写生自在5 颱 風4句
颱風の昼餉の膳に蠅黒く 迦 南
颱風の中に折々時計を見 〃
颱風の厨にゐたる余所の猫 〃
颱風が味噌甕を持ち去らうとは 〃
鹿児島時代の句ですから昭和19年秋に詠まれたものと思われます。颱風の接近から過ぎ去るまでを時系列的に詠んでいます。
まず食物にたかる蠅を描出することで台風接近の不気味な不安感を表現しています。蠅が利いている。
次に颱風が吹き荒れている最中の心理描写、これもお見事というほかありません。「折々時計を見」という行為は誰しも経験があるのではないでしょうか。自然の猛威の中における人の無力感を余すところなく表現しています。
三句目は、そこに猫を点出することで、奇妙なる可笑しみと同時に少しばかり安心感も漂い、さらに運命共同体的な連帯感までも具象化されています。
四句目は颱風が過ぎ去った後の安堵感を水甕で表現して、これまた過不足がありません。住宅にも相応の被害があったことでしょうが、それを細かく云わないで味噌甕に代表させて的確です。
横井迦南の魅力は写生眼の鋭さと表現伎倆の確かさにあり、事象の本質に触れているので句が古びません。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます