すずめ休憩室

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気の向くままにつづってみました。

「YASHA」と「イブの眠り」

2007年06月29日 | 漫画・本
「YASHA」「イブの眠り」 吉田秋生 著 小学館

「YASHA」はけいさんから、「イブの眠り」は夜さんからお借りしました~いつもありがとうございます

沖縄の離島で母と2人で静かに暮らした居た少年・有末静。それはある日突如として破られることとなる。謎の男たちに母を殺され、誘拐された静が連れて行かれたところはアメリカのある遺伝子研究施設だった。6年の時を経て再び日本へ戻ることとなった静。彼はそこでもう1人の自分と同じ顔をした青年と出会うこととなるのだが・・・。

さて、読んで一番最初に思ったのが
「吉田秋生という人は何処まで成長をし続ける人なのだろう・・・」ということ

「BANANAFISH」「カルフォルニア物語」・・・吉田さんの作品は多々あれど、私はこの「YASHA」が一番面白く感じましたね~

主人公・静は遺伝子操作による代理出産で生まれ、既存人類を超越した能力を持っているのですが、それを利用しようとする一部の支配者と彼らによる選民意識という悪意・・フィクションだけど、妙に現実味を帯びています。だって某国では人の遺伝子を使ったクローン実験に成功していますし、日本も少子高齢化による財源不足は深刻な問題ですもんね~
絶対そんなことはあってはならないけど・・・・でももしヒトラーの様な選民意識が強いカリスマ指導者がいたら???

ちょっと想像すると、全くありえない!!とも言い切れないような気がするのです
この世界が隠し持っているかもしれないそんな負の可能性をバッサリと抉り出された気分

いつも思うのですが、吉田さんって方、漫画のプロットを起こす時、どうやっているんでしょうね~
この構成力というか、細部にまで徹底したリアリティの持たせ方が、一見突拍子も無い話に見えても、読み手により現実味を持たせてくれているように感じます

「YASHA」の中でもインフルエンザに似たウィルスの存在がクローズアップされていますが、
例えば凛の陰謀によって、殺人ウィルスに曝露した人たちを助けようとする場面

血清とは人間の血を容器に入れ放置しておくと細胞成分や凝固成分と分離し出来る上澄みのことで、これに免疫抗体が含まれているのですが、あの殺人ウィルスはもともとは静たち新人類の遺伝子操作の中で生まれたもの。静や凛が発病しないということは彼らの体の中には、既にこれらに対する抗体があるということでもあります。

茂市たちが人類が未知のウィルスに感染したとき、ただ「治療薬が無くて助けられなかった」と終わらせるのではなく、具体的に対処法に静の血でこの血清治療を・・という1つ掘り進んだものにしたり、その血を採血する事となった今井さんの「躊躇い」が後に大きな意味を持つところなど、1つのシーン、1つの行動が実に見事に次への繋がっているなーと

そして何より、静と凛の対比
同じ遺伝子、同じ姿と同じ能力をもちながら、全く違う二人。。。
そして続編「イブの眠り」に出てくる「死屍」

愛情というものが人間形成にどれだけの影響を与えるか、そして究極の局面に相対した時、強みとなるものは何なのか・・・色々考えさせられる作品でした

ただ「イブの眠り」の方ですが・・・・
作品としてはとても素晴らしい纏め方だし、「遺伝子」というものを題材にしている以上、読者の気になるトコロ(静に繋がる肉親)を掘り下げている

のだけど・・・やはり静のあの姿はショックだったわ~

ああいう思いきったことが出来るのも吉田さんの凄さなのかもね