硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

グレート・ジャーニー

2023-12-30 21:30:39 | 日記
職業柄、様々な人に出会う。そして、時頼会話が弾む。
人と話す事はあまり得意ではないけれど、話の波長が合う人とは、楽しい会話になったりもする。
そんな中で、今年、一番印象深く記憶に残った人との対話を細心の注意を払いつつ、ここに留めておこうと思う。

その人は成人女性の既婚者である。しかし、容姿から日本人ではない事は分かったので、「どちらからみえたのですか? 」と問うと「ブラジルです」と穏やかに答えた。
すぐに合点がいったので、会話の続きで「ブラジル人なんですか? 」と問うてみると「ブラジル人ではないです。純粋なブラジル人て、あまりいないんですよ」ときっぱり。

日本から出た事のない者の感覚は、彼女のような人のアイデンティティを推し量る事を怠ってしまう。これは愚門だと気づき、「そうですよね。歴史をさかのぼれば、スペインとポルトガルに侵略されたのですものね」と返事をすると、彼女は向日葵のような笑顔をたたえ自身のルーツを語りだした。

彼女の祖父は黒人で、アフリカからフランスへ移住し、さらにブラジルへ渡ってきたのだという。そして、ブラジルで知り合った女性と結婚。子供を産み育てた。
その子は大人になると、日本から移住してきた人の子供と出会い、結婚。それが彼女のご両親で、彼女が3歳の時、豊かさを求めて先人の伝手を辿って来日したのだという。

その頃の彼女はまだ記憶が鮮明でなく、ブラジルでの生活は全く覚えておらず、大人になってからブラジルを訪れた時には、帰郷というより観光だったといい、生活してゆくなら「やっぱり日本がいい」と言って微笑んだ。

現在の彼女は素敵な日本人の男性と知り合い(初めて出逢った時、「私はこの人と結婚するんだ」と思ったそうである。なんて素敵なエピソードなんだろうと感激した)結婚し、妊娠が分かった時、旦那さんに「おじいさんが黒人だから、遺伝で黒人の子供が生まれるかもしれないよ」と告げると、寛容な旦那さんは「いいんじゃない」と答えたという。(お子さんは彼女の遺伝を強く引き継いでいた。)
それを聞いて、出逢うべき人に巡り合えたんだなと思ったが、それでも、生活様式や文化の違いに違和感を覚えるはずであるし、旦那さんは良くても旦那さんのご両親はどう思っているのだろうかと思い「旦那さんのご両親は戸惑いませんでしたか? 」と尋ねると、旦那さんのご両親も、オープンマインドの方でむしろ歓迎されたのだという。
閉鎖的な田舎町の感覚に縛られてきた僕は、驚きと、自分の視野の狭さを恥じ入るとともに、旦那さんのご両親も、日本の違う土地からこの地にやってきて、一から生活の基盤を作られたのだろうなと思った。

さらに驚くべきことは、彼女は日本人よりも上手く日本語を話し、ご両親とはポルトガル語で対話し、ポルトガル語の夢を見るマインドを持っているので、同郷のコミュニティでは通訳を買って出ているのだという。

ほんとうに素敵な女性である。

話はされなかったけれども、幾多の困難にであったであろうことは想像に難しくない。
しかし、彼女はそれ以上にバイタリティの溢れる人だった。

そんな彼女の大きな愛に包まれている幼子も、いつか、きっと国境を越えてゆく人になるのだろうなと思った。