硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

虚構物語

2016-04-03 17:29:35 | 日記
とても長い時間だった。どれほど漂ったか忘れてしまうほどの長い時間だった。私はようやく彼らを見つけ、彼らの元に舞い降り、人生で最も幸福な時間を過ごした。
溺れるようなぬくもりに包まれた私はそこに愛がある事を疑わなかった。
しかし、時間が経つにつれ、私とは違う自我が自覚し始め、私を忘れ去ろうとしているように感じた私は私であり続けようと何度も抵抗したが手足を動かす感覚は次第に私のものではなくなっていった。
それでも私は、彼女が苦しむ度に、注がれる愛情の濁り感じ、不安を覚え、新しい自我に働きかけようとしたが、新しい自我は彼女の感情に対して無知だったから、私はなす術がなかった。でも、私はこう考えた、ここからは新しい自我の人生なのだから、私は傍観者として新しい自我の深層で見守ろうと。

時期は訪れ、私はこの自我の深層へ向かった。新しい自我は彼女の力を借りて、最も幸福な場所から離れようと自身の生命力を試すように全身を使って彼女から出た。私はその瞬間に消えるはずだったが、私を抱えた彼女が困惑しているのが分かると、私の自我は急に目ざめ、新たな自我がどこかに消えた。私は気が動転し、これはどうしたことかと叫んだ。すると彼女の手は一層冷たくなり、表情も後悔の念と悲しみに満ちていった。

冷たい手に抱きかかえられた新たな肉体を得た私は無力だった。彼女は現実を否定し私を冷たい水に沈めた。私は抵抗する事も出来ずただ苦しみの中で、再び、あの長い時間の中で漂わねばならない事を思い出し、彼女の理不尽さに怒りと恐怖を覚えた。

すると、薄れゆく自我の中に女性が現れ私に言った。

「私と同じ苦しみを味わうがいい。悔しければ、あの女を呪うがいい」

私は気づいた。私は同じように女性の命を奪ったのだと。