小学館 ウィーンフィル魅惑の名曲Vol.12は、ロリン・マゼール「悲愴」「ロメジュリ」を聴き直しました。
ロリン・マゼールは、ラフマニノフ交響曲第2番を聴いてから好きになりました。
サイモン・ラトルらの演奏とは全く別の曲に聞こえるほど、甘美で情念たっぷりで、病明けのラフマニノフの心を読み切った演奏だったからです。
ヴァイオリニストらしく情熱的で、なおかつ計算し尽くされた緻密さ。
すごい指揮者だと思います。
今回は、そのマゼールの「悲愴」(チャイコフスキー作曲 交響曲 第6番 ロ短調 作品74)。
誰がなんと言おうと名曲中の名曲です。
マゼールが「悲愴」をどう振るか、これも今回の企画で最も楽しみな1枚の一つでした。
しかも、1964年、34歳の演奏です。
マゼールは天才です。
なんと、8歳でニューヨーク・フィルを指揮してデビュー、以後9歳でフィラデルフィア管弦楽団、11歳でNBC交響楽団を指揮しました。10代半ばまでに全米のほとんどのメジャー・オーケストラを指揮しているのです。
1回だけなら単なる見せ物かもしれませんが、これだけ振るのは何かがあるのでしょう。
その後も、30歳でバイロイト音楽祭、33歳でザルツブルク音楽祭にデビューしています。ウィーン・フィルでも、33歳からレコーディングを始めています。
そのような中での「悲愴」なのです。
頑固な団員が多いウィーン・フィルが、アメリカから鳴り物入りで来た若いマゼールを大歓迎したとは、私には思えません。
おそらく、反感もあっただろうと、諸石さんも解説で書いています。
しかし、この「悲愴」は見事です。
音量を上げて聴くと、痛い程の切れ味、スピード感があります。造形美も確かで、甘美な表現は当時から健在です。
ブラスセクションは、今なら「やり過ぎ」と言われる程鳴り響いていますが、それを引き出しているのがマゼールなのです。
しかも、弦は異常と思える程の早さ。これもマゼールが引き出しているのです。
怖いもの見たさに、ぜひ大音量で聴いてみてください。