山崎久夫／ものづくり中部の革新者たちⅢ

2022-10-10 06:40:45 | ものづくり・まちづくり

ものづくり中部の革新者たちⅢ　より　山崎久夫を紹介します。

去る2022（令和４）年９月10日（土）に名古屋都市センター（金山南ビル内）　11階「まちづくり広場・企画展示コーナー」で行われた、第17回パネル展での学びを振り返ります。

ここから　http://csih.sakura.ne.jp/panerutenn.html

今回は、山崎久夫　信州・諏訪を東洋のスイスに　－諏訪精工舎で世界一の腕時計をつくる-　

ものづくり中部の革新者たち Ⅲ

1. 革新実業家 (21)

山崎久夫 (1904~ 1963)

■　上諏訪に生まれ、東京で服部時計店に勤め、震災で帰郷
山崎久夫は1904(明治37) 年6月15日に長野県上諏訪町で山崎屋時計店を営んでいた父常次郎、母たけの四人きょうだいの次男として生まれ、長男は天逝したのでただ一人の男の子として育てられた。尋常高等小学校を卒業する際に黒板に「時計王、服部金太郎」と大書きして、将来の夢を披歴している。服部金太郎は服部時計店を開業し、業務拡大に伴い店舗を銀座表通りに移転させ、製造工場「精工舎」を設立していた。親類縁者の□ききもあり、久夫は服部時計店に奉公することになったが、 4年を経た 1923(大正12)年9月に関東大震災が起こって帰郷した。 20歳で山崎屋時計店の店主となり、卓越した商才で店を発展させ、 1936 (昭和11)年に当時諏訪地方で一番の商店街だった本町に進出を果たした。この頃から戦時経済統制が厳しくなり、時計業も影響を受け、店の経営も危うくなってきた。そんな折、奉公先であった服部時計店に仕事を請うと、設立して間もない第二精工舎から時計の組み立ての依頼があった。 1940年に店舗の二階を改造して作業場を作り、わずかな従業員と近所の女性だけで腕時計の組み立てを開始した。

■大和工業の操業一味噌蔵からの出発

1941(昭和16)年に上諏訪町と周囲の村が合併し、諏訪市が誕生したが、基幹産業の製糸業が衰退しており、それに代わる新しい産業が求められていた。山崎は初代市長の宮坂伊兵衛を巻き込んで、 1942年5月に味噌蔵を改造した第二精工舎協力工場「有限会社大和工業」を設立するに至った。総勢22人による時計部品製造の下請け仕事が始まった。戦局が激しくなり、 1944年に第二精工舎は諏訪にも約180名の従業員とともに疎開してきた。敗戦後、大和工業と第二精工舎諏訪工場はいち早く生産を再開し、1946年1月
に婦人用腕時計“女持五型” を生み出している。この時期、工場長の山崎は疎開していた従業員の食料確保そして住宅確保に奔走した。そうした山崎の若い技術者やベテラン技能者に諏訪に残って欲しいという熱意にほだされて30数名が残り、諏訪に時計産業を根付かせるきっかけとなった。

■諏訪を東洋のスイスに

諏訪では 1956(昭和31)年6月に機械式腕時計の集大成といえる高精度の男子用腕時計“マーベル”が完成し、大ヒット商品となっていった。 1959年5月に大和工業が第二精工舎から第二精工舎諏訪工場の事業を譲受して、「諏訪精工舎」が誕生した。代表取締役に就いた山崎を、誰も「社長」ではなく、親しみをこめて「場長」と呼んだ。電子式クオーツ腕時計開発の途上の1963年4月8日に山崎は58歳で逝った。 1969年12月25日に世界初のクオーツ腕時計“セイコークオーツアストロン35SQ” が発表され、山崎の悲願は達成された。諏訪はスイスを越えた。
(黒田光太郎)

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