大雪山系遭難 「出発、無謀だった」…生存者証言 7月17日21時55分配信 毎日新聞
登山者が遭難したトムラウシ山(手前)と美瑛岳(後方ほぼ真後ろ。雲で覆われている)=北海道で2009年7月17日午後1時42分、本社機から三村政司撮影
北海道大雪山系トムラウシ山と美瑛岳の遭難は2パーティー、1個人の計10人の死亡が確認され夏山としては過去に例がない大規模遭難となった。夏でも水が凍るといわれる大雪山系で、助かった男性は「寒くて死にそうだった」と振り返る。悪天候の中で予定を強行した判断に疑問を呈する声も上がる中、大雪山をよく知る地元の山岳関係者ですら「これほどの事故は記憶にない」とうめいた。 【関連写真特集 現場地図も】相次ぐ悲報、緊迫する救出の様子…大雪山系遭難
◇下山中ちりぢりに 「午前4時36分、道警ヘリが男女2人を発見」「ヘリに収容、女性は心肺停止、男性は意識不明」--。 遭難の一報から12時間余りが経過した17日午前4時40分。
前日の暴風雨が静まったトムラウシ山登山口(新得町)の現地対策本部では、無線から切迫した声が次々と流れた。「これはダメかもしれない」。救助隊を指揮する西十勝消防組合の幹部がつぶやいた。 約10分後、無線で伝えられた男女2人のうち、女性を収容したヘリが登山口の空き地に着陸。ヤッケを着て、フードを頭からスッポリとかぶった女性が道警の機動隊員に抱きかかえられて降ろされ、待機していた救急車へ。両足はダラリと垂れ下がり、目は閉じたまま。顔は血の気がなく、真っ白だった。
続いて別のヘリが、登山道で救助した女性を乗せて着陸。女性は報道陣のカメラの放列を避けるように小走りで道警が用意したワゴン車に乗り込んだ。 大雪山系は標高2000メートル級が続く。1500メートルを超えると大きな木は生えないため、強風が吹くと遮るものがない。
今回のツアー客も強い風雨にさらされ、体感温度が一気に低下したとみられる。救助に出動した新得山岳会の小西則幸事務局長は「大雪山系では夏でも水が凍るほど気温が下がり、しっかりとした装備が必要。
テントを持たず、山小屋を利用する縦走では小屋の設置場所が限られているため、どうしても行程に無理が生じる。こうしたことに悪天候が重なり、事故を招いてしまったのではないか」と推測する。
悪天候の中で登山に踏み切ったガイドの判断ミスを指摘する声も上がった。午前4時半ごろに下山したツアー客の戸田新介さん(65)=愛知県清須市=はヒサゴ沼避難小屋を出発する時、風が強いと感じたといい、「ガイドは出発すると判断したが、無謀だと思った」と話す。
遭難時の様子については、「ガイド1人が付き添って下山を始めたが、ペースが速すぎてちりぢりになってしまった」という。 一方、美瑛岳では午前6時半、1人の遺体がヘリで収容された。
その後、下山した女性は「とにかく寒かった」とぽつり。「後はガイドに聞いてください」と言うと無言だった。
◇遺体安置所で悲しみの対面 トムラウシ山で死亡した9人の遺体が安置された北海道新得町の町民体育館では17日、遺族が続々と訪れ、変わり果てた身内の姿に対面した。
午後7時過ぎには、死亡した3人の遺族7人を乗せたバスが到着。登山ツアーを企画したアミューズトラベルの松下政市社長が「かかる事態を引き起こし誠に申し訳ありません」と陳謝したが、遺族はみんな無言のまま、悲しみをこらえていた様子だったという。【金子淳】