといってもいいくらいだということに気づきました。
私たちは、自分なりの世界観・コスモロジーをもたないでは生きていけません。
たとえ、それが自分をむなしくしたり、落ち込ませたりするものであっても、それがあったお陰で何とかここまでは生きてこられたわけです。
「死にたい」と思わせるものであっても、それでも自分を自分らしく生きさせてくれる、いわば人生のシナリオ、ライフスタイル、アイデンティティだったのです。
それを新しいものに取り替えるということは、それまでの自分を曲がりなりにも支えていたものを手放すということです。
つまり、むなしかった人がむなしくなくなるには、ケースによって、大変なアイデンティティの変更・移行が必要になるのです。
アイデンティティの移行には、しばしばアイデンティティ・クライシス(自己同一性の危機、自分が自分でなくなってしまうのではないかと感じる心理的な危機)が伴います。
転居、転職、失職、老齢化などにはアイデンティティ・クライシスがありがちだということは知っていましたし、場合によっては昇進などまわりからはいいことに思えることにさえクライシスがありうることも知っていました。
しかしうかつなことに、コスモロジーが否定的なものから肯定的なものに移行する時にもクライシスがありうることは予想できていませんでした。
けれどもよく考えてみれば、コスモロジーはアイデンティティのさらに基盤にある心の支えのようなものですから、コスモロジー・クライシスがあっても不思議ではなかったのです。
そこに気づいてから、次のように対処するようになりました。
「それはそうでしょうね。今までそういう考え方で生きてきたんですものね。自分の考え方=自分だという気がして当然ですよね。
……でも、自分の考え方って自分(そのもの)ですか?
考え方って、体験や状況や成長などで変わるものだし、変えられるものですよね。
考えが変わったからといって、自分が自分でなくなったりしますか?
今までの自分ではなくなりますけど、これからの自分も自分ですよね。
そもそも自分って変わるもの、成長したりして変化するものなんじゃないですか?
例えばお母さんのお腹の中にいた頃のあなたと、今のあなたでは、まるで別の生き物くらいに変化・成長してますよね。
それでも、あなたはずっとあなたでしょう?
つまり、自分というのは、変化するもの、変化していいもの、変化するしかないものですよね。
変化すると、どうしても最初はとまどいますけどね、でもすぐに慣れるものでしょう?
で、選べるとしたら、いい方に変化したいですか、悪い方に変化したいですか?
今までの自分のままでいて、ずっとむなしいのと、これからの新しい自分に変わって元気になるのと、どちらがお好きですか?
これまでの私って何だったんだろう? ですか? むなしかったけど、でもガンバって生きてきた私だったんじゃないですか?
ガンバって生きてきたことはちゃんと評価してあげて、それから、でもずっとむなしいのは嫌だからやーめたっ!と。
それで、これからは変化して元気でガンバれる私になればいいんじゃないでしょうか?
コスモロジーを取り換えるだけですべてオーケーになるわけではありませんが、それにしても、これまでのばらばらコスモロジーを信じたままのあなたと、つながりコスモロジーを採用するあなたと、どちらが元気になれそうですか?
そう、つながりコスモロジーを採用したあなたのほうが元気になれそうですよね。
だったら、コスモロジーを換えてもいいんじゃないでしょうか? というか、換えたほうがいいんじゃないでしょうか?
もちろん、最終的に決めるのはあなたですが。」
実際のカウンセリング―納得のプロセスはこんなに直線的にすんなりとは行きませんが、紆余曲折しながらも、最終的にはこういうところに行き着くことがほとんどです。
直接授業を受けたり、まして相談に来ていただいたりできないみなさん、読んで参考にして、ご自分の納得のプロセスに取り組んでみて下さい。
もちろん、納得しない、却下するのもご自由です。
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