哲学チャンネルより ロールズの正義論とリベラリズム【正義と善#6】を紹介します。
ここから https://www.youtube.com/watch?v=iGsiTNhTqhI
動画の書き起こし版です。
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ジョン・ロールズはアメリカの政治哲学者です。 1971年に出版された【正義論】をはじめ、 彼の思想は政治や倫理学に大きな影響を与えました。 特に、リベラリズムを語る上で ロールズの思想を無視することは出来ないでしょう。 以前に紹介した『ノーラン・チャート』によると、 【リベラル】の特徴は個人の自由の重視と経済の自由の軽視でした。 個人の自由は最大限に尊重すべきという立場ではあるものの 市場への国家の介入には積極的です。 どのような理論でその立場を打ち出しているのでしょうか? ロールズは前提として『多数決では真の平等は実現されない』と考えました。 それぞれの個人はそれぞれの利害・道徳観・宗教的信条・社会的地位を持っています。 このような状況においてなされた契約〜例えば法律、最たるものは憲法〜 それ自体が道徳になることはありえないと主張します。 ちなみにカントも同じように考えていたようです。 ロックをはじめとする社会契約論者は『合法的な政府』を 『人々がどこかの段階で自分たちの生活を律する原理として定めた 社会契約によって生じる』と主張します。 それに対しカントはそのような社会契約が事実として(文面としてと捉えてもよい) 存在することはありえないとします。 一方で国民全体が同意するような【仮想上の契約(または根源的契約)】はありうると考えます。 この【仮想上の契約】を追求したのがロールズです。 彼はこう考えます。 「正義とは何かを考えるためには、平等の原初状態において 人々がどのような原理に同意するのかを問う必要がある」 この理論を元に【無知のヴェール】という思考実験を提示しました。 ある共同体の生活を律する社会契約を結ぶために人々が集まったとします。 彼らはどのような原理を選択するでしょうか? おそらくなかなか意見はまとまらないはずです。 それぞれに違う立場があるため、支持する原理は自ずと偏ります。 妥協案を作ってそれに全員が同意したとしても そこにはおそらく権力を持っている人間の思惑が働いているでしょう。 では、この会議のはじめに参加した人々に【無知のヴェール】を被せたと想像してみてください。 【無知のヴェール】を被ると、一時的に自分が何者なのかわからなくなります。 自分の地位も、性別も、人種も、民族も、健康状態も、精神状態も。 何もかもの情報を失うとします。 このとき、議論の結果はどうなるでしょうか? もし全員がその状態であれば、そこで同意された原則は 平等と正義にかなうものなはずであるとロールズは考えました。 これを『平等の原初状態における仮説的な同意』と表現しますが カントの仮想上の契約とほとんど同義だと解釈しています。 ロールズはまず、功利主義的な原理は選ばれないと考えます。 功利主義的な原理は(全体の幸福のために)少数派の自由を束縛する可能性があります。 もしかしたら自分がその少数派に含まれるかもしれないので この原理に同意することは難しいのです。 また、リバタリアニズムの原理も選ばれないと考えます。 自由競争の原理においては、弱者が自己責任論を盾に切り捨てられる傾向があります。 自分がその社会的弱者ではないという確信が持てない状況においては この原理にも賛同しかねるでしょう。 この思考実験から導き出される原理が2つあります。 一つは【基本的自由】です。 どんな立場の人であってもその人の基本的な自由が守られるべきである。 もう一つは【格差原理】です。 仮に世の中に不平等があるのならば、その不平等は 『社会的に最も不遇な立場にある人々の利益になる』 場合においてのみ認められる。という考え方です。 これは、所得や富の平等な分配を求める共産主義的な考えではありません。 例えば、医師に高給を支払うことによって 社会全体の医療水準が上がり、不遇な立場の人にまで医療が行き届くのであれば、それは是です。 一方で、医師が高給をもらいながら、お金持ち相手の 美容整形ばかりに集中するならば、これは許されない格差です。 簡単に言えば『弱者を助ける格差のみ許容される』ということですね。 この考え方は、実際の法律などよりも限りなく平等に近い感じがします。 しかし、問題もあります。 社会的弱者を助ける『社会的強者』の義務の問題です。 仮に、努力して社会的強者になった人と 努力しないで社会的弱者になった人がいたとして 社会的強者は、それでも弱者を救う義務があるのでしょうか? ロールズはその義務はあると答えます。 次回はこの問題に答える【道徳的恣意性】と リベラリズムに対するサンデルの批判について 紹介したいと思います。 以上です。