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エンペドクレスは現在のイタリアで生まれ、 ピタゴラス学派やパルメニデスから指導を受け 様々な学問に精通していました。 例えば今から2000年以上前の文明において 音は耳の内部の軟骨質が空気によって振動することで聞こえると 聴覚の仕組みを予想するなど控えめに言って天才でした。 また、街を強風が襲った際に 人々にロバの皮で革袋を作らせ周囲の山の尾根に張り巡らせることで 強風を鎮め『風を封じる人』と崇められたり、 汚染された川による疫病で悩む住人のために 私財を投げ打って土木工事を行い、隣の川から水を引くことで 汚染を中和させたり 非常に能力があっただけではなく、 正義感にあふれた、素晴らしい人物だったと言われています。 ときにはその正義感が行きすぎることもあり エンペドクレスが誘われた飲み会で、同席した偉い身分の人が 周りにお酒の一気飲みを強要したことに怒りを覚え、 翌日法廷に告発してその人を死刑にしてしまったこともありました。 一気飲みはダメだけど、死刑って・・・ そんなエンペドクレスですが、 彼にはやらなければならない重大な仕事がありました。 それがヘラクレイトスとパルメニデスの考えの融合です。 ヘラクレイトスのパンタレイ 万物は変化を続け世界を作っている という説と、 パルメニデスのト・エオン 万物は不生不滅で不変不動だ という考え 両者は真っ向から対立してしまっていましたが、 ヘラクレイトスの考えは感覚的にはとても正しいように思うし パルメニデスの考えは論理的にはとても正しいように思えるので どちらが正しいかというよりも、 両方の考えを融合させることが求められていたのです。 そこでエンペドクレスは タレスから始まる自然哲学者たちが 万物は何々である。と万物の根元をあるものに求めたのは一定の評価ができるが それをそのものだけに限定したのが間違いだったのではないかと考えました。 つまり、タレスは『万物の始原は水である』と説きましたが そうすると水と反対の性質を持つ火についてうまく説明ができなくなってしまう。 それこそ、ヘラクレイトスが言うように、水が急に火になる。のような 飛躍した説明が必要になってしまうのです。 そしてエンペドクレスはついに万物の始原は 『水・空気・火・土』の四元素である。 と言う結論に至ります。 言い換えるとパルメニデスの言う 『ト・エオン』が『水・空気・火・土』の四元素なのです。 これらの存在は不生不滅であるため、急に他のものに変わったり 生まれたり消えたりすることはありません。 常にそこにあるし、これからもそこにあるのです。 そして、この四元素が互いにくっついたり離れたりすることで 様々な変化を生じさせている。と説いたのです。 これにより、運動についての論理が若干無視されているものの ヘラクレイトスとパルメニデスの考えが融合されたことになります。 万物の根元には『ただあるもの』があり、 それは生まれも消えもしない永遠のものである。 そして、それらが混合と分離を繰り返すことで 世界に変化が生まれ、世界を構成している。 こう考えると、しっくりきますよね。 そしてさらにエンペドクレスは それらの根元達は引力と斥力でもって くっついたり離れたりしていると言いました。 引力のことを愛。斥力のことを争いと表現したのは ヘラクレイトスの影響も大きいと思います。 いよいよ古代ギリシア哲学もあるゴールに近づいてきました。 神話の世界から万物の根元を探し始め、 数々の天才が議論を交わしていくことで 顕微鏡もない時代に、世界は特定のものが混合したり離れたりすることで 構成されている。 と言う、現代の我々にもある程度理解できるところまでたどり着いたのです。 ちなみに、エンペドクレスは汚染された川から街を救った際に 住人から神と崇められ、それに気を良くしたのか、 自分が神だと証明するために火山の火口に飛び込み、 そのまま死んでしまったと伝えられています。 古代ギリシアの哲学者は本当に天才かつ変人揃いで、 もしかしたらこれすらも神話なのではないかと疑ってしまいますね。