・・・安部川町の色酒にはまり其上旅役者華水多羅四郎が抱の鼻之助といへるに打込み、こ
の道に孝行ものとて黄金の釜を掘いだせし心地して、悦び戯気(たわけ)のありたけを尽
し、はてハ身代にまで途方もなき穴を掘明て留度なく、尻の仕舞ハ若衆とふたり尻に帆かけ
て府中の町を欠落するとて
借金は富士の山ほどあるゆへにそこで夜逃げを駿河ものかな
本文にこのように書いてあるのですから、弥次郎兵衛、喜多八が念者と若衆の間柄であ
ったこと、すなわち男色関係だったことがわかります。「黄金の釜」、「尻の仕舞」、「尻
に帆かけて」等皆男色の縁語です。こういう設定の小説がとくに違和感もなく受け入れら
て、大いに読まれたというところがおもしろいです。かってこの国にそういう文化が存在し
て、それがけして異端ではなかったというのは何かふしぎな気がします。
現代社会はLGBT一つ取ってみても本音と建て前に大きな乖離があってなかなか解決できな
いでいます。さて、江戸へ欠落ちした弥次郎兵衛、喜多八は神田八丁堀の借家で暮らすこと
になりますが、有り金を遣い果たしてしまい男色関係は自然消滅します。
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