『サングラハ』第183号の発行のお知らせの時、「近況と所感」を掲載するのを忘れていました。
問題山積の時代にあって、心が折れないためのヒントになるかと思い、掲載することにしました。参考にしていただけると幸いです。
爽やかだった季節が終わろうとしています。季節は確実に移っていきます。「無常は仏法なり」(道元)。
皆さんはいかがお過ごしですか。お元気でしょうか。
あまり元気の出るニュースのない昨今ですが、それでも生かされて生きている日々は貴重です。生きることが許されている間は、日常をしっかり丁寧に生きたいものです。
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ウクライナのあまりにも厳しい状況のニュースが毎日のように報道されています。私のまわりには、そうしたつらいニュースにずっと触れて、ご自分もとてもつらくなってしまっている方たちも少なくないようです。
そういう方たちが「共感疲労」という言葉を使われるのを聞いて、そういう言葉があることを初めて知りました。
そして「なるほど、実にうまく表現した言葉だな。今そういう気持ちになっている人は多いんだな。それはそうだ」と妙に納得してしまいました。
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それどころか「共感うつ」と表現してもいいくらいになっている方もいるようです。そういう気持ちはよくわかります。共感性が高いというか高すぎる人はそうなりがちです。
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「鈍感力」という言葉もあって、いろいろな出来事に対してあまり強く感じないという気質の人もいるようです。
それから、特に悪げがあるわけではなくごく庶民的に大きなことは自分には関係がないと思って無関心でいることができ、その結果いろいろなことにわりに平気でいられる人もかなり多いように見えます。
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それに対して「HSP(Highly Sensitive Person,繊細すぎる人)」と呼ばれるタイプの気質の人は、ものごとを強く感じすぎて、生きるのがなかなか大変なようです(心理学者のエレイン・アーロンによれば人口の二〇パーセント
くらいいるとのこと)。
筆者もそういう傾向がありましたし、今でもちょっと油断すると外部の状況に影響されてうつ気分になりそうです。
しかし、幸い禅と論理療法を学んだおかげで、「共感うつ」にはならないですんでいます。
すでに著書や講義で皆さんにお伝えしてきましたが、今回改めてポイントをお話ししておくといいと思いました。
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かつて初めて論理療法を学んで「眼からウロコ」だったのは、「共感することと共感しすぎることは同じではない」ということでした。
真面目な人には、「他人の不幸には共感すべきであり、共感して心が乱れるべきである」という思い込み(イラショナル・ビリーフ)がありがちだが、「不幸な人を見た時にするべきことは、その不幸を無くすか軽減するための行動であって、自分も共感しすぎて心が乱れて不幸になることではない」というのです。
「健全な市民にはもちろん適度な共感性は必要だが、共感しすぎて自分まで不幸になるのは、世界に不幸な人を一人増やすだけで、不幸を減らすことにはならない。あなたがすべきことは、不幸を少しでも減らす具体的な行動をす
ることであって、それができないのなら、そのことは忘れて、せめて自分が不幸になるのは避けるように」と。
これだけでは、真面目すぎ、優しすぎ、共感性が過度に高い方には、すぐには納得しにくいかもしれません。
でも、共感しすぎて疲れたりうつになったりするようでしたら、人間として適度な共感の範囲にとどまって、できる行動をすることのほうが有効性があるという理性的な考え方(ラショナル・ビリーフ)に変更することを検討してみていただくといいのではないか、と筆者は思っています(詳しくは拙著『いやな気分の整理学――論理療法入門』NHK生活人新書、P・A・ホーク/拙訳『きっと「うつ」は治る』PHP研究所、どちらも品切れですがネット等の古書で入手可)。
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もう一つ、『坐禅儀』では、冒頭で「大乗の菩薩は坐禅をする時にまずすべての生きとし生けるものを救いたいという大悲心を起こすように」と言っておきながら、そのすぐ後に「諸縁(しょえん)を放捨(ほうしゃ)し万事(ばんじ)を休息(きゅうそく)せよ(さまざまな関わり合いを忘れ去り、すべての俗事を休むように)」と言っていました(第一七六号「六波羅蜜を学ぶ⑹」参照)。
それは、いったんすべてを忘れ休んで、心を静かにし心のエネルギーを取り戻して、それから衆生救済に取りかかるように、ということでした。慈悲は、過度の共感や同情ではなく、具体的な業・行為(カルマ)であり、それには大変なエネルギーが必要で、そのためには十分な休息も必要だということでしたね。
ぜひ、この世(家庭や会社や日本や世界)のトラブルのことを一切忘れて深くやすらぐ時間を確保して、それからまた元気になって(根元である宇宙のエネルギー・気をもらって)、この世でしっかり働いて、最後は迷わず光の国
に帰れるといいですね。引き続きご一緒に精進しましょう。
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