私がウォーキングの支度を始めると、ルンバも嫌味だと思うが自分も着替え始める。
私が耐えきれなくなった時の一秒を争う「警報」に対処するためだ。
だから家を出る前に必ず予定のウォーキングルートを伝える。
「緊急警報、よつ葉」と発信しただけで、ルンバはよつ葉横の道まで救急車のように迎えに来てくれるし、「シマヤ」と云えば空地になったコンビニ跡へ飛んでくる。
今日は何故か調子が良い。距離を長く感じないので2.4キロ地点を200m延ばし、
2.6キロ地点までウォークし、帰りは同じルートをジョギング。
玄関前まで走り切り、汗を拭きながら居間へ入ると、ルンバは嫌味半分で「警報解除」の着替えを始める。
今日は小言を浴びた。
「テイッシュ持って歩いてガマン出来なくなったら野●●すれば・・・・」と云う。
ワンコでさえ飼い主がウ●コを始末する時代なのに私に野●●を推奨する飼い主・・・・・じゃなかった家内。
実は私のウエストバッグにはスマホの裏側に緊急用に「トイレで流せるテイッシュ」は入っている。
人とあまり出会う事の無い道なので木陰で「小」をすることが多いのも事実だ。
「それなら大だって出来るでしょう」と云うのだが、既に葉が落ち枝だけになった車道との境目に植えられている針葉樹に死角はない。
「それなら虫でも見つけたフリしたら?」なんて云うのだが零下になることも多いのに虫がウロウロしているはずがない。
あまりに傲慢なので私は彼女に胸を張って打ち明けた。
「実は、既に記憶しているだけで三ケ所の塚がある」
「塚?」
「そうだ、俺の築いた塚だ。市内に二ケ所と市外にもう一ケ所。今度案内してやる」
彼女は急に威圧的な態度を捨て、言葉を発することなく部屋から消えた。
今日、借りていた本の返却日だと知ったのは二日前。
飛ばし読みして、何とか借りていた本を読破。
苦労して言葉を選び、書いた作家さんには申し訳ないが、袋に入れて玄関を出た。
途端に浴びた冷気と強風。
吹き飛んだハゲ隠し用のキャップを拾い上げ、頭に載せるのを諦めて車のヒーターを最大にした。
車のインパネで確認したが、外気温は0℃。
そんな気温の中でも根性のある人はウォーキングしていた。
私もこの冬は雪が降ってもウォーキングを頑張るぞと決めていたのだけれど、(チョット無理かも)と云う気弱な悪魔が心の中で大きく膨らんだ。
市内にいくつかある図書館の分館へ行き本を返却。
一応書棚を確認したが借りたかった本が無いのはネットで確認済だったので、
その本がある少し遠い分館を目指してハンドルを握った。
いつも思うのだが図書館には爺ちゃんが多い。婆ちゃんの5倍はいるように思う。
爺ちゃんは独りで椅子に座り新聞や雑誌を読み、時を潰している。
定年を過ぎて給料を入れなくなった爺ちゃんの居場所が家には無いのだろう。
きっとパチンコへ行くか図書館へ行くしか無いのだ。
婆ちゃんは集う。
どう云う仲間かは知らないが皆笑顔で図書館の入っている建物の別室へ行きダンスを楽しみ大声で歌う。
そして、申し合わせたように旦那の悪口を云っては憂さ晴らしをして笑っているようだ。
「帰宅して、爺ちゃんって可哀相だ」とルンバへ報告したら
「お父さんは、どうなのさ」と云われた。
考えてみたら私も爺ちゃんだ。車には高齢者マークを貼っている。
「俺はねぇ・・・・・霞。霊のような存在。」
「ナニソレ」と云われたが
「視線を合わせないようにしている。目立たないようにしている。息を殺している。屁だって遠慮して限りなく無音」
それを聞いた女王様の豪快な笑い声が家を揺らした。
二週間に一度、イボ取りの為に皮膚科へ通っている。
一か所だけなら、忘れることは無いのだが、顔だけで4か所もあるのでカルテに位置が全て書いてあるわけではなく私が示した場所に液体窒素をシュッと噴霧してくれるのだが、前回は頭皮にもイボらしきものがあるのでそれを忘れないようにしようと思っていた為、鼻にシュッしてもらうのを忘れた。
今度は忘れないように工夫しようと思ったのだが、何しろ絵が苦手。
それで文章に書くしか無いのだが、これがまた大変だ。
どう書けば良いのかが難しい。
数日前、入浴しながら他にもイボが無いかと探したら首の周りと肩近くに10個ぐらいあるのを見つけた。
これを全部忘れずに云うのは難しいけれど云わねばならない。
そして今日、入浴しながら再確認していたら何と肛門様から3センチ程離れた所に少し大きいのが一つあるのを見つけた。
先ず家内にイボなのかを確認してもらおうと入浴後パンツを横にずらして覗き込んで貰ったが照明が届かず見えないらしい。
それで灯りの届くように両脚をパッカンし、まるで「犬神家の一族」を彷彿させるようなポーズで肛門様やお玉ちゃんが見えないようにパンツをずらしたら娘も一緒に覗き込んできた。
家族とはいえ二人の女に恥部を覗き込まれ頬を染めている私。
あのねぇ・・・・・けっこう恥ずかしい。
突然、学生時代の同級生から写真入のLINEが入った。
写っていたのは3組の御夫婦。白川郷を観光している様子。
2組は直ぐに誰か分かった。
Iクンはかなり偉い。教授になり国から勲章を授与された優等生だ。
仕事でも私の街に来たし奥さんを連れて観光にも来てくれて摩周湖や屈斜路湖を案内した。
冷風が吹く中、気遣いしたつもりのルンバが名物のソフトクリームを突然買ってきて凍えるような目に合わせてしまった被害者でもある。
北海道人は真冬でも寒くてもアイスを食べるのは珍百景的な北海道アルアルなのだ。
今頃謝っても遅いけれど・・・・・・ゴメン(笑)
もう一組は、LINEでこの写真を送ってくれたKクンだ。奥様共々登山が趣味で私には無理な雌阿寒岳の山頂にも上がった。
時間が無い中、あまりオススメではない豚丼を一緒に食べたのだが美味しいと云ってくれたのを実は申し訳なく思っている。
今度来てくれたら、もっと美味しい豚丼とか海鮮丼をご馳走しようと密かに思っている。
新コロナの前に京都へ行ったときは、奥様が案内してくれたハンバーグの名店が行列で入るのを諦め、代わりに有名な焼き肉店へ連れて行ってもらった。
私はご馳走して貰った方は忘れない。しっかり記憶に収めているのだ。
問題はもう一組のご夫婦だ。
誰? 誰なの?
その回答は直ぐ届いた。
なんとYクンらしい。
卒業後に車中泊旅行をしていた時にフラリと家へ立ち寄った事のあるYクンの現在?
奥様とも面識はあるのだが・・・・・・ジックリ見てもYクンには見えない。
膨らみ過ぎている。時の流れとは恐ろしいものだ。
今日イオンへ行き、家内と食品売場をウロウロしていたら突然「●●さんですよね」と声が掛かった。
(誰?)と思ったが「Hです、お久しぶりです」と云われ「あぁ・・・・元気だった?」と挨拶したものの誰だか判らない。
店内で遠くから視線を合わさぬようにチラ見を繰り返したのだけれど、思い出せない。
それより、顔の色々な部品が垂れている私をよく見分けられたと、それが不思議だ。
ねぇHクン・・・・・アンタ・・・・・・誰?